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22話『ハンバーガーと瓶コーラ』

神獣ギルタブリルを討伐した南花達は、濃霧が漂う山中で、夜営の為に複数のテントを張っていた。

人の背丈ほどの高さを持つ複数のランタンの明かりが、陣形全体を照らし…

討伐部隊の内、3人が陣形の周囲を念のために監視している。


南花は、討伐作戦の副産物として手に入った老白ヘンウェンの猪の肉を、レンガを積み重ね作った簡易的なバーベキューコンロで調理している。


「南花、この猪の肉は本当に甘味が強いのか?」

「うん、帝国内で主に流通している豚肉に比べると甘味を感じると思うよ。」

帝国内でも滅多にお目にかからない希少な食材が、円形に成形された状態で焼かれ、余分な脂が赤熱化した炭の上に落ちる様を、南花の隣にしゃがみ込むコマチが見つめる。


「う~ん、良い匂いだね…2人共、今日は、お疲れ様。」

匂いに釣られやって来たエンキが、狙撃小隊として活躍した南花とコマチを改めて労う。

「お気遣いありがとうございます。初めて半神格を持つ統括長ドミニウムの方の魔術を拝見しましたが、途轍もなく凄かったです。」


「ハッハハ、そう言ってくれると私も嬉しいよ、ありがとう。」

南花の感嘆の声に、短く感謝を述べたエンキ。

「流石は、元第四騎士団のメイドさんだね…調理の手際がいいね。」


「いいえ、それほどでもありませんよ…それにしても、夜営をする羽目になるとは思いもしませんでしたよ。」

南花は猪の肉の焼き加減を見つつ応える。


「まぁ、曇天による濃霧の影響で、飛行船の離発着も難しくなったし…討伐部隊のメンバーが疲弊している状態で、山脈を下る訳にもいかないからと言う総合的な判断だね。」

白衣の袖でよだれを拭いたエンキが続ける。


「私の魔術による、連絡手段である電子鳩が使えて、飛行船を介して帝国に連絡出来た上に、飛行船から夜営に必要な支援物資を投下してもらえたのは、唯一の救いだったよ…」


「そうですね…その投下された物資も、投下予定地からずれる程の濃霧ですし、一晩を過ごすほかないですね。」

コマチは2人の会話に混じろうとせず、猪の肉の焼き加減に全力で注視する。


「ふむ、私は負傷したメンバーの様子を見に行って来るとするよ…」

「はい。調理場は、元第四騎士団のメイド源南花にお任せ下さい。」

少し戯けて見せた南花に対して、エンキは僅に口角を上げた後に、白衣の袖に隠れた右手を振りながら去る。


ーーー


夜営の陣形の中心部に設置された晩餐の席には、多くのハンバーガーが並べられている。

ザグロス山脈の高低差の激しい地で育まれた希少な食材、老白ヘンウェンの猪肉をパティとして使用したボリュームのあるメインディッシュの隣には…


皮が付いた状態で揚げられた厚みのあるポテトフライとキンキンに冷えた瓶のコーラがお供として添えられている。


「南花さんの調理スキルの高さだけは認めざるを得ないわね。」

複数置かれた円形のテーブルの元に、真っ先に来たペコが皮肉を軽く放つ。

「あれ?ギルタブリルの毒は、先輩の口の悪さに対する特効薬にはならなかったんですね…残念。」

晩餐の準備を進める南花がジョークで返す。


「フラワリーさん、前回の戦いで得た毒から開発していたワクチンが、効果があったとは言え無理をしないで下さいよ。」

負傷した兵士達の治療に従事していたアリサが、追いかけるようにやって来る。


「クロウさん、心配してくれてありがとう。でも、体を回復させるには、美味しい食事は欠かせないわ!」

初めて見る希少な食材に、テンションが上がるペコ。


「あぁ~お腹空いたなぁ。」

「そうね、神獣を討伐した上に、夜営陣地の警備は堪えるわね。」

空腹を訴えるアオイとサクラは、陣地の警備の交代時間を迎え、やって来る。


そして、陣地の警備を担当する者、負傷し安静にしている者以外のメンバー全員が、晩餐の席に集う。


「今日は、皆、本当にお疲れ様。ギルタブリルを討伐した事で、帝国の文明は更に発展する事に繋がるよ…正式な表彰と報酬は帝国に帰ってからになるけど、思わぬ副産物も手に入ったことだし、勝利を噛み締めようじゃないか。」

犠牲者を出すことなく、作戦の目的を達成出来たことに不敵な笑みを浮かべるエンキ。


「まぁ、どこぞのお堅い統括長ドミニウムとは違って、長い話をするつもりもないし…乾杯!」

帝国の外に出ていることもあり、討伐部隊はアルコールではなく、瓶のコーラで乾杯する。


「な、なんだ?この肉は…噛むことなく肉汁と共に消えていくぞ!」

ハンバーガーにかぶりついたコマチは驚嘆する。


「はぁ~クゥ!肉汁とコーラが体内に染み込んでくるわね…」

そう漏らしたペコの食は止まる素振りすら見せない。


「美味しい…これは食材だけではなく、南花の調理の腕前もあってこそね。」

南花の隣で食べる、アリサは笑みを浮かべ称賛する。

「そう?ありがとう…アリサも、治療の手伝いお疲れ様。」

コーラを一口飲んだ南花は、アリサを労う


「うんうん、南花さんの腕前は本当にシェフレベルだよ!」

ポテトフライを頬張りながらアオイも、南花を褒める。

「そうね、お店の域に達しているよ。」

アオイにサクラも同意する。


大きな任務をこなした討伐部隊の楽しい一時は、あっという間に過ぎていき、就寝の時間を迎える。


ーーー


夜も更け、濃霧が立ち込めるなか…

降り続ける小雨が地面を打つ音だけが、僅かに響く。


その中、ワクチンの効果もあって、警備を担当する程度には回復したペコ…

そして、もう一人の男性兵士がレインコートを着た状態で。夜営陣地の正面の監視を担当している。


「お前さんの後輩が作ったハンバーガー、マジで旨かったよ!」

「そうですか?あれは食材の良さも大きかったと思いますけどね。」

眠らないように、雑談を交わしながら任に着く2人。


そうしていると、小雨の音の中に、何か錆び付いた鉄同士が擦れ軋む音が混ざる。


「なぁ…何か聞こえないか?」

「えっ?暇だからって、やめてくださいよ。」

男性兵士の冗談だと思い、本気にしないペコだが…


「うん?何か、明かりが近付いて来ている?あれは、ランタンの明かり?」

「なんだ?ロングコートを着た女性か?」

突然、現れたロングコートに、赤いグラジオラスの様な色のマフラーを巻いた出で立ちの女性に釘付けになる2人。


「あの、遭難された方ですか?」

「……」

ペコの問い掛けに対して、応じないロングコートの女。


異常事態を他の討伐部隊に知らせる為に、男性兵士が、音と閃光を放つ投擲装置を取り出し放とうとするが…

「あれ?」

「へぇ?」

マフラーから漂うグラジオラスの匂いを嗅いだ、ペコと男性兵士は意識を失い、倒れる。


門番を無効化した、ロングコートの女は、夜営陣地の中に歩みを進めていく…

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