卒業式の前に
「……ねぇー、聞いてる?」
その声が聞こえた時、すぐそこに友達の有海が居たことに気が付く。
「あれ、有海。どうしたの」
すかさず私は、そう返す。
呆れた顔をして、有海は溜め息をつく。
「どうしたの、じゃ無いわよ。そろそろ閉門の時間じゃん」
「えっ!?」
学校の机でぼーっとしていたけれど、まさか閉門まで居るとは思わなかった。
「ほら、そろそろ出よ」
有海に唆されて、私は鞄を持つ。
「……う、ん。行こっか」
有海が頷くと、私と共に外へ出た。
▫▫▫
「そう言えば、有海って役員で残ってたっけ」
帰り道、私がそう言うと有海は頷いた。
―――今の時期、先輩の卒業式前で新生徒会の役員は準備に追われていた。
「つぅーか、乃々子こそどうして教室へ残ってたん」
有海がジト目で言ってくる。
彼女は幼稚園からの幼馴染み兼、腐れ縁。
『何があっても隠し事はしない』という約束の元、長い間仲良くして貰っている。
それもあってか、仕方なしに想いを話す。
「外端先輩の事、気になっててさ。想いを伝えられずにいて……どうしようかな、なんて」
それを聞いた有海は、肩を何度も叩く。
「それ初耳!なんで早く言わなかったのよー!!」
「いやいや、単なる『片思い』ってヤツだし、何もそれを言ったって……」
有海は、私の前へ立つ。
「そんなもん、片思いに留めさせておくの勿体ないじゃん。人生は一度きりだし、思いっきりアタックしてみようよ!」
▪▪▪
その足で、学校近くの商業施設に向かった。
「確か外端先輩、野球の特待生で大学進学って話題になってたよね」
有海の言葉に、私は頷く。
特待生経由の大学進学は、数年ぶりだった筈だ。
「何か良い案とかあるの?」
私がそう言うと、有海は頷く。
「ほら、乃々子って裁縫が得意でしょ?道具かなんか入れられる巾着袋を作ったら、喜ぶんじゃないかなって」
そう言うことは、有海の方が気が利いている事が多い。
……それが、役員に選ばれた理由ってのもあるけれど。
「それじゃ、タオルでも入れられるような巾着袋を作ろうかな」
「りょーかい!」
こうして、生地を買っていった。
▫▫▫
家へ帰り勉強を済ませた後、自前のミシンと裁縫道具を取り出した。
「よしっ」
作業へ取り掛かる。
2枚入れられるような、巾着袋を作っていく。
型どりをしながら、片面の布にボールのワッペンを取り付ける。
そして、裏側にはバットのワッペン。
少し子どもっぽいかもしれないけれど、何もないよりはマシであろう。
―――それから、一時間。
「で、出来たぁ」
なんとか、作り上げた。
久しぶりの裁縫だったけど、なかなかの上出来ではないだろうか。
出来上がった袋を写真に撮り、有海に送る。
数分後に、返事が来た。
『良いもの作れたじゃん、さすが乃々子!』
それに対して、『ありがとう』と返しておいた。
―――これは卒業式前に渡しておこう。
そう思って、ラッピング用の袋に入れてリボンを絞った。
▪▪▪
それから数日後。
三年生が卒業式前の、最終登校日。
この日は三年生を送る会の日で、大盛況で会は終わった。
……そして、放課後。
私は外端先輩に用があると先に伝えた上、玄関先で待っていた。
「お待たせ、松田」
先輩が話しかけてきた。
胸が急に高鳴ってくる。
「……あ、あっ、あの」
私は、例の物を取り出した。
それを先輩が受け取る。
「これって?」
「タオル用の、巾着袋をって思って」
それから、ずっと『片思い』をしていた事を言う。
それを聞いた先輩は、私の方へ近付く。
―――そして、私の頭を撫でる。
「……俺、そう言われたの初めて。だからさ、良かったら付き合わないか」
こうして卒業式の前に、片思いのつぼみは花咲きました。




