39話『古巣と兄妹』
首都機関【バベルの塔】の地下階層にある資料室にて…
西圏側の第四騎士団の活動に関する定期報告書を納めに来た、騎士団長のダージリンと秘書のグレイの2人。
「おっ、おや、南花君とアリサじゃないか…偶然だね。」
資料室を後にしようとするダージリンは、決められた密会を、あたかも偶然と装うとするがぎこちない。
「おほん…南花さんとアリサさんは、どうして地下資料室に来たのですか?」
ダージリンのわざとらしい演技を見かねたグレイが、改めて切り出す。
「お久しぶりです。ダージリン団長、グレイさん…私とアリサは、東圏側A区の孤児院で行った炊き出しの支出報告書を納めに来たんです。」
古巣の上司2人に対して、軽く一礼する南花。
「えっと…その、会うのは久しぶりだし…お互いに話したいこともあるだろうから…私達の作業室に寄っていくのはどうかしらね…兄さん?」
普段の所作からは想像出来ないほどに、目が泳いでいるアリサ。
「そうね、そうさせてもらいましょうか…ダージリン団長。」
「えっ、あぁ…」
南花とグレイは、同時にため息を漏らす。
ーーー
4人は、バベルの塔の下階にある、技術開発局の局員としての南花達に割り当てられた作業室に移動する。
最後に部屋へと入ったグレイは、扉を閉めると…首もとで輝くラピスラズリのネックレスを外し、右手に持った状態で宙にぶら下げる。
次の瞬間…ネックレスは僅かに青白く発光したかと思いきや、直ぐにその光は消える。
「大丈夫ね…私達の会話が聞こえる範囲内に、他の人間はいないみたい。」
ラピスラズリの反応から、盗聴の可能性を排除したグレイは、再び首にネックレスを付ける。
「それにしても何故…私とアリサが、あの時間に資料室を訪れる事が分かったのですか?」
南花は、人数分の紅茶を準備しながら問い掛ける。
「それは、私が地上に常駐する冥界の執事の一人で、ドゥムジと通じていたからよ。」
ダージリンよりも先に、グレイが単刀直入に切り出す。
「おい…グレイ…」
早速、本題過ぎる流れにダージリンは、思わずたじろぐ。
「そして、南花さんに謝罪しなければならないの…あの誕生日の日、あなたの身に危険が迫る事を知った上で、森へ行かせてしまったことについて…ごめんなさい。」
南花に視線を数秒向けた上で、グレイは深々と頭を下げる。
「それに関しては、同じく看過していた私も同罪だ…南花君、申し訳なかった。」
ダージリンも続けて、謝罪する。
グレイの重たい告白とダージリンの謝罪に、南花とアリサの思考が一瞬、止まる…
「そうですか…あの時とは、状況が大きく異なるので…グレイさんの立場上の動きに関しても、今なら理解出来ますので…2人とも頭を上げて下さい。」
そう言いつつも…ダージリンとグレイの手元に置こうとしている紅茶を持つ、南花の手は震えている。
「そう言って貰えると助かるわ…ありがとう。」
「あぁ…理解してくれて、助かるよ。」
ダージリンとグレイは、南花に対して感謝する。
「…そういう事なら、兄さんは、私と南花が出会うことも知っていたという事かしら?」
アリサもあの日の出来事に関して、問い掛ける。
「いいや…あの日のアリサの動き関しては、何も知らなかったし想定外だよ。」
妹からの問い掛けに応じるダージリン。
「えぇ、アリサさんが、あの日に経験したことは何も関与していないの…」
グレイも同じく、首を横に振る。
「そう…兄さんとグレイさん、答えてくれてありがとう。」
礼を告げたアリサは、別の可能性を模索する。
「ダージリン団長、一つ確認なのですが…どうして、冥界の統括長であるエレシュキガルさんに対して協力したのですか?」
気持ちを落ち着かせた南花が、問い掛ける。
「それに関しては…過去に、西圏側の統括長であるイシュタル様が、多くの反対を押しきり【冥界攻略】を実行したが、失敗したことが関係しているんだよ…」
紅茶を一口飲んだダージリンが続ける。
「ただ、攻略に失敗しただけではなく…エレシュキガル様の権能によって、冥界に捕縛されたイシュタル様を奪還する為に、帝国側が大きな損失を出したんだよ。」
思わずため息を漏らすダージリン。
「そして、その攻略の際に、冥界の門番を担当していた、7人の冥界の執事の内…4人を殺害した上に、何も戦果を得られないのは不味いと判断したのか…生き残った執事の3人の中から、私ともう一人の執事を捕虜として、地上へ連れ帰ったのよ。」
グレイが自身の身に起こった、現実を淡々と語る。
「その攻略行為が、太古の大戦を経て、調和が取れていた【バビロニア】と【ティアマト】の関係を険悪にしたと言う意見が、帝国内に浮上したんだよ…そして無論、その行いは【アヌの使徒】にも知られる運びに繋がるんだよ。」
ダージリンとグレイは、上司であるイシュタルの横暴に頭を悩ませる。
「なるほど…それが、アトラさんが帝国を訪れて【再構築計画】の発動を促した一因にもなったと言うことね…」
アリサが現状に至った可能性を口にする。
「えぇ、その通りね…そして、これから紹介する2人も、きっと南花さん達に協力してくれるはずよ…」
グレイが南花へ視線を向けて、語りかける。
「はい、ありがとうございます。どのような方なのですか?」
南花がダージリンとグレイの2人を交互に見る。
「その2人は、第一騎士団の団長【ヨハンナ・ユノー】と、その秘書を務める【ハンムラビ・ミドラーシュ】だ。まぁ…癖は強いが、優秀な女性2人だよ…」
そう告げたダージリンは、何故か視線を反らす。
「そうですか…先ずは、その2人に会いに行ってみますね。」
首を傾げつつも、新たなヒントくれた2人に、南花は感謝する。
「南花君とアリサの選択へ協力出来たのなら、嬉しいよ。」
そう告げたダージリンとグレイは、退室しようとする前に、再び口を開く…
「私達は尾行されている以上…南花君とアリサにこれ以上の協力は出来ないが…2人とも気を付けてくれよ。」
「私も2人の決意が成就することを応援するから。」
作業室のドアの前に立ったダージリンとグレイが、最後の言葉を掛ける。
「はい、ありがとうございます…あの誕生日の出来事に関しても教えて下さり感謝します。」
先に南花が、感謝を言葉にし頭を下げる。
「2人とも助言をくれてありがとう…兄さんもグレイさんも気を付けてね。」
軽く右手を振るアリサを見た、兄のダージリンとグレイは、作業室を後にする。




