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夜会のあれこれや、戦地から帰った私の状態を心配した祖父母は、王都滞在を延長していたが、旅から戻り味覚が戻ったことを知ると、安心して領地に向かった。
王都の邸の使用人は、女性は既婚者か、ある程度歳のいった寡婦のみ、若いメイドは祖父母のいる領地の邸へ異動となった。
さぁ、モスケルの工房も作らなければならないし、領地の視察や色々忙しくなるな。
まずは画家のところに行こう。
森に佇む妖精の絵を描いた画家を探して、平民街の露店を見て回っていると、前と同じ場所にいた。
「こんにちは。あなたに頼みがあるんですが。」
「え?頼み?」
「はい、私は以前あなたの絵を買わせていただいたのです。大きさはこれくらいで、森の中に白い人影がある絵です。」
「あ、あぁ。なんだ?気に入らないから返却したいのか?それは無理だぞ。」
「いえ、あの絵は気に入っていて部屋に飾ってあります。」
「そ、そうか。じゃあなんだ?」
「あの絵のミニチュア版を描いていただきたいのです。ポケットに入るくらいの大きさで描けますか?」
「あぁ、それは別に良いが。あの絵でいいんだよな?」
「えぇ、あの絵でお願いします。」
「分かった。で、完成したらどこに届けたらいいんだ?」
「自己紹介がまだでしたね。私は騎士団魔術部隊の中隊長を努めております、ウィルバート・フェルゼンと申します。騎士団の中隊長室まで届けていただけるとありがたい。」
「俺はホルツ。まぁ見ての通り画家だ。描けたら、騎士団まで持っていくよ。良かったら他の絵も見て行ってくれよ。
それと、敬語はやめてくれ、緊張する。」
「分かった。他の絵も見せてもらうよ。森の中の絵が多いんだな。」
「あぁ、森はいい。街の喧騒から解放されて、まぁ、風や鳥や獣の音はするが、話し声や人の気配を感じない。それがいい。」
「私も昔、1人で森へ行った時、同じことを思った。その頃は王都に来たばかりで人がいつも周りにいた。それが嫌で森へ行ったんだが、森は人の気配が無くて癒される。」
「あんた分かってるな。」
「作品はここにあるだけか?」
「いや、全部は持ってこれねぇ。大きい作品は特にな。他は家にある。」
「家?工房か?」
「いや、工房なんてそんないいもんじゃない。ただの小さい家だ。」
「そこにある作品を見ることはできるのか?」
「別にいいが、そのまんま俺の家だぞ?」
「見てみたい。」
「じゃあ今日はもう店じまいするから、ちょっと待ってな。」
「いいのか?」
「あぁ、絵は雑貨や食べ物と違って、そんなポンポン売れるようなもんでもないからな。」
ホルツは手際良く絵を片付け荷車に乗せた。
「行くぞ。」
「あぁ。ところでホルツ、昼食は?」
「いや、俺は朝晩しか食わない。」
「そうなのか?なぜ?」
「いや、まぁ、金が無いからだ。
絵を描くのも、売るのも自分でやるんだ。絵を描いている時は売れないから収入は無いし、今日のように休日は売りに出ているから描けない。
道具やキャンバスだって買わなきゃいけないしな。」
「そうか・・・。」
他の芸術家も、同じようなものかもしれない。売っている間は作れない。
確かにそうだよな。
作品を展示する場所を提供すれば、彼らは作品作りに専念できるのではないか?
工房を兼ね備えた寮のような仕組みにして、食堂も併設して・・・。
そしてその運営資金は、パトロンが出せばいい。まぁそれは私だが。
王都に、いや、領地に作るか。
「ホルツは王都でずっと活動していくのか?」
「別にそう決めているわけじゃない。他にいい土地があれば、移るかもしれない。」
「もし、作品を展示できる場所があって、個人の工房と食堂がついている寮のようなものがあったら、住みたいか?」
「そりゃあ住みたいが、そんなところは高くて住めない。」
「そうか。その資金をパトロンが出したら王都でなくても住みたいか?」
「そりゃあな。作品に没頭できる環境があるなら、最高だな。まぁ、俺の場合は森が近くないとダメだが。」
「なるほど。モスケルも来るしな。前向きに検討してみるか。」
「ん?モスケル?何の話だ?」
「構想が形になったらホルツにも教えるよ。」
「そうか。もう着くぞ。」
小さな家と言っていたが、確かに小さかった。
玄関は人が1人通れる程度だったし、騎士団の寮の一部屋に、小さなキッチンと庭が付いているくらいの狭さだった。
部屋の中は絵具の香りがして、所狭しと絵が並べられている。中隊長室に飾ってある絵と同じ大きさの作品も何点か重ねて立てかけられていた。
「凄いな。こんなにあったのか。」
「まぁな。作品が増えて生活するスペースがほとんど無いが、まぁ芸術家なんかは皆こんなもんだろう。」
「・・・これ。」
一つの絵に私は釘付けになった。
中隊長室に飾ってあるあの絵より、少し明るい色で森が描かれており、中央から少し右斜め上に、逃げる女の子の後ろ姿が描かれている。
「あぁ、それは1ヶ月ほど前に完成した作品だ。買ってくれるのか?なんてな。」
「買おう。」
「え?いいのか?」
「これは私の自室に飾りたい。いくらだ?」
「あー、この前は金銭的にピンチで吹っかけちまったからな。銀貨2枚でいいよ。」
「ダメだ。」
「じゃあ銀貨1枚と小銀貨8枚でどうだ?」
「ダメだ。」
「じゃあ、銀貨1枚と小銀貨5枚ならどうだ?これ以上下げるのは厳しい。俺も生活かかってるからな。」
「いや、そうじゃない。銀貨2枚など安すぎる。
そうだな、小金貨1枚でどうだ?」
「はぁ?小金貨?まさかここまで来て俺を揶揄ってるのか?中隊長さんよぉ。」
「いや、私は本気だ。この絵に小金貨1枚出してもいいと思った。もっと上げるか?」
「いやいや、いい、いい、いい。
そんなに上げられた怖い。それに小金貨なんかもらっても怖くて使えない。」
「それなら銀貨10枚で払おう。それなら大丈夫だろ?」
「大丈夫だが、本当にいいのか?」
「あぁ、ぜひこの絵を売ってくれ。しかし、この大きさだと持ち帰るのが大変だな。」
「それなら家まで荷車で運ぼうか?」
「そうしてもらえると助かる。絵の代金が銀貨10枚と、荷運び代が小銀貨2枚でどうだ?」
「いや、これだけ高く買ってくれたんだ。荷運び代なんかいらねえよ。」
「それはダメだ。働いた分はちゃんと報酬を受け取らないと。」
「そうか?じゃあありがたく。」
「うん。」
ホルツは絵を布で丁寧に包むと、荷車に乗せた。
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