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>>>久しぶりウィルを守る会with王子
「大変だ!」
「な、なんだ?ウィルは休暇中だから、本当に緊急事態か?」
「ウィルがいない時に限って・・・。」
「あ、いや、ウィルのことだ。
あ、王子様方もいらしたのですね、すみません。」
「はぁ?ウィルは休暇中だろう。もう王都から出ているはずだが。」
「ウィルさんがどうかしたのですか?」
「さっきウィルから伝令魔獣が届いた。」
「へぇー団長、まさかウィルから手紙が届いた自慢か?」
「ウィルさんから手紙が届いただけで自慢に来るのか。団長は変わってるな。」
「そうですね。変わってますね。」
「違う!これを見てくれ、この地図の印が付いている場所、ここにオークジェネラルが出たそうだ。」
「何!?騎士団ですぐに出れる者は何人集められる?」
「オ、オークジェネラル・・・。」
「あ、いや。心配ない。オークジェネラルはウィルが既に倒している。」
「そ、そうか。1人で?だよな?」
「凄い!さすがウィルさんだ!」
「ヘンドラーの息子と2人旅だから、1人で倒したんだろうな。」
「連絡を寄越すくらいだから大丈夫だとは思うが、ウィルに怪我などは無いのか?」
「分からん。オークジェネラルが出たこと、倒したこと、出た場所の地図しか無かった。」
「ウィルさんは結界を張りながら他の魔術も使えるから怪我なんかしないと思います!」
「そうです。ウィルさんは凄いのです!」
「そうか。前に王子たちはウィルにかなり強い結界を張ってもらっていたな。
で、団長の目から見て、ウィルの実力的に、1人で倒すことは可能なのか?」
「いやー俺もウィルの全力ってやつを知らんからな。
だが、魔術部隊の部隊長からもらったウィルに関する報告書を見る限りは、オークの群れが出たところで、軽く1人で対処できる程の実力はあるかと。」
「そ、そうか。オークの群れを1人で・・・。」
「凄い!さすがウィルさんだ!」
「団長はウィルさんの実力を把握してないの?」
「あぁ、ウィルは後進?部下を育てることにも熱心なんだ。だからいくら自分が瞬殺できる相手であっても、手出しはせず育成に使う。
厳しそうな場合のみ補助する。
そのせいでウィルが攻撃の魔術を使うことはほとんど無いんだ。
まぁ、そのおかげかウィルの部下達は成長が早い。
それに、コーエンも行ったんだろ?部隊の飲み会に。」
「あぁ、一度参加させてもらった。
隊員達が萎縮してしまって、あまり話せなかったが、席を離れて戻る時にこっそり陰から見ていたんだ。
1番年下なのに、皆ウィルを慕っていて、話の中心にはいつもウィルがいるように見えた。
気安い感じもあったが、飲み会の席だからだろう。それが隊員たちの心を開いているのかもしれない。」
「コーエンさんずるい!その飲み会、私たちは参加できないと言われたのに!」
「あ、いや私は元々ウィルと飲み友達だからな。ウィルの祖父ともそうだし。」
「いいな〜」
「これこれ王子たち、コーエンは宰相だぞ?ウィルと仲が良くてもおかしくないだろ?」
「すみません、コーエンさん。」
「いや、いいんだ。お二人ともウィルを慕ってくれてありがとうね。」
「ウィルの中隊では隊員達の仲がいいんだよな〜。他の隊の奴らは、足を引っ張りあったり、蹴落としたり、血の気の多い奴らだからな、喧嘩なんかしょっちゅうだ。
昔はウィルの隊も似たようなものだったが、ウィルが正式に中隊長になってから変わっていった。
色々独自のやり方も取り入れているようだ。」
「ウィルは人を惹きつける。
令嬢なんかはあの容姿と肩書きに群がるんだろうけど、男はウィルの本質を知ると離れられなくなる。部下たちもそうなんだろうね。
一見、氷のように冷たいし、言葉数も少ない。表情も乏しいから近づき難い。
それなのに何だろうね?
