表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/171

42



ギルドマスターが帰ると、皆で治安部隊の練習場に行った。


隊員たちにオークジェネラルやオークナイトがどのような動きをするのかを教え、その動きを想定した戦い方を教えていった。


ナイトと実際に戦ったモスケルも、指導に回っていたが、なかなか教えるのが様になっていた。


私はオークジェネラルの動きを再現して、隊員たちとの模擬戦を繰り返した。




「魔術発動までの時間は、攻撃をするチャンスだ。魔力を高める気配を感じたら間髪開けず攻撃を繰り出せ。」

「「「はい!」」」



「そこの魔術師、君たちは支援が苦手なのか?それとも魔力量が少ないから温存しているのか?」


「いえ、戦士だけに手柄を取られたくないので攻撃魔術を使いたいのです。」

「よく言うぜ、いつも手柄を取っていくのは魔術師じゃないか。」



「はぁ?君たちは馬鹿なのか?

魔術師は戦士の支援をして、戦士を1番良い状態で戦わせるのが仕事だ。もちろん攻撃魔術も使う。

攻撃魔術を使う時、戦士がいなければどうなる?即時大型魔術が放てるのか?


魔術発動まで守ってくれるのが戦士で、魔術を放つ隙を作ってくれるのも戦士だ。

戦士は魔術師の支援を受けて戦うが、魔術師を守るのも仕事だ。攻撃魔術を撃つ隙を作るのも仕事だ。


お互いに守り合い、助け合うから相乗効果で強い部隊ができるんだ。

オークジェネラルを倒したいと思うなら互いを尊重し合え。それができないならオークナイトすら倒せはしない。」




隊員たちは皆、黙ってしまった。

一応頭では理解しているんだろう。しかし、認められない何かがあるんだろうな。

戦士と魔術師の溝は、なかなか埋まらない時もあるからな・・・。



「モスケルはどう思う?」


「俺?俺は今回オークナイトを倒せたのは、ウィルがいたからだ。

槍を振るってオークナイトと対峙していたのは俺1人だが、俺は1人で勝ったとは思っていない。1人じゃ勝てなかった。

身体強化や体力回復をかけてもらったから勝てたのであって、それは俺1人の力ではなく、ウィルと2人の力。俺は、ウィルに勝たせてもらったと思っている。

だから、誰が1番槍を入れたとか、誰がとどめを刺したとか、そんなことは戦いの一部でしかないと思う。」



「うん。そうだな。

モスケル、良いこと言うな。

皆もモスケルのように考えられるようになってほしい。そうすれば、この部隊はもっと強くなる。」



もっと皆がコミュニケーションを密に取れればいいのに。



「そうだ、皆で飲みに行けばいい。

言いたいことを言って、改善できる部分は改善して、すれ違いなんかは飲みに行って本音でぶつかれば、すぐに解消する。

私の中隊ではよく飲み会を開いているぞ。飲み会の席では皆が平等、それぞれ要望を出して皆で考える。そうして仲を深めている。」



「要望・・・。

そんな大きな不満は無いんですが。」


「小さくてもいいんだ。私の中隊で出た小さな要望を教えてやろう。

寮の石鹸を香り付きのものにしてほしい、だ。」



ザワザワザワ

「そんなんでいいんだ・・・。」

「それは改善されたんですか?」


「あぁ、私が許可を出して寮の石鹸は香り付きのものになったぞ。そんな大きな要望でなくてもいいんだ。

要望と言えるかどうか分からないものでは、私が冷たいとか、私の顔が怖いとか、そんなのもあったな・・・。」



ザワザワザワ

「確かにちょっと怖いな。」

「そうだな。」



「そんな話も、酒が入れば気軽に言えるだろう?

