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拾われた戦争孤児が魔術師として幸せになるまで  作者: 武天 しあん
領地編

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>>>ホルツ、クンストへ。

ホルツ視点


クンストに来るときは侯爵家の馬車で迎えに行くとウィルには言われたが、断って乗合馬車に乗っている。

貴族の馬車に平民を乗せるなど、ウィルは何を考えているのか・・・。


夜明けに出る一番早い馬車に乗ったから、午前中に着いた。

遠くにウィルが迎えに来てくれているのが見えたが、どうみても平民と思われる男と談笑している。



「ホルツー、こっちだ。」

「迎えに来てくれたのか?なんか悪いな。」


「私が来たくて来たんだ。それより、ようこそクンストへ。」

「お、おぅ。」


「まぁ、王都と比べれば店も人も少ない。」

「そりゃあそうだろう。」


「歩きながら話そう。まずは寮を案内するよ。それから昼食をとろう。」

「あぁ分かった。」



俺はウィルに街の通りを案内してもらいながら寮へ向かった。


「領主様こんにちは。」

「あぁ、こんにちは。」


「領主様、また今度寄っておくれ。」

「あぁ、また寄らせてもらうよ。」



領民が領主に話しかけてくることなんかあるのか?

平民は貴族様に気軽に声などかけては不敬だと言われかねない。



「なぁ、ここの領民はみんなウィルが貴族だと知らないのか?」

「さすがにそれはないだろう。」


「こんなに気軽に声をかけるなど、俺なら緊張するがな・・・。」

「私が領民たちにお願いしたんだ。気軽に接してくれと。畏まられると息苦しくてな。」


「そうか。ウィルは他の貴族とは違うんだな。」

「普通の領主が領民とどのような関係性なのかが分からないから、なんとも言えないな。私が間違っているのかもしれないが、この領ではこれでいいと思っている。」


「そうか。居心地が良さそうな街だな。」

「あぁ、それを目指している。」


そんな貴族もいるんだな。平民の中でも底辺の俺とも普通に話しているしな。



「ここだ。」

「おぉ、凄いな。本当に工房が付いている。しかも工房が広い。」


「この寮で取り囲むように建っている真ん中の建物は、食堂と風呂とトイレだ。」

「そんなものまであるのか。」


「ここに住んでいれば食事の心配はいらない。」

「そうだな。」


小さな小屋が並んでいるだけだと思っていたが、そんなことはなかった。

建物は新築だし、部屋はこぢんまりしているが、工房がでかい。

しかも部屋一つずつに専用の工房がついてる。

しかも食堂と風呂まで。


「展示販売施設も見るか?」

「じゃあせっかくだから見せてもらおうかな。」


「こっちだ。外のステージは街の祭りやイベントで使えるし、運営が始まる頃にはカフェも開店する。」

「そうか。思ったより大きいんだな。」



小さい店に展示スペースをとってくれる程度だと思っていたが、全然違った。外にはステージがあるし、中にはいくつもの部屋があった。



「あぁ。そうだ、もしホルツさえ良ければ、奥の部屋の壁に森の絵を描いてくれないか?」

「は?壁に?」


「あぁ。展示施設はいくつかの部屋に分かれているんだが、一番大きい部屋の壁一面を使って大作を描いてみないか?」

「そりゃあでかい作品を描いてみたいと思ったことはあるが・・・。」


「すぐに答えを出さなくてもいい。考えてみてくれ。」

「分かった。」


ウィルは本気なのか?冗談で言っているのか?

