44話『パン屋の狙撃手』
帝国西圏側にある、ハンムラビのセーフハウスであるパン屋の2階部分から、周囲を監視している南花とアリサ…
西圏側の町中から少し離れた場所に建つパン屋の周りは、小麦畑が広がっており…遠く離れた場所に点在する民家の明かりが闇夜を微かに照らしている。
ハンムラビが、パン屋の四方に侵入者を検知する魔術を展開している為に、2人の目視による警備はあくまでも、その補助である。
窓際でレバーアクション式のライフルを構えるアリサは、その片手間に、南花が焼いたマルゲリータを左手で食べる。
「全くもう…お行儀が悪いよアリサ…」
「南花のピザが美味しくて、一瞬たりとも手を離したくないみたい…」
南花からの指摘に対して、アリサは軽口交じりにいなす。
「よし、こんな物かな…」
警備しているアリサの隣にある、作業机に座る南花は、明日の龍魚の捕獲作戦にて使用する釣り針を金槌で叩き整形している。
「そうね…後は、釣り糸にアトラさんの懐中時計を巻きつけるだけね。」
南花の方へ視線を向けたアリサが応える。
「うん、そうなんだけどさぁ…大切な懐中時計をそんな扱い方をするのは、少し気後れするなぁ…」
南花は賛同しつつも、躊躇いを口にする。
「まぁ…それが有効な方法なのだから仕方のない事じゃないかしら…それにしても、南花は手先が器用ね…」
アリサが、南花の武器職人としての腕を褒める。
「そう?ありがとう…釣り自体も第四騎士団に居た頃に、たまに友達と行っていたから…友達…友達…」
不意に、親友だったエルフのマリアと、何だかんだと交流のあったペコの3人での記憶を思い出した、南花の頬に涙が流れ落ちる。
「あっ…アリサ、ごめん…」
南花は慌てて右手で涙をぬぐう。
「いいえ…それだけ南花にとって大切な友達という証ね…」
ライフルを置いたアリサは、ハンカチを取り出し南花へ渡す。
「アリサ、ありがとう…マリアが最後に言っていた【あの人】って誰なんだろう…」
「そうね…私と南花が出会った日の一件に関する捜査は引き続き行われているみたいだけれど、未だに詳細は分からず仕舞いね。」
涙が治まった南花の様子を見た、アリサは再び窓際に戻り、言葉を続ける。
「私もあの日の事を良く思い出してみたけど…あの日のパネトーネさんの瞳はどこか虚ろだったし…それまでに何度もいじめられた事はあったけど…確実にあの日は異常だった気がする…」
右手を口元に当てながら、アリサは更に思索を語る。
「それに、彼女が裏で煙草を吸っている姿を初めて目にしたと思うの…それが、冥界の執事である【ドゥムジ】さん…ひいては、【エレシュキガル】統括長との因果関係があるかまでは分からないけれどね…」
語り終えたアリサは、手元にあるカフェラテを口にする。
「そっか…エレシュキガルさんとまた会った時に聞いてみたら何か分かるかもね…取り敢えず、明日は龍魚を釣らないと。」
「えぇ…釣り経験もお持ちの南花さんのお手並みを拝見ね。」
アリサが敢えて丁寧な言葉を交えて、南花を気遣う。
「うん、任せなさい!ってね、あはは…」
その気遣いに対して、南花は右手でポンっと胸元を叩き応える。
そうしていると、室内の壁に掛けられた時計が夜中の12時を指す…
そして、南花とアリサがいる2階の部屋の扉が開き…サクラ、コマチ、アオイが警備の交代の時間を知らせに来る。




