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>>>トルーキエ王国



「この先の国境を越えたらトルーキエ王国だ。」

「とうとう国外に出るんだな。」


「トルーキエは陽気で穏やかな性格の人が多いから、あまり心配することはない。

その時になったら言うけど、中にはちょっと危険な国もあるからな。」

「そうか。まぁそういう国もあるだろうな。」


「ハーブルという街があのハンカチの生産をしているんだ。まずはそこを目指そう。」

「分かった。」



「寒さで手が悴むな・・・。通行証が取れない。」

「温めるか?」


私は火と風の魔術で温風を出してラオの手元に向けた。


「ありがとう。助かる。」



「ところで私は通行証など持っていないが大丈夫か?」

「問題ないよ。護衛の話をもらった時に、陛下から預かっている。」


「そうだったのか。」

「あぁ。商人と護衛がセットなのは世界共通だから、俺の通行証だけ提示してウィルは護衛だと告げれば問題ないんだけどね。まぁ念のためって言ってたよ。

トルーキエに入ったら温かいものを食べよう。」

「あぁ。」




陛下はそんなことまでしてくれていたのか。戻ったら何かお土産を持って挨拶に行かなきゃいけないな。



それにしても温かいものか・・・。

この前の戦争以来、味覚どころか温度も感じなくなってしまったからな・・・。


せっかく美味しくて温かいものなのに、感じ取れないのは残念だ。



国境を越えてしばらく歩くと、そこそこ大きな街が見えてきた。



「今日はこの街に泊まろう。」

「分かった。」


ラオがいつも使っているという馴染みの宿が空いていたので、その宿を取り、荷物を置いて街に出た。



「ここは賑やかな街だな。」

「王都とは違うだろ?」


立ち並ぶ店は小さな屋台が多く、食べ物を売っている店が多かった。


「さぁ、温かいものを食べて温まろう。」

「そうだな。」


ラオは一軒のレンガでできた店に入って行った。



「いらっしゃい。」

「こんにちは。」


「ラオじゃないか。今日はずいぶん美男子を連れているね。」

「そうだろ〜?俺の友達でウィル。護衛もやってくれているけど、とにかく優秀で助かってるんだ。」


「そうかいそうかい。見目麗しいだけじゃなく優秀なのかい。それは羨ましいね。」

「いえ、私は形だけの護衛としてラオの旅に同行させてもらっているだけで、そんなに優秀などでは・・・。」


「何言ってんだい。冬の護衛なんか誰も行きたがらないんだ。一緒にいてやるだけでラオは嬉しいんだよ。」

「うんうん。それもある。」

「そ、そうか。」


「さぁ、そこに座って。温かいスープでもご馳走してやるよ。」

「おばちゃん、ウィルは肉がダメだからそれ以外でお願いね〜」

「はいよ〜」


「いい店だな。」

「そうだろ?この街ではいつもこの店に来てしまうな。」



間も無く、スープとパンと野菜などがグリルされたものが出てきた。

味がないのは仕方ないが、せめて温かさは感じたいな・・・。


「・・・温かいな。」

「あぁ。」


私は一口スープを飲んだ。

久々にスープの温かさを感じることができたことが、嬉しかった。


スープの中には豆や穀物が入っており、トマトの色だろうか、赤いスープだった。

湯気がたちのぼるそのスープは、出迎えてくれた女将さんと同じように温かくて、ホッとした。



「外が寒かったから、温かいスープはいいね〜」

「そうだな。身体の芯から温まる気がする。」


この温かいスープの味が分かればもっと良かったな。きっと美味しいんだろう。味が分からないことが残念だ。



「ご馳走様。またこの街に来たら寄るね〜。」

「ご馳走様でした。」


「ラオもウィルもまたいつでもおいで〜」




こんな店もあるんだな。

こんな店があることを知れただけでも、ラオについてきて良かった。


「じゃあ腹も膨れたことだし、買い物に行こう。」

「あぁ。何を買うんだ?」


「冬は食材が少ないから、辺境の土地ではやはり食材を求められることが多い。

時期的にも乾物が多いかな。」

「なるほど。乾物であれば冬まで保存しておけるんだな。しかも持ち運ぶのも軽い。」


「そういうこと。今回はウィルが倒したオークがあるから、野菜と豆と塩を買うよ。

ウィルも欲しいものがあれば買うといい。荷物になるようなものは困るが・・・。」

「まだ旅の序盤で荷物をあまり増やしたくないな。見るだけ見てみるか。」


「ウィルは行商じゃないから荷物が減らないもんな。確かに増えるだけなら帰り際なんかに買った方がいいな。」

「そうだな。」


「へぇ、豆ってこんなに種類があるんだな。」

「驚いたか?トルーキエは豆をよく育てていて、種類が豊富なんだ。」


世の中は知らないことだらけだな。



「あら美しいお兄さん、おまけするわよ。」

「あ、いえ、私は彼の付き添いなので。」


ボーッと店内を見ていると、色気をまき散らした店長さん?が近づいてきた。


「なんだ。ラオの連れか〜」

「ウィルにちょっかいかけないでね。」


「はいはい。で今日はこんな綺麗な子連れてどうした?」

「彼は俺の友達でウィル。冬の行商の護衛を引き受けてくれた。」


「こんな綺麗な子を寒空の下連れ歩くなんて可哀想じゃない。」