いや、今まで見てきた限り、ウィルはそのような冗談を言うような人物ではない。


「じゃあ、そこに住んでいる芸術家も誘って昼食を食べに行こう。

前に絵を邸に届けてくれた時に話した、マッチョ作品の作家なんだ。」

「そうか。」




コンコン

「モスケルいるか?」

「あぁ。なんだウィルか。」


ウィルは展示販売施設の左にある家のドアを叩いた。

中からは、筋肉質で戦うことを専門にしているような体格の男が出てきた。


「昼食を一緒に食べに行こう。こちらはホルツ。私がいつも持っているこの絵を描いてくれた画家だ。」

「ホルツです。」


「俺はモスケルだ。動物をモチーフにした作品を作っている。冒険者もたまにやっている。」


なるほど、冒険者か。だからその体格なんだな。



「さあ二人とも行こう。

さっき門のところで領民にいいことを聞いたんだ。」

「いいこと?」


「あぁ、おすすめの店が無いかと尋ねたんだが、私が保護することを決めたセモリナ村という村の麦を使った料理を出す店があるらしい。

今年は昨年の水害の影響で収穫量も少ないと聞いていたから流通は諦めていたんだ。

その麦を少し仕入れることができたんだろう。期間限定で出しているらしい。」

「なんか分からんが、ウィルが力説しているし美味いんだろう。行くか。」

「あぁ。そうだな。」



村を保護?麦を使った料理がそんなに楽しみなのか。

そうか。ウィルは貴族なのに菜食主義だったな。


ウィルに連れられて行った店は、想像以上に小さく、とても貴族が入るような店には見えなかった。

ここに入るのか?こんなところには入れないと言うかもしれないな。



「ペタジリア。ここだな。さあ入ろう。」


ウィルはなんの躊躇もなくドアを開けて入っていった。

マジか。こんな店にも入るんだな。



「マスター、セモリナ村の麦を使った料理を出していると聞いて来たんだがあるか?」

「あぁ。って領主様!?」


「まぁ、一応領主をやっている。」

「ようこそいらっしゃいました。狭い店ですが・・・大丈夫ですか?」


「あぁ、なんの問題もない。」

「そうですか。セモリナ村の麦を使ったパスタという料理出していますよ。」


「あれはパスタという名前なんだな。それは肉が使われているのか?」

「いいえ、今が旬のトマトとナスとガーリックのソースです。」


「じゃあそれを3人分お願いする。」

「分かりました。」



「モスケル、ホルツ、他にも何か頼むか?」

「ウィルが頼んだパスタとかって言ってた麦のやつが何なのか分からないからなんとも。」


「あぁ、そうか。うーん、なんと言えばいいのかな、紐みたいなんだ。」

「紐?紐を食うのか?」

「食べれるのか?」


「麦でできた紐みたいなもので、それがツルツルしてもちもちして美味しいんだ。」

「麦の茎でも煮込んで食うのか?」

「茎・・・確かに貧しい田舎じゃその辺の草も食うけど・・・。麦の茎は硬いだろう。」


「いや、茎じゃない。食べてみれば分かる。」

「そ、そうか・・・。」



モスケルが俺の方を不安そうに見たが、俺も不安なんだと目で訴えた。

心が通じ合うと、急に親近感が湧いて仲良くなれそうだと思った。


麦の茎を食わされるのか。それは菜食主義ではなく草食動物なのでは?

