59話『トバルカインの弾丸・後編』
東圏側B区のレンガ倉庫にて、エンキの電磁砲とアリサの対神格狙撃銃による、2発の強大な銃声が響き渡る…
小雨が降る曇天の中、その場にいる南花たち全員の耳…そして、体内に重く響き留まり続ける。
エンキとアリサは、佇んだまま微動出せず対峙している。
次の瞬間…エンキが展開していた魔術『イージス』と『ヴァジュラ』が霧散していく…
それと同じタイミングで、アリサの背中に生える黒翼も抜け落ちていき、完全に消滅する。
「いやいや…複製とは言え、これ程の威力とは、恐れ入ったよ…」
よく見るとエンキの左肘より下が、消し飛んでいる。
「お互いの銃弾が衝突して、お互いに軌道が逸れたみたいだね。」
モルガーナの口調で話すアリサの右頬には、かすり傷が出来て血が垂れている。
「はっ、はは…魔力がほぼ尽きた上に、この有り様では…私の負けは明白だね。」
そう漏らしたエンキは、出血を抑える為に電撃で左腕の傷口を焼き、その痛みに耐えながら…背後に微かに残った壁の一部にもたれ掛かる。
「エンキ…君、少し手心を加えたね…相変わらず天の邪鬼だね…」
エンキの意図に勘づいたモルガーナが、アリサを介して笑う。
「ふっ、その無駄に回転の早い頭は相変わらず感に触るな…偏屈で正直な探求者と言う点では、お互い様じゃないかい?」
エンキも皮肉を言い返した後に、更に続ける。
「それに、南花君と錬金術の知見を得たアリサ君達が、築いていくであろう科学の可能性にも、惹かれてしまい…つい最後の一撃が揺らいでしまったのさ。」
そう呟いたエンキの元に、サクラ達の3人と共に八型憲兵の役目から解放されたユキノ…そして、ハンムラビも近付いてくる。
「ユキノ君…私は、君を散々いたぶった訳だし…君に止めを刺されても文句は無いし、それに対して命乞いをするほど無様じゃないよ。」
エンキが、ユキノの方を見上げる。
「確かに、私にはその権利はあると思います…ですが、エンキ様にも統括長としてのお立場があった上に、既に勝敗は着いています。ですから…お互いに助かった命を全うすべきだと思います。」
ユキノは、元上司に対して敬意を払う。
「そうかい…優秀で将来有望な部下達を持てて、嬉しいよ…君たちの好意に対して、最後くらいは、私も好意で応えるとしよう。」
口角を僅かに上げたエンキは、白衣の内ポケットから帆船が刺繍されたハンカチを取り出し、南花へ差し出す。
「これは…たしか…」
第一騎士団の団長と言う立場上、その存在を知っていたヨハンナが驚く。
「あぁ…私の予想通りに、これからエレシュキガルが動くとしたら…持っていて損は無い筈だよ。」
エンキは何とか立ち上がる。
「エンキ局長、ありがとうございます。首都機関の技術開発局の一員として得られた経験は、大きいです。」
エンキからハンカチを受け取った南花が頭を下げる。
「それは良かったよ…これからの科学は、南花君達に託すよ。」
エンキは、わざとらしく高らかに笑おうとするが…途中でむせてしまう。
「はい。私達が勝利した以上、その権利と責務を果たす迄です。」
アリサが改めて決意を伝える。
「アリサ君も頼んだよ…その偏屈な錬金術師の意思に振り回されない様に気を付けてくれよ。」
嫌味に対して反応した、モルガーナの意思が、エンキの左腕の傷口をぎゅっと掴む。
そして、掴まれたエンキは、ニャアァっと断末魔を上げる。
「うぅ…追っ手に関しては、私が上手く言っておくから…早く目的の首都機関の地下に急ぐといいよ。」
痛みに耐えながらエンキが諭す。
「はい。後は私と団長が、南花さん達を必ず目的地に導きます。」
ハンムラビの受け答えに対して、エンキが頷く。
元上司に対して、一礼した南花達が走り去っていく。
「武器職人として成長を続ける南花君…モルガーナと契約を交わしたアリサ君…そして、私の再調整を受けたユキノ君…本当に興味深い研究対象だよ。」
そう独り言を漏らした一人の科学者の女性は、不敵な笑みを見せる。




