王女様に殺されそうになりましたが、ピヨピヨ精霊達と共に幸せになりますわ。
「貴方なんて死んでしまえばいいんだわ」
そう言われて、王宮のテラスから突き落とされたオリディアナ。
もう、駄目だと思って瞼を瞑った時、背に柔らかい感触と共に、変な声が聞こえてきて。
ぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよ
自分の身体の下から変な鳴き声が聞こえてくる。
ゆっくりと下へ下へと下がっていき、地にコロンと転がされたオリディアナ。
ふと、見れば10羽の変な丸い鳥みたいな物体がこちらを見てぴよぴよと鳴いている。
この子たちはピヨピヨ精霊だわ。
丸い身体に小さな羽。つぶらな瞳の精霊。
何故、この精霊がわたくしを助けてくれたのかしら?
テラスの上から憎々し気にこちらを睨みつけるのは、この王国の王女リディア。
自分は王女様から憎まれている。
何故ならリディア王女が愛しているという英雄ディッセルが公開プロポーズを行ったのだ。
それもこの間、王宮の夜会で、皆の前で、
「オリディアナ・ブレス公爵令嬢。どうか、私と婚約して欲しい」
跪いてプロポーズされた。
オリディアナには別の婚約者がいた。
この王国の第二王子クレストである。
しかし、クレストは王立学園で、身分の低い男爵令嬢プリシラと恋に落ちて、オリディアナと婚約破棄をすると言い出した。
それもよくある男爵令嬢を虐めたとかいう罪でである。
卒業パーティで断罪されそうになったが、それを助けてくれたのも、来客として来ていた英雄ディッセル・コレディアルク公爵であった。
「国王陛下もいない場所で、公爵令嬢を断罪とかあり得ない。クレスト殿下。考え直した方がよいのではないのか?」
クレスト第二王子に注意出来たのは、ディッセルがクレストの母方の叔父だからである。
オリディアナは別に男爵令嬢プリシラを虐めた覚えはない。下位貴族なんて気にもとめていない。
それをいきなり虐めたとか言われてもねぇって感じであったのだが。
そして、英雄ディッセルからのプロポーズ。
彼を愛していたクレスト第二王子の姉、リディア王女の怒りを買ったのだ。
リディア王女とクレスト第二王子は母が違っていた。リディア王女は王妃の娘で、クレスト第二王子は側妃の息子である。
だから血の繋がりはリディア王女と英雄ディッセルの間にはまるでない。
ディッセルは叔父として第二王子クレストが幼い頃から知っていて強気に注意できたのであった。
リディア王女は嫉妬で耐えきれずに、王宮のテラスからオリディアナを突き落としたのだ。
しかし、ピヨピヨ精霊にオリディアナは助けられて、怪我一つしなかった。
オリディアナはピヨピヨ精霊達に向かって礼を言う。
「有難う。貴方達。何故、わたくしを助けてくれたの?」
精霊達は何も言わず、ぴよぴよと騒ぎながら飛んで行ってしまった。
ディッセルが駆けつけてきて、
「怪我はないか?」
「ディッセル様。ピヨピヨ精霊が助けてくれましたわ。何故、わたくしを助けてくれたのでしょう」
「さぁ。ともかくリディア王女殿下は捕らえた。殺人未遂だ」
上を見るとリディア王女が騎士達に拘束されている。
「わたくしは悪くないわ。あの女が悪いのよ。ディッセル様を盗ったから」
リディア王女は連れて行かれた。
だが、彼女は罪に問われなかった。
ただ、手が滑っただけ。
そのような言い訳が通ったのだ。
王妃の娘であるリディア王女。王妃の子はリディア王女だけである。
王太子であるロイドも、第二王子クレストもそれぞれ別の側妃の息子であった。
だから、王妃に甘い国王陛下も唯一の王妃の娘であるリディア王女には激甘であった。
ディッセルに向かって命を下す。
「そなたは隣国の戦に置いて大きな戦果を挙げ、王国の英雄じゃ。だからこそ、リディアと結婚して欲しい」
ディッセルは国王陛下に向かって、
「私はオリディアナ・ブレス公爵令嬢と結婚したいのです」
「許さぬ。これは国王の命だ。良いな」
オリディアナは悲しく思った。
国王陛下の命で、第二王子クレストと婚約した。そしてクレストに裏切られた。
クレストは浮気性で、長年我慢をしてきたのだ。
色々な女性と浮気をした。
そして、男爵令嬢プリシラ。
プリシラは胸も尻も出ている色気のあるピンクブロンドの女性だった。
そのプリシラにのめりこんで、自分を断罪したクレスト第二王子。
そして、リディア王女。
自分を突き落として殺そうとした。
ディッセルにプロポーズされて嬉しかった。
彼は背も高くとても整った顔をしている黒髪の男性で、王国屈指の英雄で憧れていた。
彼と結婚出来るなんて、そんな夢がわずかの間の夢で終わってしまうだなんて。
クレスト第二王子は別に騒ぎを起こしたからと言って、廃籍されたりするわけでもなく、男爵令嬢プリシラと結婚して、裕福な王家直轄地を分けて貰い、伯爵位を賜るらしい。
リディア王女も、ディッセルは公爵家の爵位を持っており、そこへ嫁いで公爵夫人として生きていくとの事。
どうして、王家の人達はわたくしを苦しめるの?
