42話『龍魚の腹時計』
帝国西圏側の第一騎士団、団長ヨハンナが管理する蒸留所内に、響き渡る程の声量で、重大な懺悔をしたハンムラビは失態の大きさから…うつ向きながら赤面している。
「えっ…えっと、詳しく聞かせて貰っても良いですか?」
南花が戸惑いながらも、事の真相について問いかける。
「はい…そうですね。」
顔を上げたハンムラビが、僅かに声を震わせながら語り出す。
「その…私が湖にアトラ様の懐中時計を落とした直後に…その湖の主である、龍魚が懐中時計を飲み込んで持ち去って行ったのです…」
泣きっ面に蜂のハンムラビの様子に、上司で酔っ払いのヨハンナがニヤつく。
「その…それ以降も回収は試みたのですか?」
予想外の展開に半信半疑なアリサが、その後の経過について説明を求める。
「はい…釣り針を垂らしたり…大規模な網を仕掛けてみたりしたのですが…結果を得られずに、今日に至ります。」
オホンっと何とか冷静を装うハンムラビが続ける。
「推測ですが…龍魚が飲み込んだ懐中時計に似た、光沢のある物を好む傾向があるのではないかと思われます。そこで…作戦があるのですが…」
「その…まさか…」
歯切れの悪いハンムラビに対して、サクラは嫌な予感が走る。
「はい…南花さん達が、お持ちのアトラ様の懐中時計を餌にして、龍魚を誘き出して釣り上げる作戦を進言します。」
「嘘でしょ…」
真面目なハンムラビに対して、南花は目が点になってしまう。
「でも…それが一番、有効そうな作戦だよね~ひっく…」
ヨハンナが賛同する。
「そうだな…そして、その龍魚とやらは食えるのか?」
コマチも食欲から賛成を示す。
「まったく、コマチは…私も釣りを体験してみたいし、賛成です。」
「アオイも、コマチと大して変わらないじゃない…でも、確かに面白そうな作戦ですね。」
コマチとアオイと同様に、サクラも眼を輝かせている。
「私も面白いと思うし、やってみる価値はあると思うけれど…アリサはどう思う?」
南花が、アリサの方を見る。
「えぇ…そうね、可能性が高いのならやってみましょう。」
釣竿を投げ入れる様なジェスチャーをして、アリサが僅かに戯けて見せる。
「すいません。皆さんの協力に感謝します。」
南花達から、賛同を得られたハンムラビは、頭を下げる。
「うん…話も纏まったみたいだし…場所を移動しようか?」
頃合いを見たヨハンナが話題を変える。
「龍魚の作戦は、明日の朝から行います。追っ手の事もありますし…今晩は、第一騎士団の非公式のセーフハウスにてお休み下さい。」
ハンムラビが、南花達の状況を踏まえた上で提案する。
「私は、一旦、第一騎士団の本拠点である教会に戻るけれど…ハンちゃん、警備の面で南花ちゃん達に協力してあげて。」
「はい、了解しました。セーフハウスの周囲に探知型の魔術を張りますので、安心してお休み下さい。」
ヨハンナからの指示を受けたハンムラビは、南花達に向けて僅かに微笑む。
「配慮に感謝します。ですが…ハンムラビさん一人に警備を、押し付ける訳にはいきませんので、私達を含めて6人で交代しながら夜を越しましょう。」
ヨハンナからの好意に対して、アリサは感謝しつつもハンムラビの事を気遣う。
「そうだね…ハンムラビさん、そのセーフハウスにはキッチンや食材の備蓄はありますか?」
アリサに賛成した、南花がハンムラビへ質問する。
「はい、こじんまりとした物ですがキッチンはありますし、食材も備蓄しております。」
「そうですか。ハンムラビさんからの好意に対して、料理で応えさせて頂きますね。」
ハンムラビからの答えに対して、南花は自慢気な表情を見せる。
「えぇ~ハンちゃんだけズルいなぁ…私も、第四騎士団内で評判だった南花ちゃんの手料理食べてみたいのに…」
「ヨハンナさんには、明日の作戦後の晩餐で、もてなしをさせて頂きたいと思いますので楽しみにしておいて下さい。」
食欲がヨダレとして現れているシスターを、南花が宥める。
「それでは、セーフハウスへ案内させて頂きます。」
ハンムラビの言葉へ、南花達は頷き…導かれていく。




