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ギルドマスターが帰ると、皆で治安部隊の練習場に行った。
隊員たちにオークジェネラルやオークナイトがどのような動きをするのかを教え、その動きを想定した戦い方を教えていった。
ナイトと実際に戦ったモスケルも、指導に回っていたが、なかなか教えるのが様になっていた。
私はオークジェネラルの動きを再現して、隊員たちとの模擬戦を繰り返した。
「魔術発動までの時間は、攻撃をするチャンスだ。魔力を高める気配を感じたら間髪開けず攻撃を繰り出せ。」
「「「はい!」」」
「そこの魔術師、君たちは支援が苦手なのか?それとも魔力量が少ないから温存しているのか?」
「いえ、戦士だけに手柄を取られたくないので攻撃魔術を使いたいのです。」
「よく言うぜ、いつも手柄を取っていくのは魔術師じゃないか。」
「はぁ?君たちは馬鹿なのか?
魔術師は戦士の支援をして、戦士を1番良い状態で戦わせるのが仕事だ。もちろん攻撃魔術も使う。
攻撃魔術を使う時、戦士がいなければどうなる?即時大型魔術が放てるのか?
魔術発動まで守ってくれるのが戦士で、魔術を放つ隙を作ってくれるのも戦士だ。
戦士は魔術師の支援を受けて戦うが、魔術師を守るのも仕事だ。攻撃魔術を撃つ隙を作るのも仕事だ。
お互いに守り合い、助け合うから相乗効果で強い部隊ができるんだ。
オークジェネラルを倒したいと思うなら互いを尊重し合え。それができないならオークナイトすら倒せはしない。」
隊員たちは皆、黙ってしまった。
一応頭では理解しているんだろう。しかし、認められない何かがあるんだろうな。
戦士と魔術師の溝は、なかなか埋まらない時もあるからな・・・。
「モスケルはどう思う?」
「俺?俺は今回オークナイトを倒せたのは、ウィルがいたからだ。
槍を振るってオークナイトと対峙していたのは俺1人だが、俺は1人で勝ったとは思っていない。1人じゃ勝てなかった。
身体強化や体力回復をかけてもらったから勝てたのであって、それは俺1人の力ではなく、ウィルと2人の力。俺は、ウィルに勝たせてもらったと思っている。
だから、誰が1番槍を入れたとか、誰がとどめを刺したとか、そんなことは戦いの一部でしかないと思う。」
「うん。そうだな。
モスケル、良いこと言うな。
皆もモスケルのように考えられるようになってほしい。そうすれば、この部隊はもっと強くなる。」
もっと皆がコミュニケーションを密に取れればいいのに。
「そうだ、皆で飲みに行けばいい。
言いたいことを言って、改善できる部分は改善して、すれ違いなんかは飲みに行って本音でぶつかれば、すぐに解消する。
私の中隊ではよく飲み会を開いているぞ。飲み会の席では皆が平等、それぞれ要望を出して皆で考える。そうして仲を深めている。」
「要望・・・。
そんな大きな不満は無いんですが。」
「小さくてもいいんだ。私の中隊で出た小さな要望を教えてやろう。
寮の石鹸を香り付きのものにしてほしい、だ。」
ザワザワザワ
「そんなんでいいんだ・・・。」
「それは改善されたんですか?」
「あぁ、私が許可を出して寮の石鹸は香り付きのものになったぞ。そんな大きな要望でなくてもいいんだ。
要望と言えるかどうか分からないものでは、私が冷たいとか、私の顔が怖いとか、そんなのもあったな・・・。」
ザワザワザワ
「確かにちょっと怖いな。」
「そうだな。」
「そんな話も、酒が入れば気軽に言えるだろう?
