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「そうか。それでモスケル、ナイトとは戦えそうか?」
「あ、あぁ。ジェネラルの殺気が無くなったからだいぶ落ち着いたよ。」
「殺気か、そうか。それが精神に作用してキツかったんだな。結界の見直しが必要か・・・。
悪かった。そこまで気付かなくて。」
「いや、大丈夫だ。ウィルは結界解いてたが大丈夫だったのか?」
「あぁ。子供の頃から戦場にいたからな。殺気やなんかの悪感情には慣れているんだ。」
「そうか・・・。」
「準備ができたら言ってくれ。とりあえず結界は解くぞ。」
ナイトの氷の檻はそのままで、モスケルの結界のみを解除した。
これでモスケルはナイトに認識されたな。
「うぉ、寒いな・・・。
そしてさっきまでこっちに向いていなかったナイトからの殺気が肌に突き刺さるようだ。」
「キツイか?結界をかけるか?」
「いや、大丈夫だ。」
「じゃあ準備ができたら、身体強化をかけてナイトの氷の檻を解除するから言ってくれ。」
「あぁ、分かった。もし、無理そうだったらウィルが倒してくれるか?」
「そうだな。
んー、いや、やめておこう。
せっかくモスケルに訪れた成長のチャンスだ。キツくなったら結界をかけよう。
時間がかかったとしても、モスケルが倒した方がいい。」
「分かった。やってみる。覚悟はできた。檻を解除してくれ。」
「分かった。」
私はモスケルに身体強化をかけ、オークナイトの氷の檻を消した。
ブオモォー!!
相当怒っているな。
仕えていたジェネラルを目の前でやられてるし、指示が出ても何もできなかったんだからな。
プライドなんてものが魔獣にあるのかは分からないが、もしあればかなりプライドを傷つけることになっただろう。
悪いがこの厳冬で困っている皆の、貴重な栄養になってくれ。
オークナイトは剣を振り上げてモスケルに襲いかかる。
さすがナイトというだけのことはあるな。
魔獣と思えないような剣捌きだ。
一体どこでそんな剣技を覚えるのか、不思議なものだ。
戦士と戦った際に、戦いながら覚えていくんだろうか?
今のところ、力は拮抗しているように見える。
あとはナイトの体力がどれくらいのものか、どちらが先に集中力を切らすか、力が拮抗している時は小さなミスが命取りだ。
ん?モスケルは槍を使っている。ナイトは片手剣だ。
モスケルの方が武器のリーチが長いはずだがそれを感じさせない。
ナイトの方が少し上ということか・・・。
モスケルの本業はマッチョ作品の作家だ。今後その本業に支障があるような怪我をしてはいけない。
私はこっそり、モスケルの腕の内部、骨や筋や神経に結界をかけた。
これで例え斬りつけられて腕に怪我を負っても、今後の仕事に影響はない。
私は今後もモスケルの作品を見たいし、ずっと作品を作り続けてほしい。
懐に入られるほどの隙を与えてはいないが、ジリジリとモスケルが押されて後退している。
ナイト1匹でも、戦士1人で倒すのはキツいということか。
モスケルは決して弱いわけではない。
冒険者ランクも上位のBランクだし、騎士団の戦士部隊にいれば分隊長か、場合によっては小隊長にもなれるほどの実力に見える。
もしかしてさっきの緊張でモスケルは体力が削られたのか?
回復しておくか。
私はモスケルに回復をかけた。
すると、少しモスケルの動きが良くなって、カウンターで一撃を与えた。
ブォー!
