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30話『偽りの瓦解』

一発の銃声が、黄昏時の古びたレンガ倉庫内に響き渡る。

銃口から煙を上げるのは、パネトーネが手にする回転式拳銃リボルバーではなく…


レンガ倉庫へ向かう道中の坂道で、柘榴を拾うために脇道に逸れた

パネトーネの取り巻きの女生徒が、引き金を引いていた。


「はぁ?…ッウ!」

回転式拳銃リボルバーを持つ、右手に銃弾がかすめたパネトーネは…

キョトンした顔を見せたかと思いきや、遅れて襲われた痛みに怯む。


次の瞬間、アリサの周囲に飛散していた複数の柘榴が、大量の煙幕を吐き出す…

そして、一同の視界が奪われる。

充満する煙のなか、残る取り巻き達が放つ銃声と短い悲鳴が、南花の耳に届く。


煙幕が霧散し、再び視界が晴れると、そこには帝国憲兵アハトが佇んでいて

パネトーネ側の面子が全て意識を失い、地面に伏している。


「流石に、あれ以上は看過出来ないと思い介入させてもらいました…」

一番近くに座り込む南花に歩み寄ったアハトは、ハンカチを取り出す。

「南花さん、宜しければお使い下さい。」


「アハトさん、あの時に入れ替わっていたんですね…助かりました。」

感謝を告げた南花が、アハトの善意を受け取ろうとすると…


眼前の帝国憲兵の目元だけを隠した仮面に、薄氷の様な亀裂が入り…

瓦解していく。

そして、僅かに上がった口角だけでなく、微笑む女性の目元が露になる。


「あっ…しまった…」

微笑みから焦りの表情に変わってしまった女性の目元は、帝国憲兵としての口調に反して、新雪の様に冷たくも柔らかな雰囲気を放っている。


「【八型憲兵アハトさん】、彼女達を制圧する際に銃弾がかすめていたみたいね?そして、貴方は、誰なのかしら?」

アリサが神妙な面持ちで、問い掛ける。


「…その質問には、無論お答えすることは出来ませんよ、アリサさん。」

いつもの帝国憲兵アハトとしての口調で応えるが…


「その目元…その声…【ユキノ】姉さん?なんでしょ?」

チョーカーによる痛みから解放された、サクラが信じがたい現実に釘付けになる。


「はぁ…やっぱりな…アハトとの初対面の時に、感じた匂い…小さい頃に身近にあったものと同じだった訳か…」

同じくチョーカーの痛みが解消された、コマチは合点を得る。


「どういうことなの?」

状況に追い付けていない南花が疑問を発する。


「南花さん…私達3人が、まだ出身の村にいた、小さい頃に、一緒に遊んでいたお姉さんがいたんだけど…私達と同じく孤児になった一人で…」

アオイが驚きを感じつつも、南花の質問に応える。

「行方不明になっていた【冬野とうのユキノ】さんと、アハトさんが似ているということなんです。」


「…そうですよ。御夏みなつさんの言う通り、そっくりさんなだけです…」

アオイの言葉を拾い、八型憲兵アハトが口を開く。

「お三方と同様、あの【無神格】が集う村の出身と言うならば、その【ユキノ】さんと言われる方は、魔術が扱えない可能性が高いはずです…」


「それに対して、私は魔術が扱える【四神格】の持ち主である時点で別人じゃないでしょうか?」

目の前の八型憲兵アハトは、冷静にユキノと言われる人物とは、別人であることを示唆する。


「いいえ…それだけでは、同一人物の可能性を払拭出来ないはずよ。何故なら、兄さんによれば、帝国憲兵達が有する神格は…」

今まで静観していたアリサが、西圏側の第四騎士団の団長であるダージリンから聞いた機密の断片を語ろうとするが…


一発の銃声がレンガ倉庫内に響き、その言葉を遮る。


南花達が、銃声が聞こえた倉庫の入り口付近に、視線を向けると…

アハトと同じスカートタイプのスーツと目元を仮面で隠した、小柄の女性が立っている。


「あぁ~もう…アハトちゃんは何をやっているんだか…」

それまでの空気を、弾丸で絶ちきった主の声はフラットである。

そして、言葉を紡いでいたアリサに、真っ先に歩み寄ると…


「お前、少し黙れよ…じゃないと、唯一の肉親が、肉片になるぞ…」

アリサの耳元で、警告を低い声でささやく。


「アハトちゃん、アタシの予備を付けなよ。」

フラットな声に戻った小柄な女性が、アハトに新しい仮面を手渡す。


「えっと…貴方は?」

南花が躊躇いながら、小柄な女性の名前を聞く。


「あぁ、ごめんね!名乗るのが遅れちゃったね!私は、【六型憲兵ゼクス】と言って、機動力を増幅する魔術が得意です。宜しくね!」

六型憲兵ゼクスが敢えて陽気な口調で自己紹介をしていると…


「おい、ゼクス…気安く身辺に関する情報を与えるな…」

ゼクスとは打って代わって、落ち着いた口調で、同じくスーツ姿、目元を仮面で隠した大男が倉庫の入り口から入ってくる…


その大男は、倉庫の周辺を監視していたであろう、意識を失ったパネトーネの取り巻きの一人を、右肩に大きなカバンかの様に担いでいる。


「もう、相変わらず【九型憲兵ノイン】は堅物なんだから。因みに、彼の特徴は…」

「おい!言っているそばから、やめろ!」

巨石の様な雰囲気の九型憲兵ノインを、まぁまぁ…っと小動物の様な見た目の六型憲兵ゼクスがなだめる。


そうこうしていると…街中で数発の銃声が聞こえたという通報を聞き付けた、東圏側の一般兵士達が、雪崩れ込んで来る…


そして、各々が事情を聴取されるなか…帝国憲兵達は、手短に報告する…


「今日、見たことは深追いしないでね?それじゃ…」

六型憲兵ゼクスは、アリサを改めて注する。


そして、去っていく八型憲兵アハトに、アオイが呼びかける。

「ねぇ!本当はユキノ姉さんなんでしょ?ねぇ…ってば…」


しかし、八型憲兵アハトは振り向くこともせずに、他の2人の憲兵と共に闇夜に消えて行く…

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