「いえ、私は騎士団に所属しているので、この程度の寒さなど平気ですから。」


「あら〜ウィルちゃんは綺麗な上に強いなんて最高ね。」

「くくく。とにかくウィルに色目使うのはやめてくれ。俺の国の重要人物なんだから、ちゃんと国まで連れて帰る必要がある。」


「ウィルちゃんは国の重要人物なの〜?」

「いえ、そんなことはないかと。」



ラオは豆を数種類買うと、新作のスパイスがまぶされた炒り豆という、そのまま食べられる豆も少し買っていた。

そして私は、その炒り豆をタダで貰ってしまった。



「ウィルちゃんまた来てね〜」

「はい、またいつか。」


「ウィルはどこに行っても人気だな。」

「そんなことはない。ラオが築いた関係が、友人である私を受け入れてくれるんだと思う。」


「まぁ、そういうことにしとくか。」


他にも魚を干したものや、干した野菜を色々購入して、塩も大量に買っていた。





「なかなかの量だが、大丈夫か?」

「買いすぎたか。入りきらないかもしれない・・・。」


翌朝、出発するためにラオの部屋を訪れると、大量の荷物と格闘するラオがいた。


「私のカバンにも少しは入るが、ここにある全ては難しいぞ。オークを少し売ったらどうだ?」

「仕方ない・・・そうするか。」


「辺境の地で食料となる肉は必要だが、骨は売ってもいいんじゃないか?」

「確かに〜骨は基本的には武器になるからな。それなら商人ギルドの武器部門に全部売るか〜」


「骨がなくなればかなり荷物が減るな。」

「いや、待てよ。全部はダメだ。せっかくのオークジェネラルなんだから、エトワーレにも持って帰りたい。」


「半分も売れば、ここの荷物は入るんじゃないか?」

「そうだな。よし、半分売ろう。」



私たちは商人ギルドにオークジェネラルの骨を半分売ると、荷物を整理してこの街を発った。

この街なら馬で駆ければ3-4日くらいで着きそうだ。また来たいな。





「うぅーさすがに山は寒いな・・・。

ってなんでウィルはそんなに平気そうなんだ?」


雪深い山道を滑らないよう慎重に進んでいると、ラオが白い息を吐きながらそう言った。


「ん?慣れているからな。それに結界を張っているからそれほど寒くないだろう?」



「結界張ってるの?ウィルだけ?」

「いや、ラオも含めて張っているよ。」


「そんなことできんの?

って結界張って寒さ凌げるの?どういうこと?」

「攻撃だけじゃなくて、呪いとか毒とかも防ぐし、寒さもある程度防いでいると思う。試しに結界解除してみるか?」


「ちょっとやってみて。」

「分かった。」



私は結界を解除した。




「・・・結界お願い。」

「あぁ。」


そしてすぐに結界を張り直した。


「ヤバかったな。結界凄いな。結界なかったら、凍死しそうだ。」

「思った以上に寒かったな。」



結界を張っても確かに吐く息は白いし、気温は低いだろう。

しかし、結界を解除した時の、息を吸っただけで肺の中まで凍りつくような寒さを思うと、結界はかなりいい仕事をしているように思えた。



「今年は雪も深いし、いつもより寒いのかもしれない。」

「そうなのか。それは辺境の地などは心配だな。こうも寒いと、隣の村などへ買い物へも行けないだろう。」


「確かに心配だな。早く行ってあげたい。」

「急ごう。」



私たちは辺境の小さな村をいくつも回った。どの村でも、やはり寒さで村から出て買い物に行くことができなかったようで、とても感謝された。



「本当に助かるわ。」

「いえいえ、皆さんのお役に立てて良かったです。」


「ラオは凄いな。行商とはただ儲けるだけでなく、誰かに感謝される仕事なんだな。」

「いや、ウィルが凄いんだよ。

この寒さで結界がなかったら、俺だけでこの村へは来られなかったと思う。」


「私も少しは役に立てたということか。」

「少しじゃない。これ以上ないほど役に立っている。」


「そうか。それならよかった。」




「お兄さん、これ、あげる。」


5歳くらいだろうか。小さな女の子が私に花びらが閉じ込められた氷を差し出してきた。

私は女の子の目線に合わせてしゃがんで、その氷を受け取った。



「ありがとう。」

「わぁ〜ママが言ってた通りだ。お兄さんが笑うとキラキラしてすごく格好いい。」


「あ、いや、ありがとう?」

「ふふふ、じゃあね。」


女の子はそう言うと踵を返して走って帰っていった。



「ウィルはモテモテだな。」

「そうだろうか?でも、何かをもらうというのは嬉しいものだな。」


氷が溶けてしまうのが勿体無くて、私はその氷に保護の魔術をかけて、箱に入れてカバンにしまった。



不思議だ。またあの3人で笑い合った時のように、心の奥底にあるドロドロとした呪いのようなものが、少し浄化された気がした。



行商か。歳をとって戦えなくなったら、騎士団を引退して行商というのもありかもしれないな。

いや、私には侯爵家と領地があるんだった。騎士団を引退しても行商は無理そうだな。


私も領地の皆に何かできるだろうか?

行商でなくても、誰かを助けることができたらいいな。


この旅は本当に勉強になる。ラオには感謝しかないな。出会った皆にも。



閲覧ありがとうございます。

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