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商人ギルドに到着すると、すぐに奥の部屋に通された。
肉と骨の山がそこにはあり、モスケルが倒したオークナイトとレッドボアだけ、別の山にしてくれていた。
「ラオ、どれだけ持っていく?」
「そうだな、なるべく多くの村に届けたいから、100かいや、150キロくらいいけるか。骨は諦めよう。」
「他の食材もあるからな。それくらいが妥当か。モスケルは全部持ち帰るのか?」
「いや、俺1人でこんなに食べられない。骨なんか使い道も分からないし。」
「せっかくだから、オークナイトの骨は作品を作る時のヘラなどの道具に加工してもらったらどうだ?」
「それいいな。そうしよう。代金はナイトの肉で払えるだろう。」
「肉は私が凍らせるから、多めに持ち帰るといい。」
「そうか。それは助かる。」
話がまとまると、あとはギルドに引き取ってもらい、精算してもらった。
「ナイトを1人で倒すと、こんなに貰えるんだな。でもいいのか?ウィルに支援してもらったから倒せたのに俺だけがもらって。」
「私は他の個体分を全部貰ってるからな。十分だ。」
「そうか。じゃあありがたくもらっておくよ。」
「あぁ、そうしてくれ。」
「侯爵様かモスケル様、治安部隊の方が来ておりますがどうしますか?」
「もう清算も終わったから、すぐに行こう。」
店は、夫婦で経営している家庭料理が美味しい店なのだとか。
隊員に店まで案内してもらうと、店は貸切されており、私たちが入ると、隊員たちが椅子から立ち上がってきっちり姿勢を正した。
「何してるんだ?先に始めていてくれて良かったのに。」
「そんなわけにはいきませんから。」
「飲み会の席なんだから気にするな。私はこの中でも一番歳下だと思うし、タメ口で気安く話しかけてくれて構わない。」
「歳下・・・?」
「歳下だと思わなかった。一体ウィルさんはいくつなんだ?」
「あれ?皆ウィルの歳知らないの?」
「俺も知らないが。」
「モスケルも?え?そうだっけ?」
「あぁ。」
「ウィルは16だ。」
エエェェェェェェェェ!!!
「いや、皆驚きすぎじゃないか?私はそんなに老けて見えるのか?」
「くくくく、面白いね。皆そんな反応するんだ?屈強な男たちが揃ってこんなに驚く場面に遭遇できるとは。」
「マジか、まだ成人して間も無いじゃないか。」
「嘘だろ。」
「言われてみれば幼さが残る顔にも見える。」
ざわざわとざわつく店内に、居心地が悪くなった私は店主の元へ行き、全員分のエールを頼んで、貸切させてくれたことにお礼を言った。
うるさくして迷惑をかけるかもしれないと、前払いで小金貨5枚を支払ったら恐縮された。
オーク肉も使えそうなら使ってほしいと、肉の塊20キロほどを渡し、残ったら家族で食べてもいいし、店で出してもいいと言っておいた。
あと、肉が食べられないので野菜や豆だけの料理も可能なら作ってほしいとお願いした。
オーク肉も野菜料理も、快く引き受けてくれた。ありがたい。
夫婦で経営しているので人手は足りない。エールは料理を担当している旦那さんと、接客を担当している奥さん2人で運び始めたため、私も手伝った。
「ウィルさん!ウィルさんがエールを運ぶなど・・・。
私たちが運びますのでウィルさんは座っていてください。」
「あ、あぁ。気にしなくていいのに。」
間も無く全員にエールが行き渡ると、皆が一斉に私を見た。
・・・私が挨拶するのか。
「今日は皆、お疲れさま。
酒の席だ、手を出すのは無しだが、しっかり言いたいことをぶつけ合って仲良くなってくれ。乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
木のコップをぶつけ合う鈍い音が響いた。
エールに口をつけるが、やはり苦い。
喉がシュワシュワと刺激される感じは良いが、苦さはどうにもな。
「ウィル、それは俺が飲んでやるからシードルを頼んだらどうだ?」
「いいのか?」
「苦い顔をしていたぞ、はははは」
「モスケル、助かる。まだエールの苦さに慣れなくてな。」
私はシードルを飲みながら、豆のピクルスや、野菜グリル、野菜の煮込みを摘んだ。
美味しいな。
美味しさを感じるのは、幸せなことだ。
「ウィルさん、ウィルさんは魔術が堪能だと聞きました。オークジェネラルを瞬殺したとも。
幼い頃から侯爵家で英才教育を?」
「いや、経緯を話せば長くなるから魔術の習得に絞って話すと、子供の頃から戦場に出て実戦で鍛えられたというのが正しいかな。」
「子供の頃から戦場に?」
「あぁ、前に魔術部隊の中隊長をしていた人に教えてもらいながら、戦場を駆け回って支援と攻撃を繰り返した。」
「それはさすがに私たちでは経験できませんね。」
