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異世界ジオラマ  作者: 彁はるこ
六章 物置き部屋のジオラマ
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第4話 一難去ってまた一難

 僕は仲裁(ちゅうさい)の役に立つものがないか、バタバタと部屋を漁る。漁る漁る漁る。


「くそおぉ……なにかないかな?」


 というか、本来なら二人がギスギスする意味はもうないだろうが!


 二人を誘拐してきた元老院派は更生したっぽいし、ドラゴンはただ娘のように可愛がってるアリスちゃんを迎えにきただけだし。

 むしろ誤解のない普通の出会い方をしていれば、手を取り合える二人じゃないか?


「この嫌な空気を壊せるミニチュア道具は……あれ?」


 手近なダンボールを開けてなにもなく、別のダンボールを開けようとした時。

 とんでもない事態に気が付いた。


「と、戸が、開いてるっ⁉︎」


 まさかっ!

 僕は青くなった顔を、バッと地下牢獄ジオラマのほうに向ける。


「カツ丼ッ――うわあああああああああっ!」


 猫パンチ! 猫パンチ! 猫パーンチ!

 いつの間にか引き戸を開けて物置き部屋に忍び込んでいたカツ丼が、地下牢獄ジオラマに向かって猫パンチ乱舞を繰り出していた。


「な、なにしてっ、ぐうぅっ――……カツ丼、待ってね」


 大声を出しそうになったが、お猫様相手に大声を出すのは禁止。

 逆に驚いてパニックを起こされたら大変だ。

 僕は冷静を務めてカツ丼を(なだ)める。


「カツー。危ないからやめようか? カツ、ぶはっ!」


 まさかの出来事が目に飛び込んできて、爆笑しかけた僕はギリギリで息を止める。

 カツ丼が猫パンチしていたのは、ドラゴンだった。

 ドラゴンは地下牢獄の床にピクピクと突っ伏して、聖王はキョトーンとした顔で固まっていた。


「ぶふっ! ぐっ、むふふふふっ」


 僕の肩はブルブルと震える。

 懸命(けんめい)に笑いを堪えるが……正直、崩壊寸前だ。

 笑わないことに必死になりすぎてカツ丼を止める集中力が切れてしまった。


「あっ!」


 カツ丼が再び、ジオラマに、いやドラゴンに前脚を伸ばす。

 ぶっ倒れるドラゴンを器用に(すく)い上げ、ベシッ! と壁まで吹っ飛ばした。


「ぐえっ!」


 情けない声を出して顔面を石壁に強打したドラゴン。

 ズルズルと落ちて、ベシャリと情けなく床に倒れる。


「あっひゃひゃっ! はあーっはっはっはっ! ひいっ、ひーっゲホゴホオェッ……ひへっへへへっ、だはははははっ」


 耐え切れずに、(つば)を飛ばすほど大爆笑する。

 やべえ、笑いすぎて咽せた。横隔膜(おうかくまく)()るわこれ。

 落ち着こうと深呼吸。


「な、なにが起こったんじゃ?」


 強打した頭をフルフルと振った後、ドラゴンはハッとした。


「も、もしや邪神様ですか⁉︎」

「猫だよ!」


 やめろ! これ以上僕を笑わせるな!

