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65話『バビロニアの裁定装置』

帝国の首都機関である『バベルの塔』の下階にて働く職員達は、混乱に満ちていた…

東圏側にて突如として現れた神獣ウシュムガルの討伐に、首都機関の長であるギルガメッシュが赴いた為に指揮官が不在な上に…


帝国の西側にてマルドゥクがモルガーナによって討たれ…地上に顕現したエレシュキガルとイシュタルが会敵した末に…イシュタルが命を落とし…それらの事件に伴う帝国内の治安の悪化と言う信じがたい状況に対して右往左往と振り回される一方である。


「もうなんなのよ!本当に最低な一日じゃないの!」

首都機関兵の一人であり、南花と同じ古巣出身の女性【ペコ・フラワリー】もてんやわんやしている。


「あっ!?エンキ局長じゃないか!」

「エンキ様、ご無事でしたか?」

統括長ドミニウムの一人であり、首都機関の技術開発局の長であるエンキが現れた事で、職員達が僅かに安堵する。


「やぁやぁ…中々にしっちゃかめっちゃかな状況だね…オホン、一先ずこの反逆者達を地下の牢屋にぶちこんでくるよ。」

職員達の前に現れたエンキの後ろには、手錠によって拘束された南花やアリサ達が連行されている。


「エンキ局長、ご無事でしたか…」

エンキの元にペコが駆け寄る。

「あぁ、何とかね…えぇっと…」

エンキは何故かペコの名前が出てこない。


「…?」

言葉が詰まるエンキに対して、ペコが怪訝に思う。

「ペコ先輩、お願いだから助けてよ!」

エンキの真後ろにいる南花が、わざとらしくペコの名前を叫ぶ。


「!…ペコ君、この騒がしい反逆者達は私とアハト君が監視するから安心してくれよん!」

何か焦りを見せたエンキの語尾が可笑しくなる。


「よん?…」

普段と異なるエンキの様子に更なる疑念を抱いたペコは、囚われている面子の中に、第一騎士団の団長であるヨハンナがいない事に気付き…何かを察する素振りを見せる。


「ヘグゥ!…いったぁ…」

そして、南花の背後に回ったペコが、南花の臀部に軽く蹴りを食らわせる。

「ふん、いつぞやのお返しよ…」

南花にだけ聞こえる小声でペコが声を掛ける。


「南花さん達、捕まってしまった以上はその罪を償って頂きますから!エンキ局長、地下へのエレベーターは、このまま直進した奥にありますから…さっさと反逆者達を連行して下さい。」