痛かったんだろうな。
人型だと何となく感情が分かるのが嫌だな。
だから私は痛めつけながら追い詰めるよりも、苦しい顔を見なくていいように出来るだけ短時間でサッと倒すようにしている。
魔獣は害にしかならない。
見つけ次第駆除するのが、世界共通の認識だ。
中には共存できるものもいるが、あれは元々大人しい種類の魔獣を魔術で従えているから何とかなっているのであって、オークなどは害でしかない。
肉は美味いらしいが、やはり私には無理だな。
それでも、命あるものだ。
誰かの役に立ってこの世を去るのであれば、感謝をしなければならないな。
最初に出会ったジェネラルは、辺境の村の皆の命を長らえ、今回の個体については私の隊の育成にも役立ってくれる。
骨も武器になれば、誰かの命を守ることもあるだろう。
こうして、色々世の中は巡っていくんだな。
父ちゃん、ウサギを狩った時に父ちゃんが言っていたのは、こういうことだったんだね。
命をいただくことに感謝を。
おっと、思考の海に浸ってモスケルのことを忘れそうになっていた。
モスケルを見ると、戦いが楽しくなってきたのか、動きは先ほどよりもいい。
緊張が解けてきたのと、ナイトの殺気にも慣れてきて、本来の動きができるようになったのだろう。
これなら心配は要らないな。
「ウッ、、」
安心して見守っていたら、剣がヒットした感じはなかったが、モスケルの腿の辺りの服の生地がサクッと切れて、皮膚から少し血が流れた。
もしや斬撃を飛ばしたか?
もしくは風の魔術を使ったか?
さっきの技をもう一度見たい。
ナイトが魔術を使うのであれば、モスケルには少し厳しいか?
しかし、魔術の気配は感じなかった。
私が知らない魔術なのか、斬撃を飛ばしたのか・・・。
「グッ、、」
モスケルの腿の同じ場所が更に深く切れた。
斬撃を飛ばしているな。
魔術を使うわけではないなら、モスケルは大丈夫だろう。
斬撃は少し厄介だが、軌道を読んで避けることができる。
私はモスケルの腿にかかるように怪我用のポーションを投げ、腿の上で割った。
ポーションがかかると、モスケルの腿の傷は塞がった。
私はミランに教えてもらった、声に魔力を纏わせるやり方で、モスケルに話しかけた。
「モスケル、ナイトは斬撃を飛ばしている。魔術を使えるわけじゃないから安心しろ。
斬撃は必ず剣の延長線上に来る。剣の軌道をよく見れば避けられるはずだ。」
モスケルは一瞬驚いて私を見たが、すぐにナイトに視線を戻した。
余所見して会話するほどの余裕は無いだろう。
剣の軌道を見ていないと、次はどこに斬撃を飛ばされるか分らないからな。
その後も斬撃は何度か飛ばされていたが、モスケルは全て避けた。
言ったことを体に馴染ませるのが早いな。
適応能力が高いってやつか。
身体強化も、割とすんなりものにしていたしな。
魔術師ならば部下に欲しいものだ。
いやダメだ。部下になったらマッチョシリーズを作る時間がなくなってしまう。
モスケルには心置きなく作品作りに没頭して欲しい。
ナイトはさすがに疲れを感じ始めたのか、集中力が途切れがちになった。
もうモスケルとオークナイトが戦い始めてから、20分近く経っているから、よく持った方だろう。
モスケルは初めの頃に回復を使ってからは疲れた様子を見せなていない。
斬撃で切れた腿もポーションで治っているし、まだいけそうだ。
ブオモォー!!
気合いを入れ直したようだな。
しかし疲れまでは取れまい。
その後はモスケルがどんどん押していった。
ナイトの四肢に槍がヒットする数が増え、動きも鈍くなっていく。
そしてとうとうモスケルの槍がオークナイトの心臓を貫いた。
もう剣で受け流すことも、避けることもできない程に傷を負っていた。
「モスケル、お疲れさま。血抜きはやっておくからゆっくり休んでくれ。」
「おぅ、ありがとう。ウィルのおかげでオークナイトに勝てた。それに、成長した気がするよ。」
私は爽やかな笑顔のモスケルに水とポーションを渡すと、モスケルが倒したオークナイトの元へ向かった。
モスケルも斬撃にやられた腿の傷ほどではないが、色んなところに傷を作っていたから、汗で失われた水分だけでなく、怪我用のポーションも一緒に渡した。
オークナイトに近づくと、思った以上に裂傷が多く血だらけで、戦いの激しさを物語っていた。
そうか。戦士同士の戦いともなると、こんなに傷だらけになってしまうんだな。
痛かっただろう。安らかに眠ってくれ。
決してお前の死を無駄にはしない。
抜いた血を燃やすと、モスケルの元に戻った。
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