庇護欲をそそることもそうだ。皆がウィルを守ろうとする。
羨ましいよね。上に立つ者として。」
「確かに。ウィルさんは最初は冷たい感じがしましたが、強いのに傲らず真面目で、私たちもウィルさんのようになりたいと思いました。」
「うむうむ、そうだろう、そうだろう。王子たちをウィルに会わせたのは正解だったな。」
「そのようですね。ウィルを目指すことはきっと、お二人の未来にプラスに働くでしょう。」
「アイデアもだな。ウィルは色々なアイデアを形にしている。中隊の中でも隊員の色んな意見を取り入れて改革しているし。」
「そういえば、面白いハンカチをウィルの発案で騎士団に取り入れたんだって?」
「あぁ。まだ本採用ではなく試験的に使っているが、隊員たちの反応もかなりいい。」
「どのようなハンカチなんですか?」
「色は黒で、普通のハンカチより厚みがある。水分の吸収率がいいようで、訓練中に汗を拭くのにも使えるし、剣や防具などを拭くのにも使える。
色が黒だから、泥や血なども目立たないしな。」
「見てみたい。」
「そうだな。私たちの分は無いのか?」
「最初は行商をしているヘンドラーの息子が扱っていたが、大量発注になりそうだから、今はヘンドラー商会で扱うことになっている。たぶん店にはあるんじゃないか?」
「ヘンドラー商会に問い合わせを。」
「かしこまりました。」
「先日ウィルさんとお話しさせていただいた時に、隊員に話を聞きたいなら父上の視察について行って、隊員に直接話を聞いてもいいと言われました。
私たちも騎士団の視察に連れて行って下さい。」
「それくらいなら構わないぞ。」
「ウィルがいなくてもいいなら今から行くか?」
「いいんですか?」
「色々経験して、色んな人の話を聞くのはお前たちの勉強になるからな。」
「父上、ありがとう。」
「じゃあ準備をしておいで。」
「「はい。」」
王子たちは楽しそうに部屋を出て行った。
「しかし、王子様方は随分とウィルに懐いたものだな。」
「歳も近いし兄みたいな感じなのかもしれませんね。」
「次代を担う同世代として仲良くしてくれると嬉しいな。」
「そうですね。ウィルも大人びているとはいえ、まだ16ですしね。」
「ウィルのこの10年は過酷過ぎる。もっとのびのび過ごせる環境に置いてやりたいな。」
「そんなことを言いながら、ダイターはウィルを手放せないだろう?」
「まぁ、そうだな。それなら守ってやらなければな。」
「そうですね。」
>>>仲良し王子
「ウィルさんはやっぱり凄いな。」
「国王である父上も感心していたな。」
騎士団への視察を終えて城へ帰ると、王子たちはサロンで興奮気味に話をしていた。
「大型魔術で戦況が変わるのは分かるが、地形も変わるってどんな威力なのか想像もつかないな。」
「そんな大型の魔術を使えるのに、水と火を掛け合わせてお湯を出すなんて繊細なこともできるし、魔力操作がかなりの腕なんだろうな。」
「ウィルさんに魔術を教えてもらいたいな。」
「いや、ダメだろ。高レベルすぎてついていけないと思う。」
「確かに。この前も、結界を使いながら索敵なんか護衛なら普通みたいに言ってたけど、近衛の反応が一般的なんだろうな。」
「簡単にサラッと高度なことをやって退けるのがウィルさんだもんなー」
「たまにちょっと一般とはズレてるけど、全てにおいてレベルが高い。」
「確かに。魔術だけレベルが高いってわけでもないのが凄い。」
「うんうん。皆の信頼が厚いのも凄いな。」
「あの話、感動した。戦場の夜の話。」
「あー確かに。怪我を負った者を気遣うことはできるけど、心のケアまでするのはなかなかできないよな。」
「実際にウィルさんの元には何人も相談に行ったみたいだし。
精神的に辛いなんて、普通は上司に言えるか?」
「言えないな。恥ずかしいし、余程信頼している相手でないと、弱みを見せることに抵抗がある。」
「それだけ部下に信頼されて、皆が心を開いているってことだな。」
「そんなこと、どうやってするんだ?」
「分からん。そこはウィルさんに聞いてみないとな。」
「でも・・・そんなウィルさん自身は色々辛い事情を抱えているんだな。」
「肉が食べられないなんて・・・。」
「自分が辛い経験をしたからこそ、部下を気遣えるのかもしれない。」
「それだと、苦労をしていない私たちでは難しいのではないか?」
「うーん、辛い経験はしようと思ってできることじゃないよね。」
「さすがに戦地に放り込まれるのは嫌だ。私はウィルさんほど魔術を使えないから、辛い経験どころかすぐに死んでしまいそうだ。」
「騎士団の訓練に参加してみるとか?」
「うわーそれは辛そうだ。
でもウィルさんの隊なら、まだ耐えられるかも。戦士部隊は私には無理そうだ。」
「それいいかもね。ウィルさんが帰ってくるまで耐えたら、少しはウィルさんに近づけるかも。」
「確かに。父上に相談してみよう。」
「話は全然変わるんだけどさ、ウィルさんの中隊長室・・・。」
「お前も思ってたか!私も気になっていた。」
「「あの絵。」」
「ちょっと怖いよな・・・。ゴーストに絡みついた木の魔獣。」
「ウィルさんは戦地から戻ってから、あの絵をよく見ていたと言っていたな。
ウィルさんの中では何か違う意味があるんだろうか?」
「そこ、聞いてみたいけど・・・。聞いていいものか悩むな。」
「確かに。」
「あれは?あれなら聞けるんじゃない?マッチョな動物たち。」
「あれ、きっとウィルさんの趣味だよな?」
「たぶん・・・。」
「ペーパーウエイトとブックエンドがあったよな?」
「あったね。」
「・・・斬新なデザインだよね。」
「そうだね。」
「ウィルさんも脱いだらあんな身体なのかな?それで理想の身体を飾っているとか?」
「ウィルさんは戦士じゃないから、あんなにマッチョじゃないと思う。」
「確かに。じゃあマッチョを眺めるのが好きとか?」
「いや・・・分からん。」
「・・・もしかしてウィルさん、そっちなの?侯爵家当主なのに婚約者も浮いた話もないよね。」
「・・・マジか。」
「意外だな。でもまぁ、それは人それぞれだからな。」
王子たちに誤解が生まれた瞬間だった。
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