ペコが聞かれてもいないのに、エンキに対してエレベーターの所在を告げる。


「あぁ、そうか…助かるよ。」

そう答えたエンキが再び歩き出す。

「ふん…ペコ先輩ありがとう…」

独り言を呟いた南花が、ペコの方へ振り向く…


すると、ペコはシッシッっと手を払う素振りを見せながらも、僅かに微笑みを浮かべている。


ーーー


南花達を乗せて首都機関の地下へと向かうエレベーター内は、緊張感によって支配され…エレベーターの階層を示す針が徐々に左側に傾いていく音だけが聞こえる。


そして、かん高くも重たい音が目的地に着いた事を知らせるが…

その部屋は、只の人気のない倉庫にしか見えない。


「えっ…本当にここなの?」

南花が真っ先に不安の声を漏らす。


「あぁ~そうだよ…えっと確かこの辺だった筈だよ…」

モルガーナの意思を宿したアリサが、周囲を物色し出す。

「確か、モルガーナ様が【バベルの塔】の設計をされたのですよね…あっ!?モルガーナ君。」

エンキの姿をした人物が、しまったという表情を見せる。


「プッ、フゥ!この部屋には、私達以外は居ないみたいですし…団長、その見え見えの変装を解いても大丈夫ですよん!」

見せかけの手錠に対して、軽く魔力を流して簡単に壊し…わざとらしく語尾を変えたハンムラビが、周囲を探知する魔術を使用する。


「そうそう…私が、創造主アヌから得た知識を駆使して、このバベルの塔の基本設計を担当したんだよん!」

薄暗い中、あれ?どの辺だったかな?と呟くモルガーナの意思が、エンキを装っていたヨハンナの問いに応じる。


「もう…モルガーナ様まで…首都機関の多くの人達を欺かなければならなくて緊張したんだから仕方ないじゃん…しかも、変装する相手がエンキ様だったし…」

元のシスターの姿に戻った上で焦りの言葉を述べるヨハンナが、数歩後退りすると…倉庫室の棚にぶつかり…棚の方へ視線を向ける。


「何これ…変わったトランク…」

ヨハンナが視線を落とした先には、外装の中心部に幾何学的な華のマークが刺繍されたトランクが見える。


「あっ…そう…これが、神造人型永久裁定装置【エンキドゥ】を封印しているトランクなんだよね。」

モルガーナの意思によってアリサが告げる。


「えっ!?このトランクがそうなの…その…封印されているから…もっとこう…大掛かりな仕掛けを想像していたんだけど…」

南花は、一人で持ち運べるサイズに拍子抜けする。


「まぁ…木を隠すなら、森の中みたいな感じとも言うべきなのかな…うーん…創造主アヌが考えることはよく分からないからなぁ…」

モルガーナの意思に合わせて、頭を掻いたアリサが、南花の方へ振り向く。


「それじゃあ、アトラの懐中時計を填めていこうか…」

「はい…それじゃあお願いします。」

その声に応じたサクラが、ガラス細工職人の【きりこ】から譲り受けた時計をアリサに渡す。


トランクの外装には、時計の曲線的なフォルムの長針と短針を組み合わせた刺繍が表と裏の両面に、それぞれ2つずつ刻まれており…アリサが、その内の一つを左向きにスライドさせる…

そこには、アトラの懐中時計が丁度収まるスペースが設けられている。


「それでは、こちらをお願い致します。」

その次にハンムラビが、8メートルを超える湖の主である【龍魚】が取り戻した懐中時計を渡す。


「ふん…ふん…なんかこれ匂うね…」

「申し訳ございません…申し訳ございません…」

受け取った2つ目の時計に違和感を感じつつも、一つ目と同じ要領で填込むモルガーナの隣で、ハンムラビが謝罪を繰り返す機械と化している。


「それじゃあ、私の父さんから渡された時計ね…」

アリサが父である【フェルム・クロウ】の形見を、自ら填込んでいく…


「父さんから託された願いがようやく叶うよ…」

南花は、懐中時計の蓋の裏に刻まれた文字『この時計を持つ者に、権利ノブレス責務オブリージュを与える』を見ながら呟く。


「南花君が自ら填めると良いよ。」

「はい、そうですね。」

短く返事した南花が、4つ目の刺繍部分をスライドさせて填める。


するとアトラの懐中時計が4つ差し込まれたトランクの中心部に刺繍された幾何学的な華の模様の部分から、短く歯車が動く音が聞こえ…

時計の針を模した他の刺繍よりも、一回り大きな華の刺繍のパーツが右回りに自動的にスライドする。


その華の刺繍の下には収納スペースが隠されており…他の4つの懐中時計と同じサイズの時計が姿を現す。

5つ目の懐中時計には、時間を示す文字盤が無い。


「よし…ここに、星座早見表アストロラーベの設計図の情報を移動させる…っと」

そう呟いたモルガーナの意思に合わせて、アリサが右手を文字盤の無い懐中時計にかざす。


すると、青白い光の後に…懐中時計には、他の4つとは異なる星座早見表アストロラーベを模した文字盤が刻印されている。


5つの懐中時計によって全ての封印が解除された、トランクのダイアルロックが自然に開錠される…


トランクが完全に開くと…トランクよりも明らかにサイズが大きい木目調のゲームテーブルが、軟体動物の様にぬるりと出てくる。

そのゲームテーブルの上には、トランプカードを数段ほど積み重ねたピラミッドが作られている。


そして、次の瞬間…カジノのディーラーに似た出で立ちの存在が、南花達に背を向けた状態でぬるりと出てくる。

その背中は、男性にも女性にも見える中性的な身体のラインをしている。


「まさか…貴方が…」

南花が恐る恐る声を掛ける。


ディーラーの出で立ちをした者が、その声に反応したと同時に、トランプのピラミッドがヒラヒラと倒れる。


「あぁ…倒れてしまったかぁ…まぁ、良いか…もう、暇を潰す必要が無くなった訳だしね。」

そう中性的な声で呟いた存在が、南花達の方へ振り向く。


「そうだよ…私が、創造主アヌによって造られた土人形であり…このメソポタミアの地を見届ける存在、アヌの使徒の一人でもある【エンキドゥ】だよ。はじめまして、鉄之助の娘である源南花君。」

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