要望や不満は治安部隊の中で解決するもよし、解決できなければ伯爵に上げるもよし、そこは皆で考えればいい。

伯爵は要望を上げれば真剣に考えてくれると思うぞ。」



「ウィルさんが言うんだからそうなんだろう。」

「飲み会、開くか?」

「やってみようか。」




うん。いい感じだ。

私は腕を組んで彼らを眺めた。



戦士と魔術師が恐る恐る近づいて、飲み会の相談をしている。

何ともシュールだが、確実に一歩進んだな。

ここで話し合いができるなら、この部隊は大丈夫だろう。





「侯爵様、ありがとうございます。

オークジェネラルやオークナイトの情報や戦い方だけでなく、隊員の在り方まで指導して下さって。」


「いえ、すみません。

伯爵には伯爵のやり方があるでしょうに、私が口出しをして。」



「いえ、侯爵様がおっしゃることは正しいと思いましたし、彼らも今後成長する姿が想像できます。

若くして中隊長をされていることにも納得です。侯爵様は上に立つために生まれたような方ですな。」

「いえいえそんな、それは過大評価ですよ。私などまだまだ勉強の日々ですから。」



「こうして侯爵様と縁ができたことを嬉しく思います。」

「そうですね、せっかく知り合えたのですから、よろしければ私の領地にもいつか遊びに来てくださいね。

と言っても今は代官に任せて私は王都で騎士団中心の生活ですが。

この旅から戻ったら、もう少し領地の経営に携わろうと思っています。」



「そうですか。どのような領地経営をされるのか気になりますな。

いつかお邪魔させてください。」

「えぇ、気軽にお越しください。」




意外なところで貴族同士の繋がりができたな。

そうか。貴族との繋がりは別に国内に限ったことではないんだな。

敵対している国同士では難しいだろうが、エトワーレとトルーキエは良好な関係だし、この繋がりは大切にしよう。



「あの、ウィルさんとモスケルさんと、ラオさんも、このあと飲み会に参加しませんか?

あ、いや、ウィルさんがいないと少し不安というか・・・。」


「あぁ、私は別にいいぞ。」

「俺もいいけど、俺にさんは付けないでくれ、なんか気持ち悪い。平民だしモスケルと呼び捨てでいい。」

「俺いる?俺は戦いの話はできないよ?商人だし。ウィルが凄いってことを話すことはできるけど。」



「それ聞きたい。」

「俺も聞きたい。」



「ラオ、私は別に隠さなければならないことなど無いが、恥ずかしい話はやめてくれよ。」

「ウィルの恥ずかしい話なんかあったっけ?スマートで優秀で美しくて格好いいところしか見たことないけど。あとたまに可愛い。」



「いや、もうラオのその発言だけで恥ずかしい・・・。」


私は恥ずかしすぎて両手で顔を覆った。




「うわーなんか、ギャップ萌え?」

「これは令嬢が放っておかないだろうな。」



誰が発言したか分からないが、微かに聞こえた令嬢という言葉に私の心が一気に冷えた。



「おい、ウィルどうした?冷気が出てるぞ。」


モスケルに指摘されて初めて気づいた。

「あぁ、すまない。嫌な言葉が聞こえた気がしてな。思わず・・・。」



「そ、そうか。

って、何だその冷たい表情は!?

目を合わせたら凍りそうだぞ。」


「あぁ、すまない。何でもないんだ。」



「ウィル、落ち着いて、ここに奴らが出てくることはない。」

「そうか。そうだよな。すまん。」



「何だ?」

「あ、いや・・・」


「ウィルって見た目がこれだろ?

で、若くして侯爵家当主で、しかも騎士団魔術部隊の中隊長に最年少でなってる。

夜会に出ると令嬢が群がってウィルは色々と嫌な目に遇ってる。怪我までさせられている。

それでこの反応だ。」



「あぁ〜、なるほど。納得だ。」

「・・・まぁ、そうだな。夜会に出る度に、嫌な思いをしている・・・。

もうこんな話はやめよう。もっと楽しい話をな。」



ふぅ。もう思い出すのはよそう。

こんな時はマッチョシーリーズでも眺めて心を躍らせていたい・・・。

もしくは、森に佇む妖精でも思い浮かべて・・・。


王都に帰ったらあの画家に、持ち運びができるサイズのあの絵を描いてもらおう。

そうすれば心が乱れた時でも、落ち着かせることができそうだ。




「侯爵様、商人ギルドから解体が終わったとの連絡がございました。」

「あぁ、すぐに行こう。せっかく捌いてくれたのに待たせても悪いからな。

店が決まったら教えてくれ。伝令魔獣が使える者は?」



「伝令魔獣?何だそれ?」

「誰か使えるか?」



「いないか。では店が決まったら誰か教えに来てくれるか?場所は商人ギルドだ。

私かモスケルを呼び出してくれ。受付には言っておくから。」


「「「分かりました。」」」



閲覧ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