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早いもので、もう季節は春だ。道の脇には春の花が風で揺れている。
旅から戻って2ヶ月余り、忙しかったな・・・。
やっぱり1番大変だったのは、ミランの研究所のことだな。
相談しようにも会議には来ないし、何かと言い訳をしては話し合いから逃げて、終いには辺境に帰っていった・・・。
あいつは、何を考えているのか分からない。
仕方なく、研究者のヴィントに研究所の仕組みや注意点なんかを聞いて、土木ギルドとも何度も話し合ってやっと国から建設の許可が降りたのが先週のことだ。
子供たちに魔術を教えると言っていたから、ミランが来るまでに、そちらの計画も進めておかなければならない。
芸術作品の展示販売施設は先月末から建設を開始している。
領地の視察はまだ始まったばかりだが、週末は本当にずっと領地にいた気がする。
王都ではゆっくりしてたかと言うと、そういうわけでもなくミランの研究所の計画書を作成をしたり、中隊の訓練メニューを変えたり、魔獣の分布をまとめたり。
目まぐるしく過ぎていく日々に、何度自分に向けて回復をかけたことか。
でも、そのおかげか、領地のことはだいぶ進んだ。
ふぅ。南風が暖かいな。
久しぶりに空を見上げたら、眩しいほどの日差しに目が眩んで手を翳した。
寒い季節はとっくに過ぎ去って、ずっと日向にいたら薄っすらと汗が滲むほどの季節になっていた。
先日、冒険者ギルドを通して、モスケルから到着予定日の連絡があった。
冒険者ギルドでは、冒険者同士の伝言を受け付けてくれる。とても便利なシステムだ。
モスケルの工房兼家は完成している。気に入ってくれるといいのだが。
「ウィルー!!」
モスケルはでかい荷車を引いてこちらに手を振った。
せっかくモスケルが遠方から私の領地に引っ越して来てくれるので、私は休みを取ってモスケルを国境まで迎えに来た。
「モスケル、久しぶりだな。ここまでこんな大量の荷物引いて来るのは大変だっただろう。」
「あぁ、おかげで思っていたよりかなり時間がかかった。まぁ全部大事な作品だしな。割れないように一つずつ包んでるからこんな大荷物になっちまった。」
「ここからは私が重力操作をかけるから、多少はマシになるだろう。」
「おぉ、凄いな。軽くなった。」
「んー大切な作品が壊れるといけないから、保護と結界もかけておこう。ちょっと浮かせておくか。」
「浮かせる?そんなことできんのか?」
「あぁ、風でフワッと浮かせるくらいならできる。」
「もしかして、ウィルは空を飛べたりするのか?」
「それは無理だな。高くジャンプしたり、遠くに跳んだりならできるが、鳥のように空を飛ぶのは無理だな。
いや、もしかしたら魔術でできるのか?今度魔術部隊の部隊長に聞いてみるよ。」
「あ、あぁ。
ここからウィルの領地まではどれくらいなんだ?」
「ゆっくり歩けば7-8日くらいかかるな。馬車なら5日、馬なら3日ってところか。」
「そうか。こんなところまで迎えに来てもらって悪かったな。仕事、騎士団だろ?大丈夫なのか?」
「問題ない。身体強化を使って走れば半日で着く。」
「なるほど。さすがウィルというか、何というか。まぁ、早く着いてゆっくりできるなら、その方がいいか。」
「じゃあ行くぞ。」
私は自分とモスケルに身体強化を強めにかけて走り出した。
途中で2度ほど休憩は取ったものの、宣言通り半日でクンストまで来ることができた。
「フェルゼン侯爵領の領都、クンストへようこそ。」
「おぉ〜、ここがウィルの領地か。近くに森もあるんだな。」
「あぁ、これから森に直接出られるように東側に門を作るつもりだ。」
街の冒険者ギルドや商店街などを案内しながら東の区画へ向かう。
私が普段いるわけではないが、領主邸も一応教えておいた。
