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61話『錬金術師と将軍の茶会・後編』

帝国より西に広がる小雨が降る平野で、統括長ドミニウムであるマルドゥクとモルガーナが改めて対峙している。


帝国の城壁側に座するマルドゥクは、統括長ドミニウムの証である軍服の上着のポケットからチェスの駒である、ポーン、ナイト、ルークを取り出す。


「俺の半神格の元に顕現しろ…【アマルトゥ・グランダルメ】」

そう言い放ったマルドゥクは、各駒を空中へと軽く投げる。


平野の大地に立ったチェスの駒達は、太陽の様に赤く燃えたかと思いきや…

人間サイズの大きさに変形し、無数に増殖を繰り返し…

マルドゥクが統率する軍団と化す。


マルドゥクの真正面に展開する歩兵ポーン達は、銃口から弾丸を装填するマスケット銃を構え、横に広く陣形を形成しており…


更に陣形の左右には、機動力を重視した軽騎兵ナイト達がサーベルや槍を手にして陣を形成している。


そして、歩兵ポーン隊と軽騎兵ナイト隊の陣の後方には、大砲を放つ砲兵ルークが展開している。


「いつも見ても、マルドゥクの【アマルトゥ・グランダルメ】は壮観だね…」

そう感嘆を漏らした錬金術師モルガーナ・ピルグリムは、何処からともなく手品の如く、丸めた木粉粘土を取り出す。


「世界の魔力マナ達よ…私を起点にしなさい…【ミーミルのミズチ】」

そう唱えたモルガーナが木粉粘土の球を、平野に落とすと…

瞬く間に大木が生え、そして、林檎の果実を実らせる。


そして、重力によって落ちて転がった複数の林檎達が、約10メートル程の木の巨人へと変貌する。

その巨人達は、巨大な木槌や剣で武装している。


更に林檎の1つが、大きな蛤と龍を模した鉄製の香炉と化し…

蛤の殻に沿ってとぐろを巻く龍の口から、大量の霧が放出されている。

モルガーナ自身は、その香炉の背後にある玉座に鎮座する。


そして、モルガーナが右手の人差し指で、香炉の霧を指揮すると…

霧が巨人の分身を複数、生み出していく。


「そんな偏屈な魔術、俺の兵団で全て焼き払ってやる。」

不敵な笑みを見せるマルドゥクの意思に反応した、駒の兵士数人が一定のリズムで太鼓を叩き始める。


すると、マルドゥクが生み出した各陣形が動き出す。


各巨人へと照準を合わせた砲兵ルークが先陣を切り、砲弾を凄まじい音と共に放ち始める。

放たれた砲弾が、右腕に直撃した巨人の一体が僅かに揺らぐ。


しかし、瞬く間にその欠損してしまった箇所は再生し、その巨人はマルドゥクの【アマルトゥ・グランダルメ】にまた一歩…また一歩と進む。


その巨人達の進行に対して、再び砲兵ルーク達による、複数の大砲が放たれ…

今度はその砲弾が、5体の巨人の足元を捉える。


そして、足を損傷した巨人達によって形成されていた隊列の進軍が遅れる。

そこへ軽騎兵ナイト隊が左右の両側面から、巨人達を挟撃する形で翻弄させる。


接近してきた軽騎兵ナイト達に対して、巨人達も迎撃を行うが…

砲兵ルーク達による砲撃によって思うように動けない。


そうこうしている内に、マルドゥクの【アマルトゥ・グランダルメ】の主部隊である歩兵ポーン達が装備しているマスケット銃の有効射程距離まで進軍している。


そして、マスケット銃による一斉射撃を合図する太鼓の音が、鳴り響き…

歩兵ポーン達が、銃口を一斉に巨人達に向ける。


「ふっ…今だ、ファイヤ!」

不敵な笑みを見せたマルドゥクが、歩兵ポーン達に向けて射撃を命じる。


すると、黒色火薬の煙を上げながら、おびただしい量のマスケット銃による弾丸が、標的達に命中する。

そして、銃弾を浴びた実体がある巨人達は、大きな音と共に倒れ…

香炉から吐き出される霧によって出現していた巨人達は無残にも霧散していく。


巨人達によって遮られていた香炉の姿を、マルドゥクの視線が再び捉える。

すると、マルドゥクは魔力によって投擲用の長槍を生み出し構える。


「これで魔女の偏屈な魔術も終わりだな。」

そう宣言したマルドゥクが、大きく振りかぶり…槍を香炉に向けて投擲する。


「それは不味い!」

そう短く苦言を示したモルガーナは、急いで大気中の魔力マナを駆使し、槍の射線上に木々を生み出すが…


武力系の統括長ドミニウムから放たれた槍は、難なく木々を貫通していき…

目標の香炉を突き刺し破壊する。


