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>>>陛下と宰相を連れて飲みに行こう


「じゃあ今日はゲミューゼに現地集合だ。貸切にしてあるから、到着した者から初めていていいぞ。

戦士などうちの中隊以外の者も多く参加するから、皆も知り合いの隊員を連れてきても構わない。」


「今日はまた規模が大きいですね。」

「今日は団長や部隊長も参加するし、その辺りの方々から飲み代を多めに預かっているから、多少人数が増えても構わない。

その代わり、タダ酒だからと言って飲みすぎて失態を晒すことのないように。

騎士団はいい意味でも悪い意味でも国民に見られているということを忘れないよう、節度ある態度で、騎士団としての誇りを持って行動するように。」


「「「分かりました。」」」


少し不安だな。

陛下などに危険があるかもしれないという不安はないが、気付かず陛下やコーエン卿に絡んだりしないといいのだが。

絡むならミランか団長にしてくれよ。



今日の勤務が終わって、陛下たちを迎えに、陛下の執務室へと向かった。




コンコン

「ウィルです。お迎えに上がりました。」


「入ってくれ。」

「失礼します。」




「・・・。」


確かに騎士団の制服を着ているが、どう見ても陛下とコーエン卿だ。

陛下は綺麗な金髪の巻毛と髭のせいか?

コーエン卿は髭もそうだが体格が無理だな。恰幅のいい隊員は無理があるだろう。



「どうだ?これならバレまい。」

「・・・いえ、すぐにバレると思います。」


「ほら言ったでしょう?どっからどう見ても騎士団に所属している者には見えないと。」

「えぇ、2人とも無理があると思います。」



どうしたものか・・・

カツラでも被ってもらって、研究所から魔術師が見学に来たということにするか。

よれた服でも着て、目が隠れるほどの長さのカツラをつけて貰えば・・・



「飲み会中にバレたくはないのですよね?」

「そうだな。できれば隊員に溶け込んで会話をしたいな。」


「それでは、ミランの伝手でどこかの研究所から見学に来ている魔術師ということにしましょう。研究者らしく、よれた平民服と、目にかかるほどの長さのカツラを用意してください。」

