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37話『ペルソナの中片』

不気味な白さを放つ【地下養成管理棟パノプティコン】の全景に、15歳のユキノが呆気に取られていると…

その背後から、巨大な影が迫る。


「アナタは…冬野ユキノですね?」

「はい?そうですがぁ!」

驚きが漏れたユキノの視線の先には…約2メートルの背丈の内7割が足と言っても過言では無い、人間の女性と見間違う警備ゴーレムが、ユキノの顔を凝視している。


「ユキノ、アナタの部屋はこちらです。付いてきて。」

丁寧なのか、命令口調なのか安定しない警備ゴーレムは、カツン…カツンっとヒールの様な形をした足で歩いている。


「はい…分かりました。」

ユキノも言われるがまま、付いていくしかない。


警備ゴーレムに案内された先には、レンガ造りの壁面とは異なる、分厚いコンクリート製の扉が冷たく重たい雰囲気を放っており…

その扉の上部には、室内を覗く為の監視窓…扉の下部には食事を提供する為の窓が設置されている。


「コチラに入れ。」

「えっ…はい…」

顔立ちが整い過ぎて不気味な雰囲気を放つ、警備ゴーレムに圧倒されたユキノは短く返事することしか出来ない。


「おっ…あんたが聞いていたアタシのルームメートね…」

狭い室内の右側の壁面に打ち付けられた2段ベッドの下段に、ユキノと同年代の少女が腰を掛けて本を読んでいる。


「アタシは、【ミランダ・ロマノ】17歳ヨロシク~」

冷たい室内とは対象的に、明るい少女は茶髪のポニーテールが良く似合う。

「はい…私は冬野ユキノと言います。15歳です。」

年上である同居人に、ユキノはペコリと頭を下げる。


ミランダへ挨拶を終えたユキノは、改めて狭い室内を見渡す。

とはいえ、2段ベッドの反対側に木造の作業机が2つ…

重苦しい扉から見て奥にあたる壁には、簡素なクローゼットに、丸窓から光が差し込んでいるだけの質素な部屋である。


「(夜中に来たし…何よりもここって地下施設なんだよね…)」

部屋の上部にある丸窓に対してユキノが疑問を抱いていると…


「あぁ、あの光は照明によるもので…理由は聞かされていないけれど、この施設は、外の世界とは昼夜逆転しているの。」

ユキノの視線に感付いたミランダが応える。


「へぇ…そうなんですか…」

説明されたものの、合点を得ないユキノ。


「ユキノはどこ出身なの?」

「えっと、私はB区の城壁付近のレンガ造りの村です。」

作業机の椅子に座ったユキノが応える。


「あぁ…数年前にティアマトの魔獣から襲撃を受けたっていう所だったよね…」

目の前にいる被害者のことを思い、ミランダの声のトーンが落ちる。

「はい…それからは、A区にある孤児院で生活していました。」

昔のことを思い出したユキノの顔が僅かに曇る。


「えっ~と、アタシはさ…A区で色んな商売をしている資産家の娘だったんだけど…望まない相手との間に出来た、望まれない子供として扱われててさ…家出を繰り返していたら、ここの人間に声を掛けられたっていう流れだなぁ…あはは…」

自分自身の経緯も話したミランダは苦笑する。


お互いの経緯を話していると…

またしても、カツン…カツンっとヒールに似た足音が近付いてくる。

そして、扉上部の監視窓がノックも無く、唐突に開かれる。


「2人とも食事ダヨ…食べて下さい。」

言葉遣いが安定しない、女性型の長身ゴーレムが食事を持ってくる。

次に、扉の下部にある食事を渡す窓が開けられる。


「コッチがユキノのやつです。」

そう言われ渡された、トレーに乗った食事は、クロワッサンにサラダ、コーンポタージュと一見すると普通に見えるが…

コーンポタージュを凝視すると、ユキノがいた孤児院にも咲いていたランタナの花びらが散らされている。


「はい、コチラがミランダのやつになりますん。」

次にミランダ用に渡された食事はユキノと同じ、ランタナのコーンポタージュ、サラダだけではなく…ランタナの実を使用したジャムが塗られたバケットと言うメニューである。


2人の食事を渡した、長身ゴーレムは立ち去ること無く、新入りのユキノを凝視する。


「…いただきます。」

困惑しつつもユキノは、孤児院で見慣れたランタナの花が浮かぶコーンポタージュから少し口にする。

「えっ!?いきなり!」

何故、ミランダが驚いたのか分からなかったユキノだが…


「うっ!?おぇ…」

喉に強い刺激を感じたユキノは思わず、コーンポタージュを吐き出す…

すると…生気を感じられないはずのゴーレムの目元が変わる。


次の瞬間、ゴーレムは扉の上部の監視窓に右手を突っ込む…

そして、その右手は、金属が擦れる際のかん高い音を立てながらユキノの首もと目掛けて、伸びてくる。


「かはぁ!」

唐突に首を掴まれたユキノは、その場に倒れ込む。

「ユキノさん…これはお前の未来を思ってのプログラムです。忠実に完遂する事を願います。」

そう警告したゴーレムの伸びた右腕全体が発光し始める…


「っうぅ!」

首を掴まれた状態で、電流による制裁を受けるユキノは短い悲鳴を上げることしか出来ない。

「分かりますか?」

ゴーレムによる再度の警告に、ユキノはなんとか大きく頷いてみせる。


ようやく解放されたユキノは、四つん這いの状態で息を整え様とするが…

背後から相変わらず、冷酷な視線を感じ…息が完全に整う前に…

再びコーンポタージュと対峙する。


そして、意を決して…一気に飲み干す。

そのユキノを見届けたゴーレムは、次にミランダの方に視線を向ける。


「あぁ、ハイハイ…」

ミランダは慣れた様子で、ランタナのジャムが塗られたバケットを、ホイホイっと口に入れて完食する。


そうすると…ゴーレムは、ようやく隣の部屋に歩みを進める。


「はぁ、はぁ…全く、ここは何なの…」

異物から与えらた、異物を無理やり飲み込んだユキノの口から不安が溢れ落ちる。


「ここはね、無神格でありながら大気中のマナ由来の魔術を扱える存在である…

異邦の黒魔女【モルガーナ・ピルグリム】の血を引く末裔の中から、同様に魔術を行使出来る人間を選別する場所、ブロイラーね。」

ミランダは、無理をしたユキノの背中をさすりながら告げる。


「でも、どうやって…そのマナ由来の魔術が扱える存在になれるの?」

ミランダの心遣いに感謝したユキノが、更に問い掛けると…


すると…ミランダは、シャツの上のボタンを外しユキノに胸元を見せる。

「これは…首都機関の地下に凍結されている、太古の土人形エンキドゥに纏わる技術を元に開発された…『疑似神格術式』の第二形態よ。」


ミランダの胸元には、花の蕾に似た模様が刻み込まれ、僅かに鼓動している。

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