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58話『仮面とアムネジア』

アリサとエンキが決着をつけるための一撃を放つよりも、少し時が遡る…


ハンムラビは、仮面を付けた2人の帝国憲兵が繰り出す攻撃を、難なく冷静に往なしていく。


「うぉお!…グッ…」

大男の九型憲兵ノインが、疑似神格術式から生み出した魔力を、左右の拳に載せて標的に向けて交互に振りかざすが…

標的であるハンムラビは、蝶の様にヒラヒラと回避した上で、魔力によって威力を数倍に上乗せした回し蹴りをカウンターとして、大男に向けて放つ。


その一撃を脇腹に食らい吹き飛ばされる九型憲兵ノインの後方から、急に現れた六型憲兵ゼクスが自慢の機動力を活かした一撃を与えようとするが…


そのコンビネーションに対して、ハンムラビは自身の眼前に複数、展開するトランプカードを模した魔術を飛び道具の様に放ち続けて阻止する。


「くっ…その『この程度の相手2人、余裕なんですけど…』みたいな顔、ムカつくからやめてくれる?」

息が上がっている帝国憲兵2人とは、真逆にハンムラビは汗一つかいていない。


「もう…あなた方2人との勝負を終わらせても宜しいですか?」

そう呟いたハンムラビは、短く溜め息を漏らす。


「はぁはぁ…終わらせるには、まだ少し早いんじゃないか。」

ハンムラビの蹴りによって出血した脇腹を、瞬時に回復させる九型憲兵ノインがふらつきながらも立ち上がる。


「賛成…その人形みたいな顔を、苦痛で歪ましてやるまで終われないから…」

そう頷いた六型憲兵ゼクスが再度、両足に魔力を込め始める。


「目には目を、歯には歯を…犬には首輪を」

ハンムラビは、やれやれと言った口調の後に…

先ずは、九型憲兵ノインの脇腹辺りを指差して何かを諭す。


「うん?…なんだこれは!?」

九型憲兵ノインが、先ほど蹴りを食らわされた辺りに視線を落とすと…

トランプのクラブの9が、刻印されている。

そして、次の瞬間…クラブの9が増殖し、蛇が巻き付くかの如く拘束する。


瞬く間に拘束された大男は、その場に倒れ込む。


九型憲兵ノイン!…このくそアマが!」

つい言葉遣いが荒くなった六型憲兵ゼクスに対して、ハンムラビは足元を見る様に指を指す。


「っう…くそ、離して」

六型憲兵ゼクスの右足にも、同様のクラブの9が付着しており、増殖したマークがふくらはぎから太ももへ移動し…そして、上半身と瞬時に拘束されてしまう。


「はぁ…これにて一丁上がりです。」

自分に割り振れた相手2人を無力化したハンムラビは、八型憲兵ユキノと対峙するサクラ達の方を見る。


ーーー


サクラ、コマチ、アオイの3人は…互いの死角と半自動式拳銃セミオートピストルの装填するタイミングをフォローし合いながら、眼前で次々と召還される化物達に対処している。