どうしてどうして?
ぴよ……
ふと、泣いていたら、足元に一羽のピヨピヨ精霊がいた。
ぎゅっとそのピヨピヨ精霊を抱き締める。
そして、思い出したのだ。
自分の前世はピヨピヨ精霊。
だから、仲間たちは生まれ変わった自分を心配して来てくれたのだと。
有難くて涙がこぼれる。
そして、ピヨピヨ精霊の心が流れ込んできた。
小さな復讐をするピヨ。
オリディアナはピヨピヨ精霊達に頼んで、復讐することにした。
王国にはハチミツ祭りという祭りがある。
高位貴族達が持ち回りで高級ハチミツを集めて、ハチミツパーティを開くというのだ。
今回の係はクレスト・モッテリーニ伯爵である。
クレストは伯爵になっていた。
クレストは妻のプリシラと共に、高級ハチミツを買い集め、ハチミツパーティの準備をする。
「これで準備は整ったな」
「明日が楽しみですわ」
その時、急に窓が暗くなった。
「なんだ?天気が急変したのか?」
クレストが窓の外を見ればそこには、
びよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよ
びよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよ
雲霞のごとくピヨピヨ精霊達が窓にへばりついていたのだ。
「うわっーーー?なんだ?」
「何よっーーーこれは?」
がしゃんと窓が割れて、凄い勢いでピヨピヨ精霊達が飛び込んで来た。
皆、一斉に高級ハチミツのツボに群がり、ハチミツを高速でつついて食べる食べる食べる。
おいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしい
おいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいぴいおいしいおいしい
おいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしいおいしい
クレストの家臣たちが部屋へ入ろうとすれども、あまりの数のピヨピヨ精霊達に皆身を屈めて自分の身を守るしかなかった。
そして、ピヨピヨ精霊達が去った後は、高級ハチミツは跡形もなく無くなり、部屋はガチャガチャボロボロになっていた。
クレストはハチミツパーティが開けなかったので、国王陛下から凄いおしかりを受けたのであった。
「どうして対策をしておかなかった。精霊どもにかぎつけられるような愚かな息子なぞ、反省するがいい」
ピヨピヨ精霊にハチミツと間違えられ、あちこち突かれたクレストはボロボロの恰好で、同じく妻のプリシラもドレスもぼろぼろで美しさも見る影もなく。
「アハハ。ハチミツハチミツハチミツ」
「うふふふっふ。おいしいおいしいおいしい」
二人とも、あまりの恐怖に、少々おかしくなってしまったようだ。
そのまま、療養所へ連れていかれた。
小さな豆粒みたいな復讐は上手くいったようだ。
リディア王女はそんな弟を馬鹿にした。
「本当に弟は愚かだ事、ピヨピヨ精霊ごときに、ハチミツを盗られるだなんて」
「そうですね。リディア様」
「貴方はその点、優秀だから心配はないわ。もうすぐ、結婚式ね。とても楽しみだわ」
ディッセルにしなだれかかるリディア王女。
ディッセルはにこやかに、
「ワインでも飲んで乾杯しましょう。二人の未来の為に」
「そうね。乾杯しましょう」
乾杯とグラスを合わせて、ワインを楽しむ。
バンと窓が開いて、オリディアナがテラスに立っていた。沢山のピヨピヨ精霊達と一緒に、
「わたくしの前世はピヨピヨ精霊。ディッセル様。わたくしと共に参りましょう。ピヨピヨ精霊の世界へ」
「え???いや、私は人間だからピヨピヨ精霊の世界はちょっと」
「それでも、わたくしは幸せになりたいの。ディッセル様。貴方様と一緒に」
ディッセルは、にこやかに微笑んで、
「君と一緒に行く事は賛成だけれども、その前にこの女だけは許せない」
リディア王女は怒り狂って、
「何がピヨピヨ精霊よ。薄気味悪い。貴方まで何を言っているの?」
リディア王女は急に倒れこんだ。
ディッセルはその姿をゴミでも見るように見やり、
「眠り薬を仕込んだワインだ。後は、自殺に見せかけて殺すか」
オリディアナは驚いた。
「殺人を平気でするだなんて」
