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15話『暁の迷宮杯・後編』

地下遊園地の地下1階にあるコルネッティの自室に、呼吸が荒い部屋の主が汗をかきながら、勢いよく入って来る。

「なんで…こんな事になっているんだよ…」

自室の窓ガラス越しに演目のスコア表を目にした、コルネッティの背中が冷や汗で濡れる。


ディール迷宮杯クルム』の刻々と変わる、ゲーム状況を知らせる掲示板には…果実の木像を3つ全てを回収された上で、その内2つが杯に設置されており…

化物は14体の内12体が討伐され、残り時間が6分32秒である事を告げている。


「やはり、今朝のスーツの女か…くそ」

そして、誰一人として犠牲が出ていないことを伝える表示を見たコルネッティは、今朝に母と自分自身を演じていた女も絡んでいるのではと、直感する。


「支配人、今まで何をしていたんですか!どこの得意先に連絡しても、来ていないって返事されたし…」

コルネッティの元へ、慌てた女性スタッフが駆け寄る。

「すまない、やられた。それより…」

焦る気持ちを少しでも抑える為に、残されたカードを切るコルネッティ。


「キングとクイーンの両方を、今すぐに放て!七光りの小娘2人の思惑を挫いてやる!」


ーーー


「やった、メロンの木像を見つけたよ!」

化物を討伐する最中に、最後の木像を発見したアオイが明るい顔を見せる。

「良し、残る杯も私達の現在地から遠くなかったはず…」

サクラは、南花達と合流するのではなく、自分達で設置した方が早いと判断し、残る杯までのルートを思考する。


「この匂い…奴が来るぞ…いや、キングだけか?」

優れた鼻で残る敵を探知したコマチが焦る。


警戒しつつメロンの木像があった小部屋から、四方向に道が別れた場所に戻った3人の視界に、2体の怪物が映り込む。

「まさか…シュタイン級が2体投入されるなんて、前回と違う…」

「そんな、いや…」

「やはりか…そんな気がした。」


サクラ達の表情を曇らせた2体の怪物シュタイン級は、ワニの様な鋭い巨大な歯と長い尻尾が真っ先に目につくが、頭部は鎧の様に硬質化しており、尻尾の先は鋭利な刃に変質している。

