表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ジオラマ  作者: 彁はるこ
六章 物置き部屋のジオラマ
26/33

第5話 異世界七不思議は二の次で

「七不思議のミニチュア……異界電話(いかいでんわ)のミニチュアって、この部屋にしまってたよな?」


 ホラーに触発されて作ったミニチュアのひとつ――七不思議『異界と繋がる電話』

 元設定は死者と話せる不思議な電話って設定だけど、きっと異世界ジオラマでは都合良くなってくれるはずだ。

 なぜなら、異界電話ミニチュアを見た某異種族恋愛大好き友人が……


「この設定貸してくれ! 新刊のネタにしたいです! スペシャルサンクスで名前出すし、今度いいメシ(おご)るから!」


 と大興奮し、不思議な電話を通じて愛を育む人外神様と女子高生のラブストーリーを描いたからだ。


「本の中だと、最後のほうは好きな人と繋がる電話って感じになったもんな。なら、追加設定みたいな感じでうまくこう……なんとかなるだろ!」


 本ではある理由から、離れ離れになった二人を異界電話が繋げた。

 本を読んだ僕は、そのイメージも持っている。

 イメージが設定として反映されることを願いながらダンボールを探していく。


「あったあった」


 僕はダンボールからフィギュアケースを取り出す。

 フィギュアケースに入っているのは手の平に乗る程度の、小さな正方形のジオラマ。

 物置き部屋の一角みたいな感じの簡素なジオラマに、昔ながらの古い黒電話ミニチュアが置いてある。

 他と違って土台にくっ付けてない黒電話が、異界電話だ。


「ちょっと地下牢獄ジオラマとはサイズが合わないけど、大丈夫だろ。異世界ジオラマに入れると、そこにあったサイズに変化してるって最近気付いたんだよね」


 フィギュアケースを開く。

 電話を取り出そうとした瞬間、ジリリリリッ……! と黒電話が鳴った。


「うあえええっ⁉︎」


 予想外すぎる出来事。

 動揺のあまり、僕は反射的に小さな受話器を指で摘み上げて耳に当ててしまった。


「はい、もしもし?」

『わたし、メリーさん。いま、異世界にいるの』


 ガシャン!

 再度反射的に、僕は受話器を本体に叩き付けた。


「あー…………」


 眉間に皺が寄る。


「……僕は、なにも聞こえなかった」


 まじでか。

 こういう展開もあるのか。


「メリーさんは七不思議だけども! これは七不思議をテーマに作ったミニチュア電話だけども! いまは違うだろ!」


 駄目だ! 異世界転移メリーさんなんて考えたら思考がまとまらなくなる!


「とわとりあえず、この異界電話は無理だ。別の手段を考えよう!」


 僕は異界電話を物置ジオラマに戻してフィギュアケースにしまい直そうとしたが、また……


 ジリリリリリリッ!

 と、電話が掛かってくる。

 なにも聞こえないフリをして、僕はそれをダンボールの奥にしまった。上からプチプチ緩衝材を被せる。


「これでよし」


 ふう、と一息。

 その時、バサバサと羽音が地下牢獄ジオラマから聞こえてきた。


「あれ? この魂の感じ、ジャヴィじゃん。なんでテメェがここにいんだよ」

「この声は……元魔王の吸血鬼⁉︎」


 ことごとく解決策がなくなって、消沈する暇もない。

 バサバサとコウモリの群れが地下牢獄ジオラマに入ってきたかと思うと、それは人の姿を取った。

 白い髪に褐色の肌。神父服に身を包む吸血鬼らしからぬ吸血鬼は、元魔王で聖王の恋人だ。


「よかったあ。来てくれたんだ。呼ぶ前に来てくれて嬉しいけど……なんだろう、この敗北感は」


 嬉しいよ? 安心してるよ?

