間章-偵察のアリサ-
炊き出しを名目に孤児院の地下に潜入したアリサは、その先にある秘密のドアを警戒しつつ少しずつ開ける。
アリサは、0時方向…3時方向…と安全確保をし、次に9時方向に視線を向ける。
次の瞬間…アリサは、手にする単発式拳銃の引き金に指を掛けてた状態で、静止してしまう。
「うん?これは…ゴーレムかしら?」
思わず疑問を口にし見上げたアリサの眼には、直立状態でフリーズした、約2メートルの女性型ゴーレムが映る。
「ここが…帝国憲兵の出所に関連する施設なの?」
アリサは女性型ゴーレムから、吹き抜けの高い天井、監視棟、施設の中心地にある林檎の木の順番で見渡す。
そして、林檎の木が生える花壇に腰をかける存在に気が付く。
「そうだよ、ここは【地下養成管理棟】…今日はアリサ君一人か…まぁ、いいけど。」
そこには、冥界の生徒会長【エレシュキガル】がいて、木から落ちた林檎を手にしている。
「なぜ…あなたがここにいるのですか?」
アリサは、警戒しながらエレシュキガルに近付く。
「あぁ…安心して、ドゥムジちゃんの能力で、この施設の人達には少しの間だけ眠って貰っているから。」
その言葉と同時に、林檎の木の後ろから、冥界の執事の一人【ドゥムジ】が姿を現す。
「まぁ、忠告しに来たってところかな…」
「忠告ってどういうこと?」
エレシュキガルの言う通り、施設の人間達が気を失っていることを視認したアリサは、手にする単発式拳銃の銃口を下げる。
「その事に関しては、私の方から説明させて頂きます。」
ドゥムジが淡々とした口調で語り出す。
「地上に常駐する2人の冥界の執事によると…クロウさんと源さん達の動きに対して気付き、反感の感情を抱く勢力が、帝国西圏側にて強くなっているとのことです。」
「まぁ…変革派の東圏側とは違って、西圏側には保守的な人間が多いからね。」
エレシュキガルが補足説明する。
「それで今後は、西圏側の動きにも注視してください。特に治安維持の名目を盾に、強引な手段も厭わない【秘密警察】に関しては特に…」
「秘密警察…兄さんから聞いたことがある…東圏側の帝国憲兵に似た組織だって…」
思い出す素振りを見せるアリサに対して、エレシュキガルが声を掛ける。
「そのお兄さんこと、第四騎士団【ダージリン・イレブンジス】団長と、その秘書である【グレイ・ナイトキャップ】は、既に秘密警察に尾行されているっぽいよ。」
「そう…異父兄妹とは言え繋がりのある私と…南花の古巣であることを踏まえれば…当然の対応ね。」
私たちのせいね…っと続けて呟き、自責の念に駆られるアリサの心情を表すかの様に、ドゥムジが持つ錆び付いたランタンの光が揺らめく…
「明日の午前11時に、ダージリン騎士団長とグレイが、首都機関を訪れる予定になっているそうです。」
ドゥムジが地上の協力者から得た情報を、アリサへと伝える。
「そこが自然を装って会える最後の機会かもね…っと!」
そう告げたエレシュキガルは、手にしていた林檎の実を、アリサに向けて軽く投げる。
「…はい、ありがとうございます。」
投げられた林檎の実を反射的に受け取ったアリサは、素直に感謝を告げる。
「用件は伝えたことだし、この辺で終わりにしようか…じゃないとアリサ君が、とても硬い娘だと思われちゃうしね。」
「硬い?」
エレシュキガルの発言の後者の意味を汲み取れないアリサは、首を傾げる。
「だって、トイレに籠っていることになっているんでしょ?だから…」
「!…分かったわ、だからそれ以上は言わないでくれるかしら…」
アリサは赤面しながら、品のない発言者に銃口を向けて黙らせる。
「ふふ…冗談だから、本気にしないでくれないかい。」
「下品過ぎでしょ…おほん、これ以上は私の能力が持たないということです。」
ドゥムジは、上司に対して軽蔑を通り越して、諦めのため息を漏らす。
アリサが、孤児院へと続く扉を閉じたことを確認したドゥムジは…
勢い良く鉄製の錆び付いたランタンを振り回す。
そして、エレシュキガルの後頭部を正確に捉える。
「くぅ…それは痛いよ…ごめん、そんなに怒らないでよ。」
「もっと冥界の統括長としての品格を持って下さい。」
部下から説教を食らう冥界の生徒会長と、上司に対して物理的な制裁を加えた執事は、黒い沼に沈んでいくかの様に、その場から去っていく。