「そうだな。無理に戦争に参加することはない。実戦で鍛えたいなら、弱くてもいいから魔獣を相手にすることが成長に繋がるぞ。」
「うちの部隊でも魔獣討伐訓練をやってみます。」
「あぁ。それがいい。」
「ウィルさんは支援よりも攻撃魔術の方が得意ですか?」
「いや、そんなことはない。私は攻撃魔術はほとんど使わない。
最近は戦場に援軍で行った時やオーク討伐で使っているが、その前は3年ほど使っていなかったな。」
「そうなんですか?」
「へぇー意外だ。」
「あぁ。私は前任の中隊長が亡くなってから13で中隊長代理になって、15で正式な中隊長になったんだが、指揮をすることが多いから、使ったとしても支援だな。」
「13で・・・。」
「それでもウィルさんが出た方が早いのでは?」
「確かに早いだろう。しかし、それでは隊員たちが成長できない。隊員たちを成長させるのも私の仕事だからな。」
「手柄は要らないのですか?」
「手柄?隊員や部隊の成長が私の手柄だ。」
「凄い。」
「上司は部下の手柄を取っていくものだと思っていた。」
「そんな上司いるのか。」
私が話しているとどんどん人が集まってきた。
「ウィルさんの部下は幸せだな。」
「ウィルさんの指揮で戦ってみたい。」
「国の騎士団で中隊長を務めるのは、このような人格者でないと無理なんだな。」
「私は周りに恵まれていただけだ。まだまだ私など大したことないんだ。まだまだ弱いしな・・・。」
「「「いやいやいやいや、ウィルさんが弱いわけがない」」」
「そんな皆で声を揃えなくても・・・。」
「「「すげー!!」」」
「なんだ?」
当然大声で叫んだ声に何事かと驚いた。
・・・ラオだな。何を言ったのか気になり、ラオの元へ歩いていく。
「ラオ、何を言った?」
「えー?水が出る筒を見せて、発案者がウィルだって教えてあげただけだよ。」
「私はただその場の思いつきをヴィントに伝えただけだ。その魔道具を形にしたヴィントの方が凄いだろう。」
「どっちも凄いよ。
普通は思いつくこともないし、作ることもできない。」
「まぁ。あまり私を上げるな。私はそんな偉大な人物ではないんだから。」
「ウィルは相変わらずウィルだな。」
その後も、ラオやモスケルによって私の評価は上げ続けられ・・・。
しかし、魔術師と戦士の溝はかなり埋まってきているようだ。
言い合いをしている間に入って、両方の言い分を聞いて中立な判断をする。だいたいは、誤解がすれ違いを生んだだけだったりする。
戦士部隊と合同で飲み会をするのもありだな。帰ったら戦士部隊に提案してみよう。
もう既に参加しているものもいるが。
帰ったらやりたいことがたくさんあるな。
この旅では色んなことを知れた。新しい出会いもあったし、ラオの護衛を提案してくれた陛下やコーエン卿に感謝しないとな。
快く送り出してくれた隊員たちにも。
まだまだ続くこの旅が楽しくて仕方ない。
「え?モスケル引っ越すの?しかもウィルの領地に?」
「あぁ。春になったらな。」
「えー!いつの間にそんな話に!?」
「昨日だな。」
そんな話もありつつ、私たちはこの厳冬で厳しい生活をしているであろう辺境の村を目指して旅立った。
商人ギルドでも、辺境の地が厳冬で閉ざされていることは把握しており、商人への補助や商人の手配に向けて動いてくれるそうだ。伯爵も、救援が必要だと国に上げてくれるそうで、早い対応が期待される。
私たちは私たちにできることをしよう。
雪の中の移動はなかなか大変だったが、どこの村でも、オーク肉や塩、豆などはかなり喜ばれた。
トルーキエを抜けると、私たちはインディールを抜けて、エトワーレ王国へ戻ってきた。
「もう春が近いな。」
山からの雪解け水が、春を運んでいる。
真っ白だった山も、少しずつ木々が目立ち始め、街道沿いの木々は新芽が顔を覗かせている。
「あっという間だった。ラオ、行商の旅に連れて行ってくれてありがとう。色んな出会いがあって、色んな発見があって、自分の生きていた世界がいかに狭いかを思い知らされたよ。
また機会があれば連れて行ってほしい。」
「あぁ。こちらこそ、ウィルがいてくれて本当に助かったよ。いつでもウィルなら大歓迎だ。
長い旅だったからな、2-3日はしっかり休んで、それからヴィントに会いに行くか。」
「そうだな。そうしよう。」
こうして私たちは無事エトワーレの王都に戻ってきた。
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この章はここで終了です。明日から新章に入ります。
お金の価値
銅貨(100円)
小銀貨(1,000円)
銀貨(10,000円)
小金貨(100,000円)
金貨(1,000,000円)
ウィルが酒場の主人に払ったのは小金貨5枚なので50万くらいですね。