「ユキノ姉さん、もうやめて…いつまで召還し続けるの…」

サクラが、赤い光を点滅させる術式の中心で踞る八型憲兵ユキノに声を掛けるが…

「サ、サクラ…ごめんなさい、止まらないの…くっ…あぁっ!」

何とか応じる八型憲兵ユキノの頭に、更に強い痛みが襲う。


「黙りなさい…貴方達はぁ…捕えられるべき、犯罪者です…」

八型憲兵アハトは、左手で痛みが走る頭を押さえつつ…右手をサクラの方へ伸ばし、掴み取る様な仕草を見せる。


「ユキノ姉ちゃん、いま助けるから待っていて。」

人型食虫植物ペルセフォネの一体の頭部を撃ち抜いたアオイが呼び掛ける。

「ユキノ…私達は犯罪者じゃない、同じ村の出身の仲間だぞ。」

コマチは、目の前に迫っていたゴーレムの上半身に数発、弾丸を撃ち込み、標的を沈黙させる。


サクラ達は、八型憲兵ユキノに声を掛けながら、確実に腹部の疑似神格術式を狙える距離に徐々に近付いていく。


「私は…帝国に仕える八型憲兵、アハト…貴方達の仲間ではない…ぅ、うるさい。」

帝国に植え付けられた使命と心の奥底に閉じ込められた意識の2つが、ユキノを苦しめる。


「そうだ!八型憲兵アハト、お前は奴らではなく…俺たち帝国憲兵の一員だ!」

ハンムラビによって拘束されている九型憲兵ノインが叫ぶ。


「そうよ、八型憲兵アハト六型憲兵ゼクスである私と友達じゃない…アハトちゃんが、その犯罪者達の始末してよね。」

同じく拘束されている六型憲兵ゼクスの口角が僅かに上がる。


「あぁ!うるさい、うるさい…そうよ…私を苦しめる人間は、みんな…皆居なくなれば良いの!」

全身の苦痛に耐えながら立ち上がったユキノの叫びに呼応するかの様に、召還の魔方陣が強く赤く発光する。


「あはは!皆、失せろ!」

その一言を機に、ワニの姿をした化物キングが、拘束されている九型憲兵ノインに咆哮を上げながら襲いかかる。


「アハト、何を考えている!?やめろ、やめてくれ!」

悲痛な叫びを上げる九型憲兵ノインは、自身の疑似神格術式の特性である不死性が故に長い地獄に襲われ続ける。


「ねぇ…冗談キツイよ、アハト…助けてよね?」

隣の地獄絵図に顔がひきつる六型憲兵ゼクスが懇願するが…


「叫びまわる小型犬が…鬱陶しいよ」

ユキノの更なる一言で、複数体の人型食虫植物ペルセフォネが、六型憲兵ゼクスに群がり…その無数に生えたトゲで生き血を貪る。


幼い子供の様に悲鳴を上げる六型憲兵ゼクス…そして、九型憲兵ノインが手にしていた事で血塗られた魔術書が、ユキノの足元に転がり落ちる。


「ふっ、あはは…次は貴方達です。3人の地下道化師トネリコさん。」

血塗られた魔術書に対して、残り僅かな魔力を込める為にユキノは吐血する。


サクラ達は、地下道化師のチョーカーを司る魔術書が発光し始めたにも関わらず、ユキノへ近付く歩みを止めない。


「くっ…やめてよ…これ以上、私に近付かないでよ!これ以上来たら、サクラ達を殺してしまう…来ないでよ!」

再び意識が混乱し始めたユキノが懇願するが…サクラ、コマチ、アオイは、残る化物達を掃討しながら近付く。


「来るなって言っているでしょ!この奴隷共!っう、帝国憲兵、八型憲兵アハトとして貴方達を終わらせてあげる!」

そう涙しながら語気を強めた八型憲兵ユキノは、地下道化師トネリコのチョーカーに関する魔術を発動させる。


しかし…八型憲兵ユキノの眼前にある3つのチョーカーは、不発に終わってしまう。


「へぇ?どうして?」

ユキノは、唐突に泣き止んだ子供の様に、キョトンとした表情を浮かべる。


「ユキノねぇ…今の私とサクラ、コマチは地下道化師トネリコでもなければ、奴隷でもないの…」

先ずは、アオイが優しく声を掛ける。


「あぁ…もうユキノが帝国憲兵である必要が無いように、私達は動いてきた…だから…」

コマチが続ける。


「だから、もう帰ろう…10年前、あの雨が降る前の…私達に。」

そう微笑みながらサクラは、銃口を僅かに下へ向ける。


そして…3人の地下道化師トネリコの枷が風に乗り霧散していく…


「うん…随分と待たせたね、久しぶり…サクラ、コマチ、アオイ。」

ゆっくりと頷いたユキノは、涙を見せる。


次の瞬間、一発の銃弾が、腹部の疑似神格術式を壊し…八型憲兵アハトの役目を終わらせる。

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