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>>>ミランとの再開
私はその後も毎週、領地に通った。
土木ギルドにも挨拶に行って、モスケルの工房兼住居の建設も開始した。
そして、領地に行く度に色々な店に顔を出している。
また色々やることが増えたな。こんなに抱え込んで、処理しきれるんだろうか・・・。
優先順位をつけなければならない。
まず、領地のこと。
モスケルのことは工房はもう手配したからいい。
まずは展示販売施設の構想だな。
門と芸術家の保護は、後に回そう。
視察は、春からだからまだ少し余裕がある。
領地はまぁ問題はまだあるが、とりあえずそんなもんだろう。
騎士団のこと。
索敵の訓練については早く軌道に乗せたい。
戦士の訓練もまだ詳細が決まっていない。戦士部隊に見学に行くか、もしくは戦士部隊の中隊長に相談にいくか。
戦士との飲み会の話も、戦士部隊に持っていかなければ。
あとは、春の魔獣の動きが活発になる頃までに調査をまとめて・・・
中隊長室で、これからの予定を紙に書きながら色々考えていると、突然ドアが開いて団長が入ってきた。
ガチャッ
「ウィルー、いるかー?」
「団長、何か用ですか?ノックぐらいして下さい。」
「あぁ、すまん。
珍しくミランが本部に来てるから知らせに来ただけだ。」
「そうですか、ミランが。分かりました。後で顔を出します。」
「あぁ、分かった。」
団長が部屋を出てすぐにミランはやってきた。
コンコン、
「ミランだ。」
「どうぞ。」
「ウィル、久しぶりだね〜」
「お久しぶりです。本部に顔を出すなんて珍しいですね」
「そうなんだよ。色々報告があってね。」
「そうですか。」
「ウィル、それ何やってんの?」
ミランが私の手元にあった紙を、風の魔術でひらりと舞いあげて手に取った。
「あぁ、それはこれからやることを整理していたんだ。」
「へぇ〜相変わらず真面目だね〜。でも、ウィルは色々抱え込みすぎじゃない?」
「そうでしょうか。」
「俺なんか、戦いと研究しかしてないもん。
他は周りのできる奴に丸投げ。あれだよ。適材適所ってやつ。ウィルももっと周りに頼ったらいいんだよ。」
「確かに、そうですね。」
そうか、抱え込みすぎか。
私は何気なく妖精の絵を眺めた。
少し、気を張りすぎていたのかもしれないな。
私は深呼吸をした。
うん、そうだな。いつも私に相談しろと隊員たちには言っているのに、私の方が相談していなかった。
彼らに頼るという方法もあったのか。
提案しては、色々な意見を出して議論して試行錯誤を繰り返して、それを積み重ねてきた中隊の今は、決して私1人だけの力ではない。
彼らを導くことも大事だが、彼らを頼り、共に上を目指すのも良いんじゃないかと思えた。
そして、先日の中隊の飲み会を思い出し、はしゃぐ隊員たちの顔が浮かんで頬が緩んだ。
「あれ?ウィル笑えるの?」
「え?まぁ、一応・・・。」
「そうか。ちょっと安心した。
いや〜、なんか陛下と宰相から手紙が来てさ〜
ウィルに戦場で無茶させただろうって。
確かにちょっと様子は気になってたんだけどさ、普段のウィルを知らないから、こんなもんなのかと思って。」
「いえ、ミランに責任はないのに、なんかすみません。」
「いや、別に良いんだ。
そうだよね。戦争で両親失った上に、小さい頃から戦場で働かされてたんだもんな。
トラウマにもなるよな〜。それなのに戦場に呼びつけて悪かったよ。」
「いえ、あの頃があったから今の私があるので、私にとっては戦場で過ごした日々も、大切な時間の一つです。」
「なるほどね。
ウィルは真っ直ぐだね。だからか。皆がウィルを守ろうとする。」
「守ろうと?」
「そうそう。要するに、皆に好かれてるってことだね。」
「そうですか。ありがたいですね。半分以上は父のおかげですが、それでもありがたい。」
「うん?父親とか抜きにしてウィル自身が好かれてるんだと思うけどね〜。」
「まだまだ私は未熟ですから。皆のサポートがあって何とかやれています。」
「そうか。うん。なんか分かんないけど、さっきの張り詰めた顔よりはマシになったね。」
「張り詰めた顔・・・
もう少し皆を頼ってみようかと思います。」
ミランはうんうんと頷いていた。
「ところでウィル、ちょっと気になったんだけど、この絵、怖くない?
さっきもジッと見ていたし、何か特別な絵なの?まぁ、言いたくなければ言わなくていいけどね。」
「この絵、私には森の中で佇む妖精に見えるんです。子供の頃に妖精に会ったことがあって、この絵を見ると癒されるというか・・・。
でも、皆はこの絵見て怖いと思うようで、中隊の皆には戒めの絵と呼ばれています・・・。」
「ふはははは、戒めの絵。
確かにそう言われた方がしっくりくる。」
「そう、ですか・・・。
実は私のポケットにもミニチュアバージョンが。ほら。
先日この絵を描いた画家と仲良くなって、もう一枚買ったので、邸にも飾ってあります。見に来ます?」
「怖いもの見たさでちょっと気になる。」
「怖いもの見たさ・・・。」
「それと、このマッチョなやつ、これは何なの?」
「それはペーパーウェイトです。そっちはブックエンド。」
「それは分かる。用途じゃなくて、これはウィルの趣味なの?」
「まぁ、趣味ですかね。」
「変わってるね〜。」
「春にこの作品の作家が、私の領地に引っ越してくるんですよ。彼の工房も建設中です。」
「へぇ〜
もしかして、ウィルってマッチョな男が好きなの?」
「は?どういう意味でしょうか?」
「恋愛的な意味?婚約者とか恋人とかいないって聞いてるし。」
「恋愛・・・初恋は森の妖精なので、男が好きってわけではないと思いますが・・・。」
「いや、それまずくない?
もうそれ人じゃないじゃん。人間は好きになれないってこと?」
「どうでしょう・・・。自信がなくなってきました。」
思い返せば、関わってきた女性と言えば、祖母や祖母の友人、既婚者の婦人、未婚だと香水臭い令嬢たち。
うーん・・・
好きになれそうな女性とは出会ったことがないな。
「まぁ、俺も恋愛は得意じゃないから人のことは言えないけど。」
「そうなんですか。」
ミランが好きになる女性ってどんな人なんだろう?
ちょっと気になるな。
「俺はまだこれから、陛下と会議があるからまたね〜」
「あぁ。」
何しにきたんだ?と思ったけど、わざわざ挨拶に来てくれたのかもしれない。
あんな口調で適当な感じなのに、ミランは意外と律儀なんだな。
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