キングと呼ばれた個体は全長が約5.5mあり、クイーンと呼ばれた個体は全長が約4mもある。


そして、薄暗い迷宮内で、その2体の背中が青白く発光したかと思うと、尻尾の刃が電気を帯びて唸る。

その2体の怪物シュタイン級は、迷宮内に点在する十字路の内の一つの中心部にいる地下道化師トネリコ達に突進し、前後から挟撃を仕掛ける。


「来るぞ!」

隊列の先頭に立つコマチが、キングを警戒する。

見た目に反して俊敏な突進を、3人は左右の道に回避した事で、陣形が崩されてしまう。


突撃を回避された2体の怪物シュタイン級は、勢いのあまり迷宮の壁を破壊し、頭部が壁に埋まり、抜け出そうと四肢と尻尾をじたばたと踠いている。


「手持ちの弾がもう無い…今のうちだな…」

反対側にいるサクラとアオイに合流しようと、コマチが素早くキングの隣を横切る…

しかし、次の瞬間、キングが体を右方向にひねり、電気を帯びた刃がコマチを襲う。


「危ない!」

サクラが叫ぶが間に合わず、刃がコマチの脇腹を抉る。

「くっ、グゥ!」

体を切り裂かれる激痛だけではなく、電撃にも襲われたコマチはうずくまり痙攣を起こしている。


「コ、コマチ!」

アオイは煙幕弾スモークグレネードを投げ、2体の視界を奪った隙に、コマチの元にサクラと共に駆け寄る。

そして、2人でコマチの両脇を持ち上げて移動し、怪物シュタイン級達との距離を取る為に移動する。


しかし、2体の怪物シュタイン級は、コマチの血の跡と臭いを辿って追ってくる。


「はぁ…はぁ、私も散々いろんな物を食べてきたから、今度は私が食われる番だな…」

痺れが緩和してきたコマチが何とか口を開く。

「私が襲われている内にサクラとアオイは逃げてくれ…あと、アリサと南花にはすまないと伝えて欲しい。」

コマチの声は弱々しいが、2人の親友の命だけは、守りたいという意思は強い。


「バ、バカっ!アリサさん達にそんな言葉を伝える気なんて無いし、コマチを見捨てたくない!」

アオイの両手は、コマチの出血を止めようとする為に赤く染まり…

アオイの両目からは、涙が溢れている。


微かに照らされた道の先から、2体の怪物シュタイン級が、再び現れる。

手前にいるキングの頭部に向けて、サクラは回転式拳銃リボルバーを数発撃つが…

硬質化した頭部は、弾丸を弾き、傷一付かない。


くそ…っと短く困惑を示したサクラは、次にアオイから受け取ったクロスボウを放つが…

その矢も、全くダメージが通らない。


サクラは決断を迫られる…

傷を負い肩で息をするコマチ、涙を浮かべるアオイの順番で目が合う。


一瞬、俯き…歯を食い縛りながらサクラが重い口を開く。

「ごめん…ごめんなさい…コマチ…」


コマチの傷口を押さえ続けるアオイの右肩に、サクラが諭すように手を置く…

しかし、アオイは幼い子供の様に、いやいやと首を振る。

それを見かねたコマチが、アオイの両手を払い退ける様に手を重ねる。


ふらつきながら立ち上がったアオイが口を開こうとした時に…

背後から、3人にとって聞き覚えのある声が聞こえる。


「これを使って…」

「私達の仇を取ってね…」


真っ先にサクラが背後に振り返るが、そこには人影はなく…

その代わりに、一つの投擲兵器グレネードが置かれている。


「えっ…今、シエルとノエルの声が…嘘でしょ?」

前回の『ディール迷宮杯クルム』で命を落としてしまった筈の、友人2人の声にアオイもキョトンとする。


「それよりも…これは、水素型投擲兵器ネブラ・グレネード!…そういうことね。」

錬金術の発展による産物の一つである、水素型投擲兵器ネブラ・グレネードを手に取ったサクラは、現状を打開出来る可能性に掛ける。


獲物を目の前にした怪物シュタイン級のキングとクイーンの背中が、また青白く発光し始め、尻尾の刃が電気を帯びる。


好機が訪れたと判断したサクラは、水素型投擲兵器ネブラ・グレネードの安全ピンを抜き、2体の怪物シュタイン級の頭上目掛けて、下から上へと投げる。


回転しながら一定の高さに達した投擲兵器グレネードは破裂したかと思いきや…

爆炎の代わりに、局所的に雲と雨を発生させ…

そして、その雨がキングとクイーンに降りかかる。


全身に雨を被った2体の怪物シュタイン級は、絶縁体としての機能を有さない体の部分に、自ら発した電撃を食らった事で痺れ、動きが止まる。