「分かった。コーエン、頼んだ。」

「分かりました。」



間も無く、服とカツラが用意されて2人は着替えた。


「なるほど。ゆとりがある服というのも悪くないな。」

「ちょっと服の生地がゴワゴワしていますが、肩の周りなどは軽くて動きやすいですね。まるで寝巻きのようですが・・・。」



完成度は素晴らしいが、こんな着古したようなよれた服をどこから調達したんだろう。



まぁでも、これなら陛下と宰相という国のトップが揃っているようには見えないな。


その豪華な指輪などの宝飾品が無ければだが・・・。



「その宝飾品の数々は、結界や解毒など身を守る魔術が付与がされたものですか?それともただの飾りですか?」

「そんな魔術が付与されたものがあるのか?全部飾りだな。こっちのこれは妃が選んでくれたんだ。」


「そうですか・・・。

あるのかどうかは分かりませんが、私の友人が道具に魔術を付与する研究をしているので、聞いてみます。

飾りなら全て外してください。そのような豪華な宝飾品を着けている研究者などいません。」

「そ、そうか。仕方ないな。外そう。」

「えぇ。仕方ないですね。」



「では、陛下は城に帰るまで、コーエン卿は邸に帰るまで、私が強めに結界を張ります。

店内ではどうしますか?他の者から軽い接触があってもいいのであれば、弱くすることも可能ですが。」

「そうだな、店の者や隊員から飲み物を受け取るだけで弾かれたりしたら申し訳ないからな。店の中では弱めてくれ。」



「分かりました。ミランと団長も一緒に向かうのですか?」

「あいつらは自分で勝手に来るからいいだろう。」


「では店の名前と場所だけ伝えておきます。」


私は声に魔術を纏わせて、店の名前と場所、陛下と宰相を連れていくことを伝えた。



陛下とコーエン卿を連れて店に入ると、もう大半の隊員が集まって飲みながら騒いでいた。


「中隊長、お疲れ様です!」


「「「お疲れ様です!」」」



「あぁ、みんなお疲れ様。」

「そのお二人は?」


「部隊長の知り合いの魔術研究者で、今回は見学したいそうだ。隊員ではないので無茶な絡み方はしないようにな。」

「どうぞよろしく。」

「お邪魔させていただきます。」


「「「よろしくお願いします。」」」



「研究者が参加するのは珍しいな。」

「確かに。騎士団に所属していない者が参加するのも珍しいな。」

「だなー。前に中隊長が宰相を連れて来た時は緊張で全然酔えなかった。」

「あぁ、あったなー、そんなこと。」




「へい、じゃなくてダイ、じゃなくて、えっと、ダイさんと・・・コーさんは何を飲みますか?」



ぷくくくく

「あぁ、私たちもエールにしようか、コーさん。ふふふ」

「えぇ、ダイさん、ふふふ」



陛下や宰相のファーストネームを知っている者がいるかどうかは分からないが、これは仕方なかったんだ・・・。

2人とも、笑いが漏れてしまっている。




「おう!お疲れー」

「みんなお疲れー」


「「「団長、部隊長、お疲れ様です!」」」



「団長、ミラン、ダイさんとコーさんはこちらです。」


団長とミランに2人の位置を知らせ、今日はそう呼ぶようにと目配せをした。



「もうだいたい揃ったか。飲み物はみんな手元にあるかー?」


「「「はーい!」」」



「挨拶は団長がやりますか?」

「いや、俺はただのオマケだからしない。ウィルがやればいい。」

「分かりました。」


「みんな、今日は団長や部隊長やその辺りの方々の奢りだ。羽目を外しすぎないよう気をつけて楽しんでくれ。

また後で今後の中隊の話があるから、最初から飛ばすのは無しだぞー

では、今日もお疲れ様でした!乾杯!」



「「「「乾杯!」」」」



「ねぇウィル、ダイさんとコーさんの格好、あれでいいの?」

「騎士団の制服は無理があったからな。ミランの知り合いの魔術研究者ってことになってるからよろしく。」

「あぁ、なるほどね〜。」



「みんなの酔いが回る前に今後の中隊の話をするぞ〜」


「あの、それは私たちも聞いてよろしいのですか?」


今日初参加の戦士部隊の小隊長がおずおずと手を挙げた。



「あぁ、構わない。というか、あなたたちにも話し合いに参加して、意見を聞かせてもらえるとありがたい。」

「分かりました。」



「では話を始める。話し合いたい内容は3つある。

まず一つ目は、先日の飲み会でも話をした、索敵のこと。

二つ目は、戦士部隊の訓練を取り入れる内容について。

三つ目は、春の魔獣の動きが活発になる前の魔物の動向についてだ。


まず、索敵についてだが、現在は各自で練習をしてもらっているだけだが、そろそろ個人の適性をデータ化したい。

索敵可能な時間や索敵可能な範囲などを、分隊長がまとめて小隊長に伝えてくれ。」



