21話『神の蠍とライフル』
南花達、討伐部隊の前に、漆黒の蛇の鱗の様な外皮を持つ巨大な蠍【ギルタブリル】が、地面に広がる底無しの沼の中から現れる。
獲物を屠る為の大鎌の様に鋭い対の触肢、全長15メートルの体躯の末尾には、赤色の瞳を持つ尾宿が睨みを効かせている。
「こ、これがギルタブリル…」
死を直感的に感じざるを得ない存在を目の前にした、ライフルを持つ南花の手が震える。
「目標の方から出てきてくれたね…総員、陣形を整えろ!」
指揮官たるエンキの鶴の一声で、ハッとなった討伐部隊の面々は、冷静に作戦陣形を組む。
陣形の最前線には、巨大な盾を持つペコを始めとする盾兵達が防御陣形であるファランクスを展開する。
そのファランクスの後方に、南花とアリサ、サクラ、コマチ、アオイ達の狙撃小隊が横一線に並び、対ギルタブリル用に開発した弾丸を装填した、レバーアクション式のライフルを構える。
そして、最後方に立ったエンキは、陣形を完成させるために、再び菱形の立体物を取り出し、魔術を発動させる。
「私の半神格の元に展開しなさい【メーエアプス・イージス】」
次の瞬間、菱形の立体物は平面化すると、増殖し、隊列を組んだ各討伐部隊メンバーの足元に、まるでボードゲームの盤面の様に敷き詰められていく…
そして、盾兵役の眼前には、数層の半透明な防御壁が展開される。
最後に、魔術によって形成された玉座にエンキは足を組み座する。
敵意を察知したギルタブリルが、巨大な体躯で突進を繰り出す。
しかし、エンキが生み出した防御壁が、その一撃を阻む。
正面からの一撃を防がれた巨大な蠍は、討伐部隊の右側面に、見た目に反して素早く回り込もうとするが…
「ふっ、させないよ…」
不敵な笑みを浮かべたエンキは、更にクリスタルの様な透き通った立方体を取り出し、別の魔術を発動させる。
「【メーエアプス・タレス】」
エンキが呟くと、討伐陣形の最前線の両端に、琥珀色の柱が立つ…
各支柱の先端にある石英が回り始め、電気を帯びる。
そして、その電気は、霧雨の様な形に変形し、ギルタブリルに対して集中砲火を浴びせ、その動きを牽制する。
「これでも食らいなさい!」
陣形の正面へ強制的に戻された巨大な蠍に対して、ペコは腰の筒状のケースから、投擲用の短い槍を取り出すと、自身の四神格から生み出した魔力を乗せて投げる。
魔力によって、加速が上乗せされた槍は、より素早く標的に向かうが…
ギルタブリルは、右側の巨大な鎌で弾く。
弾かれた槍は、ギルタブリルの足元に拡がる、どす黒い沼に刺さったかと思いきや見る見るうちに沈んでいく…
そして、ギルタブリルの尾宿が開口すると、紫色の炎を吐き出す。
その紫炎は、エンキの半透明な防御壁を捉え…
数層ある防御壁は毒され、徐々に融解していく。
「ちっ…これだから【あの黒魔女】が生み出した化物は厄介なんだよな…」
苦虫を噛み潰したよう顔をしつつ、ぼそりっと呟いたエンキは続ける。
「盾兵の皆、少しの間、引き付けておいて!」
そう指示を出した指揮官は、左手の手元に浮かぶ菱形の立体物を忙しなく回転させ、防御壁を再構築させる。
「了解しました。このエリート首都機関兵にお任せ下さい。」
ペコがそう大口を叩くと、他の盾兵達も巨大な盾でタックルを、ギルタブリルに浴びせる。
複数のタックルを食らった標的は、後退り僅に怯み、動きが止まる…
「今よ!」
戦況を鑑みて、アリサが狙撃の号令をかける。
「うん、核がある頭部を狙って!」
南花が短く頷くと、サクラ達3人も同時に、ライフルの引き金を引く。
銃口から放たれた弾丸達は、見事に巨大な蠍の頭部の外皮を捉え、砕く!