そして、香炉が破壊されたことにより、モルガーナが展開していた霧が完全に晴れる。


「次の一手で終わりだな。」

勝利を手中に収めたと確信したマルドゥクは、次に大斧であるハルバードを魔力によって形作ると…

自らモルガーナに向けて突撃していく。


「っぅ!」

モルガーナが嫌な汗を見せると、自身の頭上に実る林檎の果実が地面に落ち…

先程の10メートル程の巨人とは異なる、3メートル程の機動力に特化した木製の自動人形コッペリアを5体生み出して、マルドゥクへ差し向ける。


「そんな木偶の坊で俺が止まるとでも思うのか。」

そう溜め息を漏らしたマルドゥクが、手にしているハルバードで、自動人形コッペリア達を瞬時に制圧し…


ついに、モルガーナに対して斧が届く間合いに近付き、とどめの一撃を加える。


「かは…っくう!」

回避しきれなかったモルガーナの右の脇腹から、血が飛び散る。

そして、吹き飛ばされたモルガーナは、自身が背後に生み出した大木の幹に激突し、更に悲痛な叫びを短く上げる。


「偏屈な魔術を扱うお前が、面と向かった一騎討ちで俺に勝てる訳ないだろ?」

重傷を負い虫の息になってしまったモルガーナの長い髪を、マルドゥクが鷲掴みにして地面に伏せさせる。


「っぅ…紳士なら…敵の最後だとしても…レディに対しては優しく接しないと…もっとイシュタルに…嫌われちゃうよ…」

呼吸が荒いなか、モルガーナが皮肉を漏らす。


「余計なお世話だ…それに、今、この場は戦場だ、戦場において慈悲などは存在しない…ふはは…」

勝利への高揚感から、マルドゥクの戦士としての残虐性が露になる。


そして、マルドゥクは上着のポケットから、チェスの駒のクイーンを取り出し魔力を込めると…そのクイーンは、断頭台へ変形する。

その断頭台のギロチンへモルガーナの首を通す。


「最後に言い残すことはないか、モルガーナ?」

マルドゥクは、勝者と敗者の差を歴然とさせる為に敢えて問い掛ける。


「確かに…マルドゥク…君に対して面と向かっては、勝てなかったね…正面からはね…」

モルガーナが改めて敗因を述べて悔いる。

「今さら気付いても遅いな…それじゃあな、モルガーナ…」

マルドゥクは、旧知の存在に対して別れを告げる。


次の瞬間、ギロチンの刃が勢い良く落ち…

モルガーナの首が転がり、マルドゥクの足元にぶつかり止まる。


「終わったか…」

そう呟いたマルドゥクは、展開していた【アマルトゥ・グランダルメ】を解除し、遠方から戦況を見ていた部下達に戦闘に終了した事を伝える。


そして、黒魔女モルガーナの首を掲げ、勝利を伝える。

その知らせに対して、部下達が歓声を上げる。


「ふぅん…茶番に付き合うのは、これくらいで良いかな?」

聞こえる筈のない声が聞こえてきた、大木の上をマルドゥクが見上げようとするが…


手にしていたモルガーナの首が、瞬く間に、巨大な蛇へと変身して、マルドゥクを拘束し地に伏せさせる。


「何故だ?」

短く疑問を浮かべたマルドゥクが、何とか見上げた視線の先には、木の枝に座り見下ろしてくるモルガーナがいる。


そのモルガーナは、煙を放つキセルを手にしている。


「そういうことか…本体は、ずっと木の茂みの中にいたわけか…」

一瞬にしてマルドゥクは、モルガーナの手の内を察する。


「その通りだよ…マルドゥク、君の敗因は…」

木の枝から、身軽に飛び降りたモルガーナが続ける。


「過去の戦いで勝利を重ね過ぎた結果から生まれる、自惚れだよ。」

そう諭したモルガーナは、キセルを口にし一服する。

「確かにそうかもな…勝者はお前だ…好きにしろ。」

潔く負けを認めたマルドゥクは、命乞いすることもなく…モルガーナの采配を受け入れる。


「おっ、流石は武人だね…今後の計画の為にも…利用させて貰うよ。」

そのモルガーナの一言を機に、マルドゥクを拘束ししていた蛇が、獲物を一気に丸呑みする。


そして、見る見るうちに蛇は小さくなっていき…主であるモルガーナの右手の人差し指に指輪として収まる。


指揮官を失い敗走を始める帝国の騎士達を一瞥したあと…視線を更に奥にある帝国内に向けたモルガーナが呟く。


「今回の私の役割はここまでだし…茶の子で休憩しますかね…」

再び敷物と赤い傘を広げたモルガーナは、野点を開き一息入れる。

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