要望や不満は治安部隊の中で解決するもよし、解決できなければ伯爵に上げるもよし、そこは皆で考えればいい。
伯爵は要望を上げれば真剣に考えてくれると思うぞ。」
「ウィルさんが言うんだからそうなんだろう。」
「飲み会、開くか?」
「やってみようか。」
うん。いい感じだ。
私は腕を組んで彼らを眺めた。
戦士と魔術師が恐る恐る近づいて、飲み会の相談をしている。
何ともシュールだが、確実に一歩進んだな。
ここで話し合いができるなら、この部隊は大丈夫だろう。
「侯爵様、ありがとうございます。
オークジェネラルやオークナイトの情報や戦い方だけでなく、隊員の在り方まで指導して下さって。」
「いえ、すみません。
伯爵には伯爵のやり方があるでしょうに、私が口出しをして。」
「いえ、侯爵様がおっしゃることは正しいと思いましたし、彼らも今後成長する姿が想像できます。
若くして中隊長をされていることにも納得です。侯爵様は上に立つために生まれたような方ですな。」
「いえいえそんな、それは過大評価ですよ。私などまだまだ勉強の日々ですから。」
「こうして侯爵様と縁ができたことを嬉しく思います。」
「そうですね、せっかく知り合えたのですから、よろしければ私の領地にもいつか遊びに来てくださいね。
と言っても今は代官に任せて私は王都で騎士団中心の生活ですが。
この旅から戻ったら、もう少し領地の経営に携わろうと思っています。」
「そうですか。どのような領地経営をされるのか気になりますな。
いつかお邪魔させてください。」
「えぇ、気軽にお越しください。」
意外なところで貴族同士の繋がりができたな。
そうか。貴族との繋がりは別に国内に限ったことではないんだな。
敵対している国同士では難しいだろうが、エトワーレとトルーキエは良好な関係だし、この繋がりは大切にしよう。
「あの、ウィルさんとモスケルさんと、ラオさんも、このあと飲み会に参加しませんか?
あ、いや、ウィルさんがいないと少し不安というか・・・。」
「あぁ、私は別にいいぞ。」
「俺もいいけど、俺にさんは付けないでくれ、なんか気持ち悪い。平民だしモスケルと呼び捨てでいい。」
「俺いる?俺は戦いの話はできないよ?商人だし。ウィルが凄いってことを話すことはできるけど。」
「それ聞きたい。」
「俺も聞きたい。」
「ラオ、私は別に隠さなければならないことなど無いが、恥ずかしい話はやめてくれよ。」
「ウィルの恥ずかしい話なんかあったっけ?スマートで優秀で美しくて格好いいところしか見たことないけど。あとたまに可愛い。」
「いや、もうラオのその発言だけで恥ずかしい・・・。」
私は恥ずかしすぎて両手で顔を覆った。
「うわーなんか、ギャップ萌え?」
「これは令嬢が放っておかないだろうな。」
誰が発言したか分からないが、微かに聞こえた令嬢という言葉に私の心が一気に冷えた。
「おい、ウィルどうした?冷気が出てるぞ。」
モスケルに指摘されて初めて気づいた。
「あぁ、すまない。嫌な言葉が聞こえた気がしてな。思わず・・・。」
「そ、そうか。
って、何だその冷たい表情は!?
目を合わせたら凍りそうだぞ。」
「あぁ、すまない。何でもないんだ。」
「ウィル、落ち着いて、ここに奴らが出てくることはない。」
「そうか。そうだよな。すまん。」
「何だ?」
「あ、いや・・・」
「ウィルって見た目がこれだろ?
で、若くして侯爵家当主で、しかも騎士団魔術部隊の中隊長に最年少でなってる。
夜会に出ると令嬢が群がってウィルは色々と嫌な目に遇ってる。怪我までさせられている。
それでこの反応だ。」
「あぁ〜、なるほど。納得だ。」
「・・・まぁ、そうだな。夜会に出る度に、嫌な思いをしている・・・。
もうこんな話はやめよう。もっと楽しい話をな。」
ふぅ。もう思い出すのはよそう。
こんな時はマッチョシーリーズでも眺めて心を躍らせていたい・・・。
もしくは、森に佇む妖精でも思い浮かべて・・・。
王都に帰ったらあの画家に、持ち運びができるサイズのあの絵を描いてもらおう。
そうすれば心が乱れた時でも、落ち着かせることができそうだ。
「侯爵様、商人ギルドから解体が終わったとの連絡がございました。」
「あぁ、すぐに行こう。せっかく捌いてくれたのに待たせても悪いからな。
店が決まったら教えてくれ。伝令魔獣が使える者は?」
「伝令魔獣?何だそれ?」
「誰か使えるか?」
「いないか。では店が決まったら誰か教えに来てくれるか?場所は商人ギルドだ。
私かモスケルを呼び出してくれ。受付には言っておくから。」
「「「分かりました。」」」
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