「私は戦場で何人も殺してきた。今更、人を殺すことなんてなんでもない。この女は君を突き落として殺そうとしたんだ。ピヨピヨ精霊達が助けなかったら今頃君は。それだけでも許せないのに、私と結婚だと?どこまで王家は腐っているんだ。この女もその弟も皆、腐りきっている」
「それでも、貴方様がもし、リディア王女様を殺したのなら、貴方様はリディア王女殿下と同じレベルになってしまいます。それは殺人ですわ。わたくしは、せめて平和な今だからこそ、貴方様に殺人を犯してほしくないのです。どうか、お願いです」
ディッセルは頷いて、
「そうだな……オリディアナがそう望むなら。私が君を好きになったのは、いつだったか。君がとても努力家だと、姉から聞いていたからだ」
「まぁ、側妃様はわたくしの事をそのように思っていて下さったのですね。側妃ソフィア様にはとてもよくして頂きました。王子妃教育の為に王宮へ上がるたびにお茶に誘って頂いて、色々と力になって頂きましたわ。でも、その事が生かせなかったのが悔しくて悲しくて。ああ、クレスト様と結婚したかった訳ではございません。ただ、ソフィア様には申し訳なくて」
「君のそういうところが私は好きだ。姉から聞いていて、クレストが君と婚約破棄をするのなら、私が君と結婚したいと思っていた」
「でも、わたくしの前世はピヨピヨ精霊ですのよ。今もこの子達と一緒にいる事に幸せを感じるのですわ」
「あああっ。私はピヨピヨ精霊達と一緒というのはちょっと……」
びよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよ
びよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよびよ
凄いピヨピヨ精霊達から不満の声が上がる。
そこへ、部屋の扉が開いて一人の男が入って来た。
「立ち聞きしていた。すまなかった。私が王太子のロイドだ。姉と弟の不始末、許してはくれまいか。姉は私が責任を持って対処する。ただ、今は義理の母である王妃殿下の力が強くて何も出来ない。だが、私が国王になった暁には必ず、この女にも報いを受けさせる。だから許してはくれまいか」
オリディアナは驚いた。
国王陛下も王妃も、皆、王族はどうしよもなく腐っている。
そう二人とも思っていたが、ロイド王太子だけは違うようだ。
ディッセルは頭を下げて、
「ロイド王太子殿下のお言葉、有難く存じます」
ロイド王太子は二人に向かって、
「影にお前達の事を見張らせていた。勿論、姉の事もだ。でも、姉の凶行を止められなかった。オリディアナ嬢。危険な目に合わせてすまない」
「いえ、王太子殿下。わたくしは生きておりますので」
ディッセルはオリディアナに、
「この王国を出て、別の人生を歩もう。国王陛下は私とリディア王女と強引に結婚させようとするだろう。国王陛下の命には逆らえない」
「そうですわね。それではやはりこの子達と」
つぶらな瞳で二人を見上げる沢山のピヨピヨ精霊達。
ディッセルは仕方がないと言った様子で、
「解った。お前達と共に生きよう」
ぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよ
ぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよ
ぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよ
ぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよ
ピヨピヨ精霊達は一斉に喜びの声をあげた。
オリディアナとディッセルは、ピヨピヨ精霊達が住むと言うピヨピヨの森で暮らしている。
女神レティナの神殿で暮らしていたピヨピヨ精霊達も、今、環境のよい森を作ってくれた国々へ移住してきているのだ。
ピヨピヨの森は、王国と別の国にある。
そこで、ピヨピヨ精霊を愛する同じ志の人達と知り合い、彼らと共にピヨピヨの森の中の小さな集落で、ピヨピヨ精霊達のお世話をする生活を送るオリディアナとディッセル。
彼らの生活費と、ピヨピヨ精霊達の食べるハチミツはその国から、国費として出費される。
女神レティナの加護を受けるピヨピヨ精霊。
その精霊を大切にすれば、女神レティナの豊穣の恩恵を国全体に受ける事が出来るのだから。
空を見上げれば、今日もピヨピヨ精霊達がゆっくりと飛んでいく。
幸せな一日に愛しのディッセルの手を握りながら、オリディアナは感謝するのであった。