表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/79

23話『零雨の鯨』

ハードなスケジュールをこなした、南花を始めとする狙撃小隊の面々は、同じ一つのテントで眠りに着いている。

闇夜の中、テントの屋根をポツポツと打つ小雨の音だけが僅かに聞こえる…


「その…ハンバーガーも…わたしが、食べる!」

夢の中でも食欲旺盛なコマチは、右手を振り上げ空を掴むが、無論空振りする。

そして、振り上げた拳は勢い良く降り落とされ…その先には…


「うっ!」

コマチの右隣で寝ていたアリサのみぞおちにクリーンヒット…

謎の鉄拳制裁を受けた被害者は目を覚まし、原因を把握すると、ため息を漏らす。


「(…なに…この音?)」

テントの屋根に小雨が落ちる音に紛れて、アリサ達の周囲の地面を、何かが引きずる音を耳にする。


「…それに、この匂いは…」

南花と出会った、あの日に感じた物と同じグラジオラスの匂いに気付いた

アリサは、寝床の近くに置いてある、愛銃の単発式拳銃シングル・ピストルに手を伸ばす。


「んぅ?…アリサ、どうしたの?」

アリサの立てる物音に気付き、隣で寝ていた南花も目を覚ます。

「南花、グラジオラスの匂いがする…あの日のロングコートの女性が近くにいる…」

起きた南花に警告したアリサは、手にした愛銃の撃鉄ハンマーを起こす。


「ウソ…でも、確かに…あの匂いだ…」

親友の命を奪った存在が、テントの布地越しにいることに恐怖を抱きつつも、南花も護身用の回転式拳銃リボルバーを手にする。


2人は耳を澄まし、重たい何かを引きずる音は、南花達のテント付近を時計回りに回っている事を察する。


「…エンキ局長や他の討伐部隊の人達は、気付いてないの?それとも…」

最悪のケースを想定してしまった南花の声は震える。


「いいえ、統括長ドミニウムであるエンキ局長が倒されている可能性は低いと思うわ…でも、ロングコートの女性によって、私と南花以外は眠らされている可能性も否定出来ないけれど…」

テントの布地越しに聞こえる音の行方に注視しながら、アリサはあらゆる状態を思索する。


回転式拳銃リボルバーを握る右手の震えを、左手で押さえつつ南花が提案する。

「アリサ…背後から2人で奇襲すれば、拘束出来るかも…」

「危険ね…でも…南花と出会った日の真相を知れるかもしれないわね」

アリサの心が揺れる。


「2人の話は聞かせて貰ったわ…私も手助けするよ。」

いつの間にか、目を覚ましていたサクラが決意を表す。


「えっ、サクラさん…」

「そう…サクラ、助かるわ。」

驚きを隠せない南花とは違い、アリサは感謝する。


「音の位置的に、ちょうどテントの入り口の真反対に居るはず…」

サクラも地下道化師トネリコとして使い慣れた、中折れ式の回転式拳銃リボルバー撃鉄ハンマーを起こす。


「それじゃあ…出るよ…」

南花に対して2人は無言で頷く。


テントの入り口をそっと開け、小雨が降る外へ出た3人は、時計回りにゆっくりと歩みを進めていく…


何かを引きずって出来た、細く浅い溝の跡を、一歩、また一歩と追って行く。


まず、暖色系の明かりが僅かに見えてくる…


そして、その明かりによって揺れる影が見えてくる…


先頭を行くアリサが振り向き、南花とサクラに視線を向け、奇襲の合図を送る。


「動いたら、撃つ!」

「動かないで!」

「誰!?」

アリサの命令口調に続けて、南花、サクラも声を上げる。


「へぇ?」

予想していた状況とは異なる状況に、3人の目が点になる。


3人の視線の先には、短い足を4本生やしたランタンがいた…

そして、声に反応して、小動物の様に振り向く。

その生命的な動きを見せるランタンには、木の枝が括り付けられている。


「何、これ?」

「どんな魔術なの?」

「誰の仕業?」

予想外な状況に、余計に混乱してしまう3人…


「今晩は…これは私の魔術です。」

背後から声をかけられた3人は…ゆっくりと振り向く。


そこには、ロングコートの女が佇んでいる…


「何のつもり?」

真っ先に口を開いたアリサは、単発式拳銃シングル・ピストルを向ける。

「こちらに戦う意思はありません。あなた方5人に会いたいという方の代理として訪れました。」


「私達に会いたい?私の親友を手にかけた人の仲間の元には行きたくないな…」

南花も回転式拳銃リボルバーを向けながら応じる。


ロングコートの女は、銃口を気にかけることなく続ける。

「その方からの伝言です。『この会合に関して、あなた達には拒否権なんて無いし…寧ろ、会った方が君達にもメリットがあると思うんだけどな』との事です。」


そう、ロングコートの女が言い放った瞬間、テントの周囲が寒色系の明かりに包まれる…


「まさか…この溝が魔術の術式なの!?」

アリサが、真っ先に感付く。


それに対して、ロングコートの女はコクりっと頷くだけである。


そうこうしている間に…南花達の足元が地面から、闇夜を写したかの様な水面へと変貌する。


その水面に、底知れない水中から巨大な気配が近付いて来る…


「えぇ…なに、あれ?魚?」

水面に迫って来るのは魚ではなく、鯨だった…


その黒い鯨は、餌を補食するかのように、大口を開けている。


そして、テントごと5人を飲み込んだ鯨は、水面に大波のような水飛沫を上げ…


何事も無かったかのように、全て消え去る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