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33話『きりこと硝子細工』

ユキノと友達だった【きりこ】と出会った南花達は、彼女の工房の前に立っている…

「おしゃれな工房…」

南花の口から感嘆が漏れた外観は、外からでも店内を伺えるガラス窓兼ショーケース、レンガ造りの壁面に、屋根は日本瓦と和洋折衷の出で立ちをしている…


「アタシの親父、むさしと同郷だった鉄之助さんも、この工房の建設に協力してくれたらしいんだよね…」

軒下の風鈴が鳴らす、軽やかな音に耳を傾けながらきりこが、補足説明する。


「へぇ…私の父さん、こんな仕事もしていたんだ…」

「はい?…源さんって鉄之助さんの娘さんなの!?」

工房までの道中は、サクラ達と昔話に集中していた【きりこ】の瞳に、南花の背後から後光が差す。


「はっ!季節外れの暑さの中…こんな田舎まで、ご足労頂いてありがとうございます…なんてね、これも何かの縁だし宜しくね南花さん!」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします。」

南花におどけてみせた、きりこは工房の扉を開き、主として客人達を歓迎する。


ーーー


1階の商店部分から、地下の作業室に南花達は通され…

室内の片隅にある、木製の丸テーブルと椅子に座っている。


「お待たせ…大した茶菓子ではないけど良かったら食べてよ。」

きりこは、市松模様の透明感のあるグラスに入った抹茶ラテと栗羊羮を5人の前に差し出す。


「これもシベリアの仲間か!」

最近見た映画で知った菓子に似た存在に、コマチの瞳は輝く。

「ううん、これはシベリアの中身だけって言えばいいのかな?羊羹だよ。」

きりこへ短く礼を伝えた南花が、コマチに諭す。


「これはゼリー?…なぜ、カリカチュアに出てくるモノリスみたく黒いのかしら?」

初めて見る黒い物体に、アリサは戸惑いの視線を向ける。

「『この世の全ては、創造主アヌの導き通りに…』って、なんてね…羊羹、私も初めて見るよ。」

サクラは、掛けている丸眼鏡のブリッジ部分を、右手の人差し指で軽く上げる。


「初めて食べたけど、きりこさん美味しいよ。」

一口食べたアオイは、上品な甘さを讃える。

「それは良かった。」

きりこも木製の椅子に座る。


「それで、アタシに私に手伝えることって何かな?」

市松模様のグラスに入る抹茶ラテを一口、飲んだきりこが切り出す。

「きりこさん、それはですね…」

サクラが、代表して口を開く。


「ふぅ~ん…あのユキノが帝国憲兵に姿を変えている可能性か…」

衝撃の内容に、寂しげな表情を見せたきりこが、小さい頃の記憶を辿る。


「確か…10年前の魔獣達の襲撃で両親を失ったユキノを、うちで面倒見るっていう話をアタシの親父がしていたんだけれど…そこに首都機関から、事件の事後処理に来ていた職員が家を訪れて…」


「その職員がユキノを別の孤児院に連れて行ったはず、それがサクラ達が言っている場所と同じとは限らないけれどね…アタシの親父が生きていたら、詳しいことを知れたと思うけれどごめんね…あの時の【流行り病】で命を落としてね。」

辛い記憶を、ドミノ倒しの様に更に思い出した、きりこの表情が更に曇る。


「それは残念ですね…あの【流行り病】に…」

同情を示したアリサは、冥界の統括長ドミニウムである【エレシュキガル】の関与を思索する。


「ううん、きりこさんありがとうございます。ユキノ姉さんが孤児院に引き取られたっていう事実を聞けただけでも進展したので…」

感謝するアオイが、きりこをフォローする。


抹茶ラテを一口飲んだ、南花が作業室に並ぶ硝子細工達を見渡す。

そして、キューブ状の淡いガラスに埋め込めれた時計を見つけると、何故か惹き付けられ…

席を立った南花はその時計が置かれた棚の前に立ち、更にじっくりと見る。


「あぁ、その時計はね…親父と意気投合した旅人【アトラ】さんが、うちの工房で硝子細工の体験をした際に作って、置いていった物だったかな?」

きりこの説明を何となく聞いている南花だが…


「ふぇ!?【アトラ】さんの時計!」

南花を始め、他のアリサ達4人も驚嘆する様に、きりこも驚く。


「みんなの驚き過ぎた様子に、アタシもびっくりしたじゃんか…この時計ってそんなに貴重な物なの?」

親父の形見の一つとしてしか見えないきりこが不思議がる。


南花が少し考える素振りを見せた後に、口を開く。

「実はですね…私とアリサも同じくアトラさんの時計を、父親から引き継いでいまして…」

南花がどこまで話すのか、気になるアリサが眉をひそめる。


「アトラさんの時計を全て組み合わせることで、完成する【作品】がある事を、少し前に知ってですね…きりこさんのお父様の大事な形見であることは承知の上で、お譲り頂けたらと思います。」

神妙な面持ちで申し出た南花が、深く頭を下げる。


「その【作品】を見れば世界が変わるとも聞かされて…最近、疑念を抱かざるを得ない現実が立て続けに起こってですね…余計に見てみたくなってしまったんです。」

視線をきりこに戻した、南花が決意する。


「そう…私も、鉄之助さんとアタシの親父の合同作品をもう一度、見てみたいな…」

それまでの明るい表情とは、打って代わり、南花のただならぬ空気を汲み取るきりこ。


「うん、そうだね…私もその作品、俄然気になるなぁ。」

南花が立ち上がったことで、空席になった椅子に、冥界の【生徒会長エレシュキガル】が座っている。


「へっ?…いつの間に」

隣に唐突に現れた統括長ドミニウムに驚きを隠せないアリサ。

「あっ、これ美味しい!」

唖然とするアリサ達を他所に、南花が残した羊羹を頬張るエレシュキガルの瞳はキラキラとしている。


「全く…いつも黄泉ちゃんは、急に現れるんだから。毎回、何処から入ってきているんだか…」

南花達とは、異なり差ほど驚いていないきりこ。


「黄泉ちゃん?貴方は、エレ…」

サクラが、エレシュキガルであることを確認しようとするが、黄泉ちゃんは口元に人差し指を当てて、シッーっと呟く。


「どうやって?って作業室よりも更なる地下から入って来ているよ…ぷはぁ!」

南花が残した抹茶ラテを、勢い良く飲み干すエレシュキガル。

「ここの工房は作業室の地下一階しかないのに、何を言ってんだが…」

やれやれ、といった表情をきりこが見せる。


「(この人の場合は、本当の冥界ちかから来ているんだよ…)」

っと南花は、伝えようとするが呑み込む。


「どうやら、決意してくれたみたいだね…期待しているよ。」

席から立ち上がったエレシュキガルは、真剣な眼差しで南花を一瞥する。

そして、きりこが茶菓子を運んできたキッチンの方へ歩みを進める。


「それじゃあ、また会う日まで!」

そう軽く手を振ったエレシュキガルは、きりこが羊羹を取り出した冷蔵庫の扉を開けると…

その冷蔵庫の中に消えて行く…


「ど…どういう原理…」

取り残された南花達は、全員同じ疑問を浮かべている。

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