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38話『ペルソナの後片』

16歳のユキノと18歳のミランダは、極限状態の実戦に近い試験で、対峙する…

その内容は、参加人数に対して明らかに少ない支援物資と報酬を奪い合い、七日間目の日没まで生き残る形式である。


帝国の開発計画の一環として、封鎖された村で行われる試験も七日間目の黄昏時という最終局面を迎えている…


見棄てられた学校の図書室で、疲労の色を隠せないユキノとミランダが、にらみ合う。

お互いの胸元に埋め込まれた【疑似神格術式】を次の形態へ昇格させる為に、必要な報酬が入った箱の前で…


「ユキノ、ごめんね…今回ばかりは、あんたでも譲れないから。」

「それは、コッチのセリフだからミランダ。」

お互いに残弾数が少ない回転式拳銃リボルバーの銃口を向け合う…


「ユキノのお得意の迷彩魔術も品切れ?」

「そういうミランダこそ、蜘蛛の糸は出せない感じでしょ?」

お互いが、次の出方を窺っている…


しかし、そこにユキノの背後にある窓から、漁夫の利を狙っていた少年が窓を割り…

その勢いのまま、背を向けるユキノから制圧を試みるが…

ミランダは、自身の能力である、残された糸を口から絞り出し、ユキノをはね除け…

少年の攻撃の射線上から外す。


「くぅ…あぁ!」

そして、ミランダは眼前に迫る標的に向けて発砲し、見事に命中させるが…

少年が放った火の弾により脇腹を焼かれる。


ミランダと奇襲が未遂に終わった少年の2人は、同時に倒れる。


「あぁ、ミランダ…」

負傷したミランダの様子に、慌てたユキノが体を軽く左右に揺らしただけで、拘束していた糸は容易く解かれた…


「医療キット…医療…あっ、あった!」

さっきまでミランダとにらみ合いをしていた箱に駆け寄ったユキノは、目当ての報酬には目もくれず…同梱されていた包帯と消毒薬を手にし、ミランダへ応急措置を試みるが…


「ユキノ…何をしているの…報酬の昇格印を手にして…さっさと逃げないと、別の候補生が嗅ぎ付けて来るから…」

「こんな状態のミランダを置き去りにして行ける訳ないでしょ!」

必死に応急措置をするユキノの姿に、ミランダは痛みの中、苦笑する。


「なんの為に最後まで生き延びたのよ…今回の試験をパス出来なかった人間は、【化物シュタイン】の素材として廃棄されるって通告されていたでしょ?」


「分かっているよ!ミランダと共に、試験をパスしたかったよ…でも、想像以上に試験が難しくて…それが叶わないんだったら…」

ユキノは、涙をこぼしながら応える。


「私よりも優秀な、ミランダこそ生きて…帝国に貢献して欲しいっと思ったから…この図書室でにらみ合いになった時点でそう…決めたから…」

「そう…ありがとう。良い後輩に恵まれたな…でも、いくらアタシが優秀でも既に手遅れなの…」

残された力で、そう呟いたミランダは、何とか動く右手でシャツのボタンを外し胸元を、ユキノに見せる。


「ウソ…なにこの色は?」

ミランダの胸元にある【疑似神格術式】は、黒ずみ全く鼓動を感じられない…

「あはは、うん…アタシのやつはここに来て、拒絶反応が強くなって…腐ってしまってもうダメみたい。」

そうぼやくことしか許されないミランダは、ユキノの応急措置の手を止めさせる。


「だからさ…ユキノが、アタシの分まで生き残ってくれる?お願いだから…」

ミランダの涙に誘われ、ユキノは泣き叫ぶ。


血で汚れた手で涙をぬぐったユキノは意思を固める。

「……うん、わかった。これからの試験も全て合格してみせるよ。」

不器用な笑みを見せる姿に、安堵したミランダが続ける。


「ごめん、ユキノ…もう1つ頼みごとがあったわ…」

「うん?な、何?」

ユキノはキョトンした表情を見せたかと思いきや、何かを察して、表情が曇る。


「その銃でアタシを撃って…そして、アタシを化物シュタインにさせないで。」

「えっ…うん、分かったよ…」

嫌な予感が当たり、ユキノは一瞬だけ戸惑うが、ミランダの眉間に銃口を向ける。


「違うでしょ…疑似神格術式が完全に機能を停止しない限り、アタシ達は生存する可能性があるでしょ?」

ミランダは自分自身で、向けられた銃口を胸元まで下げる。


「うん…知ってる…」

そう応えたユキノだが…回転式拳銃リボルバーの引き金に指を掛けられない…


図書室での争いを嗅ぎ付けた、他の候補生が慎重にだが、確実に目当ての昇格印に近付いてくる足音が聞こえる…


「これからも頑張りなよ…泣き虫の後輩…」

「ありがとう…優しい先輩…」


ーーー


夜が近づき暗闇の支配が強くなってきたなか…図書室での僅かな光を、校庭の木に止まる機械的な鳩が見つめる…


「ふぅん…ユキノ君、興味深いねぇ…」

自身の魔術で遣わせた電子鳩で、今回の試験を観察していた統括長ドミニウムの一人エンキが、手にする候補生のリストに視線を落とす。


「いくら…帝国の為とは言え、こんなやり方には、俺は賛成しづらいな。」

好感触を示すエンキとは、打って変わって顔をしかめるのは…

帝国西圏側の統括長ドミニウムを務める大男【マルドゥク】である。


「全ての試験を合格した人間の中から、君とイシュタル君が運用している西圏側の【秘密警察ジーク】にも配属されているのだろう?」

「確かに…そうだな…利益だけを見て、その裏にある犠牲には目を瞑るのは、虫が良すぎるな。」


地下養成管理棟パノプティコンの進捗を視察した、エンキとマルドゥクは、その場から去る。

3章の最後まで、お読み頂きありがとうございます。

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