 笑いすぎて喉がヒィヒィ鳴る。


「ごめん。笑っちゃ駄目なんだけど、すごく申し訳ないだけど……でも、お前が絡むと僕は駄目だあぁ……」


 口角をピクピクさせたまま、僕はカツ丼を外に出す。

 ごめんね。

 あとでオヤツあげるからね。

 今度は勝手に戸を開けられないように、フローリングワイパーをつっかえ棒の代わりにする。


「邪神様が争うなと仰られるなら、仕方がないのう。命拾いしたな」


 ドラゴンは身体を起こすと偉そうな態度で言った。

 聖王は状況について行けず、呆然としたまま。

 だって、彼女からしたら突然相手が一人で勝手にぶっ飛んだようにしか見えないだろうからね。


「ええと……だ、大丈夫?」


 あーもう、困惑しすぎて思わず心配しちゃってるじゃないか。


「この程度、問題ないわい」


 ドラゴンはヒラヒラと手を振り、立ち上がる。


「邪神様からの愛の(むち)と思えばむしろ心地よいのじゃ」

「邪神様からの、愛?」


 余計に聖王は戸惑っている。

 見える。僕には、彼女の頭上に大量のクエスチョンマークが飛び出しているのが見えるぞ。


「邪神様は聖王と戦うなと(おっしゃ)られてるのじゃ。理由は我には分からんが、邪神様の天啓(てんけい)なら聞かねばならん」

「それは、このまま帰ってくれるって意味?」

「それとこれとは違うじゃろ。平和的解決。話し合いってやつをするんじゃ!」


 カッカッカーッ! とドラゴンは腰に手を当てて豪快に笑った。


「ったく。自分から喧嘩(けんか)を吹っ掛けておいて……。なんて自分勝手な奴だ」

「平和的、か。話し合いねえ……」


 僕と聖王は同時に苦笑いを浮かべる。


「困ったね。どう対応すべきか迷うなあ」

「なんじゃ。聖王ともあろうものが対話は苦手か? ならニコニコして我らを放っておけ」

「そうもいかないから余計に困るんだよ」


 はあ、と聖王は重い溜め息を吐いた。

 彼女は本気で困っている。


「それは迷うよねえ。なんかこう、うまく話をまとめさせる方法ないかな? あの吸血鬼を呼ぶとか? 元魔王だし、ドラゴンとなんらかの繋がりないかなあ?」


 見ている限りドラゴンは、気分屋で自己中心的だ。

 聖王も、譲らないところは絶対に譲らない芯の強い人。


「話し合いなんて平行線になるどころか、平行線にすら辿り着けないトンチンカンになりそうだ」


 それもそれで困る。

 ひとまず、ドラゴンVS聖王のバトル展開は免れた。


「ちょっとだけ、一瞬だけなら目を離しても大丈夫かな?」


 作業部屋からなにかミニチュアを取ってくるか?


「ううーん。バトル展開が回避されたとはいえ、その間にまたカツ丼が入ってきたらまずい」


 いつの間にあのニャンコ様は引き戸を開ける技術を身に付けたのやら。

 僕は戸のほうに意識を向ける。

 廊下からはまだ「ンナァアアー!」と文句が聞こえてくる。さっきより鳴き声がでけえ。苛々してきてるな。


「さっきは猫パンチですんだものの、もし僕の見てないところでガブッといかれでもしたら……」


 嫌な想像をしてしまい、総毛立つ。


「ドラゴンだから猫の牙にも堪えるか? けど、さすがにサイズ感が違いすぎるよね。猫パンチで潰されてたってことは、万が一の可能性もある。まず異世界と繋がったジオラマにいる異世界の人を僕側で怪我させちゃったらどうなるんだ? 前に、スケルトンの幽霊船をもらった時は、ジオラマから出したらミニチュア化したけど……生き物もそうなのか? 僕が作ったミニチュアはそうだけど……」


 ブツブツと真剣に思考する。

 ただ、これについては実験するわけにはいない。そもそも、誰かが僕のジオラマで瀕死(ひんし)になっているところなんて見たくない。

 見たくないから、僕はこの二人がうまく話し合えるよう場を整えようと必死なんだ。


「ここから離れるのは不安だな。どうすれば……ん? ああっ! お前は!」


 僕は地下牢獄ジオラマに予想外のミニチュアを発見した。

 ドラゴンの背後――出入り口に続く石階段に、ちょこんといたのはサラマンダー。

 見た目は小さな赤いトカゲ。

 だが、この子は僕が作った魔法動物ミニチュアだ。

 通常はブローチのフリをしていて、アリスちゃんの通訳トカゲとして働くようにお願いした。

 どうして階段にいるのかは分からないが、僕は希望を見出(みいだ)す。


「このサラマンダーは僕を認識できるぞ!」


 つまり、僕の頼みを聞いてくれる。

 この子に吸血鬼を連れてきてもらえばいいんだ!


「あっ、けどこの子はあの吸血鬼のことを知らないよね? どうすれば……いいや、それこそ僕のミニチュアチートを使えばいいんだ!」


 僕は拳を握り締める。

 僕の考えた設定は、なんでも反映される。しかも効果を上乗せされて。


「よし! 吸血鬼を探せるミニチュアを作ろう! もしくはサラマンダーに探知系のスキルをつければいいんだ!」


 そうと決まれば早速作業だ!

 僕は準備に取り掛かろうとして「あっ」と間抜けな声を出した。


「ここ、物置き部屋じゃん。部屋から離れられないから僕は悩んでるんだが?」


 馬鹿か、僕は。


「だあああああああっ振り出しに戻った! どーすんだよ! このダンボールの中から探すしかないのか⁉︎ ふざけんなっ、どこになにしまったか覚えてねえぞ!」


 自分の馬鹿さ加減に腹立って、太ももをバンバンと叩く。

 サラマンダーもいるし、アリスちゃんが起きてくれれば一番手っ取り早いんだけど……。そう簡単にはいかないよなあ。


「考えろー考えろー………………そういえば!」


 ひとつだけ閃く。

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