そして、体内に帯電する電気を放出しようと、キングとクイーンは背中から、サメの鱗に似たの排出機関を露出する。

「良し、狙い通り!」


サクラが、キングの排出機関に回転式拳銃リボルバーで狙いを定め…

アオイが、クイーンの排出機関に水平二連式散弾銃ソードオフショットガンで狙いを定める。


2人同時に、各標的に向けて、発砲する。

銃弾を受けた2つの排出機関は、大きく形を削がれ、勢いよく出血する…


弱点に致命的なダメージを受けた、キングとクイーンは苦痛に踠きながら、横腹を見せる形で倒れる。


「やった…やった!」

疲弊しつつもアオイは微笑む。

「いいえ、まだよ…」

雲の位置から、サクラ達の居場所を特定した、アリサと南花が合流する。


「確かに、アリサの言う通り…」

まだ、完全勝利を達成出来ていないことを再認識するサクラ。

「コマチさん、大丈夫!?」

南花がコマチの容態を確認しようと屈むが…


「南花さん、コマチの応急措置は私がしますから、急いで最後の木像を置いてきて下さい。」

そう言ったアオイがメロンの木像を、南花へと手渡す。


「うん…残り時間は…あと1分しかない!」

「安心して残る杯まで遠く無いから…案内するね。」

サクラが案内役を申し出る。


「私はアオイを手伝うから…南花の手で完全勝利パーフェクトゲームを納めて来てくれるかしら」

アリサは、南花の手に勝利を託す。

「うん、任して。」

南花は短く応え、サクラと共に急ぐ。


ーーー


コルネッティは窓ガラス越しに見える、受け入れ難い現実に動揺を隠せない。

「そんな…キングとクイーンが討伐されるなんて…嘘だろ」


南花が最後の木像を杯に置いた、次の瞬間…

スコア表が、完全勝利パーフェクトゲームを達成したことを告げる。


そして、祝砲として数発の花火と大量の紙吹雪が空中を舞う。

コルネッティは、その様に、立ち尽くすことしか出来ない…


「そもそも…何で、水素型投擲兵器ネブラ・グレネードがあるんだよ…」

「やはり…あれは、そちら側で用意した物ではないのですね…」

忘れることが出来ない忌々しい声がする方向に、コルネッティは直ぐに振り向く。

敵意の証として、右手に攻撃を行う為の魔力を集約しながら…


しかし、敵意の対象が放った銃弾の方が、コルネッティの魔術より早く届く。

「ぐ、ぐわぁ!」

右肩を撃たれたコルネッティは、その衝撃で背後にある窓ガラスにぶつかる。


「あぁ、そういえば…この場所じかんは、【あの方】の権限下でしたね。」

地下遊演地の女性スタッフの姿がスーツ姿に変わるのに、合わせて

声色が帝国憲兵アハトに変質していく。


「やはり、お前ら帝国憲兵の仕業だったか…」

撃たれた事で心拍数が上がっているコルネッティは、嫌な予感が当たったことに更に、顔を歪めつつアハトに問いかける。


「何故だ?私達のバール家がどれだけ軍部に資金面で貢献してきたと思う?」

足腰に力が入らなくなってきたコルネッティは、窓ガラスに背を預ける形で座り込む。


「確かに、コルネッティ様の一族には東圏側軍部の黎明期の頃から、支援頂いていることは、エンキ【統括長】も感謝しております…」

中折れ式の回転式拳銃リボルバーを構えながら、アハトはコルネッティとの距離を詰める。


「しかし…今回の貴方の判断は、統括長ドミニウム様達のご意思に反する行動だった…それだけのことです。」

淡々とメッセンジャーとしての役割に努めるアハト。


「ハッ!統括長ドミニウム4人の意思だけじゃないだろ?どうせ、またあの局長様エンキの自己満足だろ?俺もアンタも巻き込まれて大変だな?フッ…」

ここぞ!っと言わんばかりにコルネッティは、不満と嫌みを垂らす。


それに対してのアハトからの応えは、更なる銃弾だった…


左肩に2発目の弾丸を食らいながらも、コルネッティは言葉を絞り出す。

「俺みたいに…損切りされないように気をつけることだな…アンタも…そして、あの七光りの小娘2人もな…」


蝋燭灯だけの僅かな明かりの中、3発目の銃弾を受けたコルネッティの口が、再び開くことは無かった。


今回の仕事を完遂したアハトは、血塗られた窓ガラス越しに、完全勝利パーフェクトゲームの余韻に浸る南花達を暫く見下ろすと…

その場から去る。

1章の最後まで、お読み頂きありがとうございます。

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