41
執事が伯爵に何か耳打ちすると、伯爵の顔が怒りに満ちた。
「そんなものは門前払いだ。すぐに引き取らせろ!」
「かしこまりました。」
「どうかされましたか?」
「え、えぇ、冒険者ギルドが受付の者を連れて侯爵様に謝罪をしたいと我が邸に押しかけたようでして・・・。」
「なぜ冒険者ギルドが?」
「オークが大量に街に運び込まれたんだ。冒険者ギルドに報告がないことから慌てて調べたんだろう。
野次馬もいたしな。ウィルが侯爵であることまで知れているかは分からないけど、伯爵邸に招かれたところを見た奴はいただろうな。」
「なるほど。」
「侯爵様にご不快な思いをさせないよう、きっちり対応しますので、どうかご容赦ください。」
「いえ、そこまで大袈裟にしなくていいですよ。本当に気にしていませんから。
あちらの気が済むなら、謝罪を受けてもいいと思っていますし。
私個人としては冒険者ギルドと対立する気はありませんから。」
「そうですか。なんと寛大なお方だ。」
「ちょっと待って。
ウィルを馬鹿にされて、俺はそれじゃあ納得できないんだけど。謝罪だとしても、その受付の奴をウィルに会わせるなんて有り得ない!」
「そうだ。あんな奴をウィルの目に映すなど俺も反対だ。」
「ラオもモスケルも、私を心配してくれるのはありがたいが、落ち着け。」
「私もその受付の人物を侯爵様に会わせたくはありませんな。
では、それは追い返して、ギルドマスターの話だけ聞いてあげましょう。」
連れて来られたギルドマスターは、部屋に入ると私に深々と頭を下げた。
「この度は私の部下が大変失礼をいたしました。誠に申し訳ございませんでした。
先ほど奴は横領の罪により解雇の上、犯罪者として治安部隊に引き渡しましたので、今後あなた様の目に触れることはありません。どうかご容赦を。」
先ほど横領の罪で・・・。
本当に横領をしたのか、それとも罪を着せられたのか。この先は怖いから考えるのはよそう。
「ギルドマスター、この方のことをどのように聞いてこちらに参られたのですか?」
「昨日、冒険者登録をされ、オークのことを尋ねられたが適当にあしらい、馬鹿にした態度をとって皆の前で晒しあげたと・・・。」
「それだけですかな?」
「今日、オークジェネラルを含むオークの群れを見つけて、そこのモスケルと2人で討伐されたと。
そして、その功績で領主様の邸に招かれたと聞いております。」
「私は、オークの群れを討伐された功績で邸に招いたわけではありませんよ。
もちろん討伐された功績は素晴らしいものでありますが、この方は隣国エトワーレ王国の侯爵家の当主様であり、騎士団魔術部隊の中隊長もされている、それはそれは非の打ち所がない優秀な方でございます。」
「・・・。」
「侯爵様・・・そうとは知らず、部下ならびに当ギルド所属の不届き者たちによる数々の無礼、誠に申し訳ございません。」
「いえ・・・。」
「ギルドマスター、オーク討伐を聞いてこのお方をギルドに取り込むために謝罪にこられたのかな?」
「いえ、そのような・・・。」
まぁ、そうだろうな。
きっとここのギルドマスターであればモスケルの実力は把握している。
オークジェネラルを倒したのがモスケルではなく私だということはすぐに分かったのだろう。
そして、Aランクパーティーが複数集まってやっと倒せるほどのオークジェネラルを単独で倒すことができることを知り、受付の彼を切り捨ててでも、私を取り込みたいと思うのは不思議ではない。
しかし、私はこの国の者ではないし、この街に留まることはない。
謝罪は受け取るが、今後ともこのジムナーシアの冒険者ギルドと仲良くしたいかといえば、それはまた別の話だ。
「残念だがギルマス、この街の冒険者ギルドへの信頼は地に落ちている。
ウィルはあんたからの謝罪を受け取ることはあっても、信頼することはない。」
「ウィルにとってはオークジェネラルなど後進育成のためのただの研究材料に過ぎないからね。
この旅でウィルはオークジェネラルを2体倒している。
1体目は災害級とは知らずに瞬殺してしまったから、動きや弱点などを部下に教えられないと嘆いていたな。」
「それでさっきオークジェネラルを見つけた時に嬉しそうだったのか。」
「魔術の発動や癖、周りとの連携の仕方を含めて色々研究できたよ。モスケルとナイトの戦いも、動きを色々見れて良かった。
もしまた遇うことがあれば、ナイトやノーマルオークも泳がせて、連携や指示の出し方も見てみたいな。」
「ふははは、いくらウィルの引きが強くても、さすがにもうしばらくは遭うことは無いと思うよ。」
「オークジェネラルとオークナイトの動きの研究ですか。それはぜひうちの治安部隊の者たちにも教えてもらいたいものですな。」
「いいですよ。あとで隊員たちに教えましょうか?」
「良いんですか?」
「えぇ、もちろん。今回オークが群れを作っていたということは、今後も群れを作る可能性があるということ。
領地の治安部隊の皆さんにはしっかりオークとの戦い方をマスターしてこの街を守ってもらわなければなりませんからね。」
「冒険者ギルドにも・・・」
「「はぁ?」」
「あぁ?」
冒険者ギルドのギルドマスターが口を開いたが、周りから一斉に睨まれて口を閉じた。
まぁ、この街は領地の治安部隊がしっかり守ってくれるだろう。
「ギルドマスターは忙しい身だろう?もう帰ったらどうだ?」
「いや、は、はい。」
私以外のみなに睨まれると、ギルドマスターは肩を落として部屋を後にした。
閲覧ありがとうございます。




