43話『マルゲリータとジョーカー』
帝国西圏側の第一騎士団内にあるセーフハウスの一つであり、表向きはレンガ造りのパン屋となっているハンムラビの書庫へ移動した南花達6人。
今の時間帯は、南花とアリサが2階部分から監視をしており…主であるハンムラビを含め、サクラ・コマチ・アオイの3人は書庫部分にいる。
室内の中心部にある木造のテーブルの席に座るコマチとアオイの眼前には、パン屋の石窯で焼いたマルゲリータとカフェラテが並ぶ…
「うん、いい焼き加減…」
パン屋に備蓄されていた保存食である…トマトソース、モッツァレラチーズ、燻製のサーモンを使用したマルゲリータを、南花と共に調理したアオイは一段と美味しく感じる。
その隣に座るコマチは、トマト特有の僅かに甘いソースと濃厚なチーズの組み合わせの感想を、無言で頷きまくり表現している。
「本当に凄い量ですね…」
自身の背丈を優に越え…様々な本がギッチリと敷き詰められた本棚に四方を囲まれるサクラが驚嘆の声を漏らす。
「はい…主に魔術書や第一騎士団の報告書を保管していますね。」
そう応えたハンムラビは、サクラの首元にある地下道化師としての枷を凝視しながら続ける。
「これは…恐らくヨルムンガンド型の魔術式ですね…少々、お持ち下さいね…」
魔術師としての見識を頼りに、大量の書物の中から、ハンムラビは目的の魔術書を探し出す。
はい…っと短く頷いたサクラを始め、コマチとアオイは要領を得ない表情を見せる。
「えっと…あった、あった…」
そう呟いたハンムラビは、一冊の魔術書を持ったまま、小さい脚立からヒョイっと飛び降りる。
「ハンムラビさん、この書物は?」
本棚の近くにいたサクラだけではなく、アオイとコマチもハンムラビが持つ書物に興味を示す。
「恐らく…サクラさん、コマチさん、アオイさんの首に施された魔術と同じ物はこちらかと…そして、解除出来ると思います。」
「ええっ!本当ですか?」
ほぼ同時に3人から、驚きと希望が溢れる。
「はい…我々、第一騎士団は、直接的な攻撃魔術よりも相手の術式に干渉し妨害したり…隠密に関する魔術を得意とする人間が多い組織ですので。」
サクラに向けていた視線を、手にする魔術書へ移したハンムラビは、とあるページを開き…そして、自身が持つトランプカードのジョーカーを栞の様に挟み込む。
木槌を取り出したハンムラビは、ジョーカーを挟んだ魔術書を軽く叩く…
すると、僅かにトランプカードが発光する。
そして、取り出されたカードには、最初から描かれていたジョーカーのイラストの周りをぐるりと囲む様にして…世界蛇の絵が追加されている。
「目には目を、歯には歯を…蛇には蛇を…」
ハンムラビが詠唱すると、一枚だったジョーカーが三枚に増え…
術者の手から飛び立ち…サクラ、コマチ、アオイの各チョーカーと融合したかと思いきや…閃光を放ち消える。
「えっ…本当に無効果出来たんですか?」
アオイは特に変化がないチョーカーを擦りながら、疑念を現す。
「はい、解除自体は完了しました。しかし…」
魔術書を書庫へ戻したハンムラビが続ける。
「敢えてチョーカー自体は残しました…そちらの方が、そのチョーカーに関する魔術を扱いたいと考える人間を欺けるので…」
「なるほど…一度だけしか効かないけれど、一瞬の隙を作れると言うことですね。」
サクラが、ハンムラビの意図を汲み取る。
「その通りです。これで少しは動きやすくなると思い、僅ながら助力させて頂きました。」
またしてもヒョイっと脚立から飛び降りたハンムラビは、微笑む。
「いや…ハンさん、とても助かるぞ!」
「こら!コマチってば!…ハンムラビさん、ありがとうございます。」
アオイとコマチは礼を告げ、軽く頭を下げる。
「ふっふふ…いいえ、ハンさんって呼んで頂いても良いですよ。」
「そうですか、ハンさんありがとうございます。」
サクラは、敢えて呼び方を変えて感謝を告げる。
そして、テーブルの席についた4人は、マルゲリータとカフェラテを堪能しながら談笑する。