「この邸の隣にある建設中の建物は何だ?」
「あぁ、魔術の研究所と魔術演習場も作る予定だ。子供に魔術を教える施設としても使われる。」
「へぇ、そんなものも作っているのか。」
「魔術部隊の部隊長がここに引っ越してくることになってな。領に貢献したいと言うからな。それに、未来ある子供のためにもなる。」
「そうか。ウィルはいい領主だな。」
「まだまだだが、そうなれるといいな。」
「ここだ。モスケルの工房兼住居。」
「これ、本当に俺が使っていいのか?俺はてっきり、適当な中古の民家を用意してくれるのかと思っていたんだが、これは新築だよな?」
「あぁ、モスケルのために作らせた。冒険者としての活動もできるように、裏口には武器や防具を収納できるスペースも作ってみた。
まぁ、とりあえず中に入ってみてくれ。」
「あぁ。家具もあるのか。」
「さすがに家具は持ってこないと思ってな。気に入らなければ新しいのに買い替えてくれて構わない。」
「いや、特にこだわりはないから、ありがたく使わせてもらうよ。」
「ここはモスケルの家だから、気に入らない箇所があれば、好きなように改造してくれていいからな。」
「あぁ。改造なんか要らんだろ。自分の工房なんて夢のようだ。こんなにしてくれるとは思ってなかった。庭まであるし。ありがとう。」
「喜んでもらえて良かったよ。
それと、まだ運営するのは先になるが、販売もできる展示施設を近くに建てている。そして、他にも芸術家たちをここに呼びたいと思っている。
そのために、商人ギルドにも、画材や作品の素材を安価で提供できるよう調整中だ。」
「・・・俺が想像していたのとスケールが違う。ウィルは本当に領主なんだな。」
「まぁ、一応。モスケルが作品作りに専念できる環境を作りたくてな。
それに、ある画家と友達になったんだ。その彼が困窮しているのを知って、芸術家を支援したいというか、彼らの環境を整えたいと思ったんだ。」
「そうか。しかし、ウィルのメリットがないぞ?領地が潤うわけでもないだろう。」
「あぁ、それはいいんだ。そこはマイナスにならないよう、私が他で頑張ればいい。」
「貴族でも、そんな考えをする奴がいるんだな。貴族は平民を見下して搾取するだけの存在かと思っていた。
ジムナーシアの領主も割とまともだったが、ウィルを見ていると貴族のイメージが覆る。」
「私などまだまだだ。これを継続して、発展させることができなければ、一人前とは言えないだろう。私はこれからだ。」
「まだ着いたばかりだが、俺はここに来て良かったよ。」
「これからもそう言ってもらえるよう、頑張るよ。」
「あぁ。」
引越し祝いということで、街の酒場でモスケルと飲んでいると、領民が寄ってきた。
「領主様が平日にこんなところで飲んでるなんて珍しいね。」
「新しく研究所が建つんだってね。」
「土木の仕事が増えて人が増えたから、うちの売上が増えたよ。」
「みんな、彼はモスケル、私の友人で今日クンストに引っ越してきたばかりだ。
彼は芸術作品の作家であり、冒険者でもある。
分からないことだらけだと思うから、色々助けてあげてほしい。」
「領主様の友達なら助けよう。」
「ようこそクンストへ!」
「ウィルは領民との距離が近いな。」
「おかしいだろうか?」
「いや、いいと思う。領民に人気の領主なんて、ウィルらしいな。」
「そうか。正解が分からなくてな。試行錯誤していたら、こうなってしまった。」
「なるほどな。」
「私は普段は王都にいるが、休日はなるべく領地に来るようにしている。
何か不便があれば、その時か、急ぎなら領主邸の代官に言ってくれれば早馬を出してもらえるだろう。」
「早馬を出すような緊急の用事なんかそうそう無いだろ・・・。」
「そうか。」
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