 けど、なんか一人でワタワタしてて今回の僕ってすごく役立たずな気がする。


「つーか、どうしてヒト型なんだよ」

「ルスヴン! お主こそ、なぜここに⁉︎」

「オレの嫁が、自分を囮にとんでもないことにしててな。タイミング見て助けにくる手筈になってたわけよ。で、いまがそのタイミング」

「嫁? なんじゃ、(つがい)を見付けたのか」


 ズーンとなる僕の前で、お喋りをするドラゴンと吸血鬼。

 そういえば、アリスちゃんも僕の知らないところでドラゴンの名前を聞いたらしくて、ドラゴンをジャビ様って呼んでたっけ。


「ドラゴンの名前がジャビ? いや、ジャヴィで、吸血鬼がルスヴンね」


 僕ってジオラマにやってくる人たちの名前をほとんど知らないんだよね。


「間違わないように、スマホにメモっとこう」


 僕はズボンのポケットからスマートフォンを取り出して、メモアプリに入力する。


「今更になって名前を知るのって、少し申し訳ないな。けど、なかなか知るキッカケってないからなあ」


 僕は「あなたの名前はなんですか?」なーんて聞ける立場じゃない。

 やり取りの中で探っていくしかない。


「今後は名前も意識しよう」


 名前と立ち位置と状況をもう少しちゃんと把握できれば、手助けできることも増えるはずだ。

 あと、僕の心臓にもいい。

 目の前でトラブルが起こるのを眺めて平穏を保っていられるほど、僕は図太くない。


 僕は改めて異世界ジオラマを見詰めた。

 地下牢獄の廊下ではジャヴィとルスヴンが呑気にお喋りを続けている。


「番がいるなら我にも紹介しろ。魔王仲間じゃろ」

「オレは魔王を引退しましたァー」

「我は許しておらんがー? 突然我に喧嘩ふっかけてきたかと思えば、なーにが『お前が次の魔王な! あとよろしく!』じゃ! ふざけたことぬかしおって! この三百年一度も顔を見せずにどこでなにをしておった!」

「隠居生活」

「ざっけんな! そのせいで我は神聖なる幻想竜(げんそうりゅう)から邪悪な戯竜(ぎりゅう)などと呼ばれ始めたのじゃぞ!」


 ガルルルッと牙を見せるドラゴン。

 戯竜? ジャヴィ? 次の魔王?


「お、お前! いまの魔王か!」

「もしかして、彼は現魔王の戯竜ジャバウォック?」


 僕がツッコミを入れたのと、黙っていた聖王が口を出したのは同時だった。

 ジャヴィは片眉を(しか)める。


真名(まな)を呼ぶな。我ら気高き種族は真名を呼ばれるのを嫌う。ジャヴィと呼べ」

「それはすまないね。僕は」

「聖王ガイラディアスじゃろ。聖王を知らん魔族などおらんわ」


 聖王様は国の名前がそのまま名前なんだ。

 メモメモと。


「聖王を喰えば不死になると思うておる輩もいるぐらいじゃからな。で、実際にはどうなんじゃ?」

「試してみる?」

「ほう?」


 興味深そうにジャヴィが声を洩らした。その瞬間、彼の背中をルスヴンが蹴っ飛ばした。

 グエッ、と仰け反るジャヴィ。転びかけたが、ギリギリで体軸(たいじく)維持(いじ)すると、眉を吊り上げてルスヴンを睨んだ。


「なにするんじゃい!」

「オレの嫁に色目使うんじゃねえよ」

「色目ってなんじゃあ⁉︎ ……って、嫁? 誰が?」

「んっ」


 ルスヴンは顎でクッと聖王をしゃくる。

 ジャヴィは不思議そうにルスヴンと聖王を交互に見やる。


「どこに嫁がいるんじゃ」

「目の前にだよ。目の前」

「目の前には聖王しかおらんわ」

「正解」

「ハア? なにが正解じゃ?」

「嫁」

「…………ん?」


 ジャヴィは、バッ! と聖王をもう一度見て、それからワナワナと震え始めた。

 目の焦点(しょうてん)が泳ぎ、この世の終わりでも目にしたように動揺する。

 ようやく、理解したらしい。


「は? はぁあ? あ、相手は人間じゃぞ⁉︎ ありなのか⁉︎ それはありなのか⁉︎」


 ルスヴンの肩を掴んでガクガクと揺さぶるジャヴィ。

 なるほど。ジャヴィには恋愛対象が別の種族というのが信じられないんだな。


「人間と魔族が? 番? ハア? なれるのか? なっていいのか?」

「別にいいだろ。自分の気持ちに素直になってるだけだ」


 どこか開き直ってる様子のルスヴン。

 ジャヴィは目を回して頭を押さえている。


「ハッ! わ、分かったぞ! 脅して番にさせたんじゃな!」

「あいにくと、両想いだよ」


 聖王が割って入る。


「僕は彼を愛してる」


 どうやら脅された発言が気に食わなかったようだ。

 聖王は真っ直ぐに断言した。


「――っ⁉︎」


 聖王の真剣な眼差しにジャビィは、固まる。


「まるで雷にでも打たれたような衝撃を受けてるなあ」


 実際に雷魔法を食らった時はピンピンしてたくせに。


「しかし、今回の僕って本当に見守ってるだけだな。実況でもするか?」


 僕はコホン、と咳払いをひとつ。


「そ、そんな……そんな、馬鹿な……人間と? いいのか? 魔族が、人間を大切にして、いいのか?」


 ジャヴィは頭を抱えたまま、チラリとアリスちゃんを見る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