クンストを歩いてみた感じでは分からなかったが、フェルゼン侯爵領は思った以上に貧しいのかもしれない。



しばらくすると、マスターが料理を持ってきた。

皿に盛られたその料理は、確かに紐状の何かだったが、麦の茎ではないようだ。



「さあどうぞ。」

「いただきます・・・」

「いただきます・・・」


ん!なんだこれは。確かにウィルが言っていたとおりツルツルしてもちもちしている。このトマトのソースと絡まって美味い。



「美味いな。」

「あぁ。想像以上だ。なんだこの料理は。」

「そうだろう?美味いだろう?これが私が守りたいと思った麦の料理だ。」


「確かにこれは守ってほしいな。」

「そうだな。」



想像とは逆か。フェルゼン侯爵領は思った以上に裕福なのかもしれない。

こんな珍しい料理が食べられるとは。

この料理を食べられただけでも、クンストに来た甲斐があったな。



「ホルツはあの寮に住むのか?」

「いや、まだ決めていない。建物自体は魅力的ではあるが、まだ迷っている。」


「そうか。クンストはいいぞ。魔獣はほとんど出ないから冒険者にとっては物足りないが、芸術家には最高の場所だ。」

「そうなのか?」


「あぁ。ウィルが芸術家のために展示販売施設も作ってくれているし、芸術家には、画材や作品の素材が安く手に入るよう商人ギルドと調整してくれている。」

「ウィルはそんなことまでしていたのか。」


「あぁ。冬の終わりにホルツに会った時に作りたいと構想を立てて、春から本格的に動き始めたんだ。」

「そうだったのか。」



「俺は動物の模型や自分で研究した筋肉の模型があればどこでも作れるが、ホルツはどうなんだ?何かクンストではダメな理由があるのか?」

「森が近くにあってほしい。創作意欲の面でもそうだが、休息できる環境が無いとキツくなる。」


「森はこの後で案内しよう。ホルツが気に入るかは分からないが、私はあの森が好きだ。やっと東門も完成したしな。それに、魔獣も出ないから安全だ。」

「それは見てみたい。」

「俺もあの森は好きだ。涼しくて癒される。」


「じゃあ決まりだな。」






・・・ここは・・・。


こんな場所があるのか。

外壁からほとんど離れていないのに、街の喧騒が届かない。

深い森に来たような。それなのに鬱蒼として薄暗いわけでもない。

夏の鮮やかな緑と、その隙間から溢れる日の光がキラキラと降り注ぐ。



「・・・この森を描きたい・・・。」

「ん?なんか言ったか?」


「ウィル!俺はクンストに引っ越す。それで壁の絵も俺に描かせてくれ。」

「いいのか?」


「この森が気に入った。寮は高そうだから遠慮するが、どこかに家を借りたい。」

「何言ってる?せっかく作ったんだから寮に住めばいいだろう?それにホルツは寮を使ってもタダだ。」


「は?」

「俺の工房つきの家も、ウィルが建ててくれたんだ。ウィルはそういう奴なんだよ。」


「いいのか?」

「もちろん。前にも私はホルツのパトロンになりたいと言った。今でもそう思っている。」


「そうか。ウィル、ありがとう。」

「いや、私の方こそ、壁に絵を描くことを了承してくれてありがとう。」



「壁の絵ってのは何なんだ?」

「展示販売施設の一番奥の部屋の壁一面に、ホルツに絵を描いてもらおうと思ってな。」


「おーなるほど。施設の目玉ってわけか。じゃあ俺も入り口にウィルの像でも置いてもらおうかな。」

「あれか?冬に作成中だと言っていたあの1メートルくらいの顔だけ私の。」


「あれは完成までもう少しだが、せっかくウィルの領地なんだから、もっと倍くらい大きいウィルを作ろう。」

「それ面白いな。それ、作れるか?」


「あぁ、作れる。」

「じゃあ、ホルツもモスケルも、材料費は全額私が出す。依頼料と作品を施設で購入する金額だが、金貨5枚ずつでどうだ?」



「「・・・。」」


「少ないだろうか・・・。」



「「・・・。」」



俺は困ってモスケルを見た。そうしたらモスケルも同じように困った顔をしていた。

そうだよな。普通は金貨なんて見たことないよな。


「すまん。私は芸術作品の値段が分からない。商人の友人に聞いてみるから、ちょっと待っていてほしい。」

「分かった。」

「・・・。」


そうだった。ウィルは侯爵様なんだ。金銭感覚がおかしいのはそのせいなんだろう。

初めてウィルの貴族らしい一面を見た気がする。

貴族ってのはそんなポンポンと金貨を出したりするのか?怖いな。




お金の価値

銅貨(100円)

小銀貨(1,000円)

銀貨(10,000円)

小金貨(100,000円)

金貨(1,000,000円)



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