「流石に一回の銃撃では、核は露出しないよね…」
サクラが銃弾により出来た傷口を凝視する。
直撃は免れたとは言え、弱点付近に一撃を食らったギルタブリルは唸ったかと思いきや…
怒りを露にするかのように、尾宿が再び、猛毒の紫炎を吐く。
毒の炎を、防御壁の代わりに盾兵達が防ぐのだが…
「そ、そんな!盾が!」
紫炎を防ぐ為に構えた盾が溶けていく様に、ペコが悲鳴を上げる…
「お持たせ!」
間一髪で、エンキの半透明な防御壁が再び展開される。
「そんな、まずいよ!」
アオイが驚きに似た悲鳴を示す。
その声に反応した南花が、標的の傷口を見る。
すると、銃撃によって損傷した外皮が、回復し閉じられていく…
「対ギルタブリル用の弾丸は数少ないし、それは頂けないな…盾兵は、投擲の後に、即タックルを食らわせて…」
エンキは続けて激を飛ばす。
「そして、狙撃小隊は、標的が怯んだ所に再度、一斉射撃を加えて今度こそ核を露出させようか!」
「了解しました。頼むからもう少し持ってよね…」
表層が融解した盾を心配しつつペコは、他の盾兵と同時に、槍を再び投擲する。
ギルタブリルは、自身に向かってくる複数の槍を、先に左側の鎌で弾き、残りを右の鎌で往なすが…
その直後に、盾兵達の決死の突撃を食らい、怯んでしまう。
「(お願いだから、核まで届いて!)」
そして、神獣を殺す為に、南花が神頼みをしたと同時に…
狙撃小隊は、銃弾を放つ。
鋭い銃撃を浴びた巨大な蠍は、悲鳴を上げ、一時的に動きが止まり、
深く損傷した外皮の奥に、遂に青く光る物体が僅に露出しているのが見える。
「やった、あれがギルタブリルの核ね。」
アリサも思わず喜びを見せる。
「良し!あとは、私にお任せあれ!」
そう言うと、エンキは手元に浮かぶ、右手の立方体と左手の菱形の2つの半透明な立体物を組み合わせる…
すると、形状が五角形に変形し、エンキが座る玉座の前に移動する…
そして、増殖し、重なり合い…
巨大な電磁砲と化す
「私の半神格を弾丸にしなさい【メーエアプス・ヴァジュラ】」
統括長として帝国の頂点に立つ一人であるエンキの言葉に呼応した、電磁砲は雷鳴を上げながら、青白く光りエネルギーを蓄えていく…
致命的なダメージを受けた筈のギルタブリルが、再度、動き出す。
そして、尾宿が最後の咆哮と言わんばかりに、紫炎を吐き出す。
エンキが攻撃態勢に移った為に、防御壁は無い…
討伐部隊に毒の炎が迫った瞬間、ペコが一部が溶けた盾で防ぐ。
遅れて他の盾兵達も加勢するが…
「くっ…うっ!」
損傷した盾が受け止め切れなかった、毒の炎にペコの体が毒されてしまう。
「そ、そんな!ペコ先輩!」
防御手段を持たない自分達を、身を呈して守るペコの姿に、南花は心配する。
「南花、炎を吐き出している尻尾を撃てば、怯むかもしれないわ!」
アリサが、立ち尽くす南花に助言する。
「えっ、確かに…一発だけ弾は残っているし、やってみる価値はある。」
その一言を機に、狙撃小隊の面々は、再びライフルで狙いを定め、銃弾を放つ…
すると、見事に尾宿の赤色の瞳を捉え、毒の炎は止む。
「全く世話のかかる後輩なんだから…」
毒によって体が痺れるなか、ペコは皮肉を南花に放つ。
「軽口を叩く余裕があるなら、もう少し放置してても良かったですね。」
膝を着いたペコに駆け寄った南花は、肩を貸す。
「時間稼ぎお疲れ様!総員、射線から離れて!」
エンキの警告に、討伐部隊達は、止めの一撃の射線上から退避する。
「これで終わりだね…」
玉座に座るエンキは、右手を銃に見立て、形作る…
「ヴァジュラ、射出…」
エンキが宣言すると、五角形の電磁砲は咆哮を上げるかの様に、蒼い雷撃を放つ。
エンキの雷撃は、光りの速度でギルタブリルの核を穿ち、それと同時に15メートルの体躯に強力な電流を浴びせる。
全身を焼かれ煙を上げる、神獣ギルタブリルの体は、脆く、崩れ落ちていく…




