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次の休みはフェルゼン侯爵領の領都であるクンストへ行こう。
モスケルの工房の建設と、ホルツのような芸術家のための工房兼寮も作りたい。
展示販売ができる施設も。
近くには画材や材料を買えるような店があるかも確認しなければならないな。
あと、近くに森があるかどうか。
そして、代官とも話して、視察する村や街の順番を決めたい。
全ての街や村を回るつもりだが、領地にずっと居られるわけではないので、優先順位は考えなければならない。
黒馬のフロイで駆ければ、王都から領都までは2時間ほどだ。しかし、村によっては山を越えたりする可能性もある。
位置と、状況を判断して決めていこう。
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>>>初めまして代官
「ウィル、よく来たな。
こちらが代官を務めてくれている、ボーデンだ。」
「初めまして、ボーデンでございます。
はぁ〜、あなた様がウィルバート様ですか。お父上のウェスリー様の若い頃に似ておりますな。」
「初めまして。ウィルバート・フェルゼンと申します。若輩者ですが、今後ともどうぞよろしくお願いします。
当主となってから今までご挨拶にも伺えず申し訳ございせん。」
「とんでもございません。私からご挨拶に伺うべきでした。
こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。」
代官を務めるボーデンは、少しふくよかな優しい笑みを浮かべた40代くらいの男性だった。
挨拶を終えると、祖父と私とボーデンと3人で、私が考えている今後のことについて話し合った。
まず、緊急性の高い農業の衰退の状況について確認する。
そこでしか作られていない貴重な農作物や、特産品を守って、そしてそれに携わる人も守らなければならないと訴えると、2人とも納得してくれた。
そのために実際に視察し、人々の意見を聞くために自ら村や街に足を運びたいということも了承してもらえた。
そして、芸術家の保護や支援についても話をした。
友人であるモスケルが春に引っ越してくること、先日仲良くなった画家のホルツの困窮した生活のことを話し、
作品を展示販売する施設や、作家たちが作品の制作に打ち込める環境を整えたいことなどを話すと、それについても面白いアイデアだし、この街の発展にも知名度を上げることにも繋がるのではないかと好印象だった。
「大旦那様、彼は素晴らしいですな。この領地は現状維持でもやっていけますが、民のために、街のために、色々と考えられて。
ますますフェルゼン侯爵寮は発展しますな。私も微力ながらお手伝いさせていただきますぞ。」
「うんうん。ウィルに後を継がせて正解だった。ウィルを産んでくれたウェスリーやリリーにも感謝だな。そして、ウェスリーやリリーもウィルがこんなに立派になって喜んでいるだろう。」
「いえ、まだこれからです。考えること、提案することは、誰でもできるのです。
それを実現し、継続しなければなりません。それができなければ、どれだけ素晴らしい提案をしても意味がないと思っています。」
「ほぉ、確か若旦那様はまだ16だと伺っていますが、その歳でそれほどの考えができるとは。」
「ウィルがいれば、フェルゼン侯爵家の未来は明るいな。」
「まだ私はなにも成し遂げていませんので、そんなに持ち上げられても・・・。」
とりあえず、今日はモスケルの工房の土地を確保して、視察の順番も決めたいと伝えると、
街の東側に余っている区画があると教えてくれた。
実際に行ってみると、なかなか広大な土地が、そのまま手付かずで放置されていた。
ここをそのまま芸術家たちの住む区画にできそうだな。
街の中心に近い場所に、展示販売の施設を建てて、その周りに寮やなんかも建てられそうだ。
外壁を一部壊して、そのまま森に出られる門を作ってもいいな。
ホルツは近くに森があるといいと言っていたし。
森にも出てみるか。
どんな森でもいいってわけでもないだろう。
私は風の魔術で自分を巻き上げるようにして外壁を飛び越えた。
森に1人、久々だな。
外壁があるからか街の音が閉ざされて、とても静かだった。
鬱蒼と茂ったというよりは、程よく手入れされているようで、陽の光が地面まで届いていて明るいし、鳥や虫などの小さな生き物もちゃんと生息している。
春が近いからか、木々は新芽が顔を出しているし、湿った地面も、ふかふかと柔らかい。
きっと春になれば花が咲いたりするんだろう。
後で冒険者ギルドに、近隣の魔獣の情報も聞いておこう。
いくら森があるとはいえ、それが危険な森であれば話は違ってくるからな。
いいな。この森は。
天使か妖精の彼女と会ったあの森とは少し違うが、とても穏やかで、息がしやすい。
立ち止まって深呼吸をしてみると、ひんやりとした空気は爽やかな森の香りで、心を落ち着けてくれる。
また妖精の彼女に会えたらいいな。
しばらく歩いてみると、春を待ちきれずに目覚めたリスや、ネズミが走っているのが見えた。
伐採や開拓などせず、この森はずっとこのまま残しておきたいと思った。
しばらく森を歩いていたが、さすがにずっとここにいるわけにはいかない。
妖精の彼女と会えそうな気がして後ろ髪を引かれたが、外壁を飛び越えて街へと戻った。
東側の区画で空き地になっていた土地は、全て私の土地になった。
元々誰も所有者がおらず、強いて言えば領主の土地ということになっていたから、そのまま私の所有地としての扱いに書類を変えただけだ。
さて、冒険者ギルドに行ってみるか。
領主としての挨拶もしておきたいし。ついでに商人ギルドへも挨拶に行こう。
いずれ、安価で芸術家たちに材料を卸してもらう交渉と、展示販売の施設の相談もしなければならないしな。
冒険者ギルドも商人ギルドも場所が分からないな。一旦領主邸に戻るか。
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