「あ!」

「なんだミラン部隊長。」


「それ!余裕がある人には試してもらいたいことがある。索敵と結界の併用だ。」



ザワザワザワ



「同時に複数の魔術を使えるのは、まぁ現時点では俺とウィルしかいないと皆は認識しているんだろうが、他の者には不可能なのか、難しいだけで可能なのか調べたい。

成功しなければしないで、それでも構わないから試してみてほしい。」


「そういうことだ。ミランの提案も無理のない範囲で訓練に取り入れてほしい。

それ以外に索敵のことで何か疑問や意見があるものはいるか?」



「はい。いつまでにデータをまとめればいいんですか?」



「試験的に進めていることだから、急ぐ必要はないが、春以降に魔獣討伐の遠征があれば取り入れようと思う。

ただし、それまでに必ずデータをまとめなければならないわけではない。まぁ夏頃までにまとめてくれればいい。

難しい場合はまた小隊長でも私でもいいから相談してくれ。」




「じゃあ他に質問がなければ次に行くぞ。戦士部隊の訓練を取り入れる内容についてだ。

先日の飲み会でもチラッと話したが、こちらも試験的に進めていく内容だ。

今回は戦士部隊の小隊長や隊員も複数いるから、戦士の意見も聞きたい。」


「あの、魔術部隊で戦士の訓練を行うのはなぜなんですか?」


「あぁ。そうだな、そこを説明しないと意見などできないよな。すまん。1月に私が槍使いの冒険者と共闘したことがあったんだ。その時に、自分のタイミングで勝手に支援の魔術をかけていることに気づいた。

今回は戦士の支援に絞った提案だ。攻撃だとまた話は違ってくる。

戦士の能力を最大限に引き出すには、その戦士に合わせて適切なタイミングで適切な支援を行わなければならない。

戦士の訓練を行うことで、支援に最適なタイミングを掴むことを目的としている。

魔術を連発できない時に選択を間違うと、戦士も近くにいる魔術師も命に関わるからな。

戦士と魔術師の連携の強化に繋がればなおいいと思っている。

まぁあとは、魔術師と言えど少しは近接戦もできた方がいいだろう。」


「なるほど。戦士のためですか。」

「まぁそうだな。戦士のためであり、それは自分や仲間を守ることにも繋がり、それは国民や国を守ることにも繋がると思っている。

戦士は魔術師を守り、魔術師は戦士を守る。互いに連携して高め合えば、どんな敵も倒せる。皆もそう思わないか?」



「そうだね。ウィルの考え方は俺も好きだよ。」

「ありがとうミラン。」



「俺も!中隊長の広い視野と発想好きです!」

「俺も!」

「俺も!」

「中隊長は厳しいが絶対に誰も見捨てない。」

「中隊長にずっとついていくぞー」

「そうだ一生ついていくぞー」



ワアアァァァァア




「凄い。」

「これがフェルゼン中隊長か。」

初見の戦士たちが驚いているが、だいたいいつもこんなもんだ。



なんだか話を進める前に会場が盛り上がりすぎてしまった。


「みんな、落ち着け。先ほどの話を再開しよう。」



『 落ち着け〜 』



私は声に魔力を纏わせて店内に響かせた。



「戦士と全く同じ訓練や動きを、魔術師ができるとは思っていない。

しかし、体験してみるのとしないのとでは違う。

魔術師が戦士に取って変わるとは思っていないし、そんなつもりもない。

戦士のことを理解することで、より連携を深め、強い騎士団に発展させるためには必要なことだ。

ということで、戦士部隊のみんなも遠慮せず意見を言ってくれ。

この中隊では、飲み会の席は無礼講。上司であろうと違うと思えば違うと言っていい。反対意見大いに歓迎。敬語などの言葉も気にすることはない。

分隊長や小隊長も、咎めることは許さない。そこにいる団長に対してもだ。」



「おぅ、そうだぞ。お前らちゃんと思ったこと言えよ。言葉なんか気にしなくていい。俺や上司に刃向かってもいい。

そんなことより自分の意見を言うことが大事だ。」


団長からも援護が来た。



今回、私が把握している限り、戦士部隊からは小隊長2名を含む10名が参加している。他の隊員が連れてきた者も含めると、もっと多いかもしれない。


案外、大きな衝突はなく、お互いに意見を聞いては納得したり反論したり、いい感じで話は進んだ。

後日、私の中隊の小隊長を含む数名で、戦士の訓練を見学に行くことになった。

戦士部隊の小隊長も、私の意見に賛同してくれて、これからはもっと互いに交流する機会を持ちたいとも言ってくれた。

その一つとして、飲み会の開催がある。



大人しくしていると思って陛下と宰相に目を向けると、楽しそうに2人で話していた。



閲覧ありがとうございます。

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