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それは新年、成人の義と新成人お披露目のための夜会が行われた翌日のことだった。


団長からの呼び出しなど久しぶりだな。

辺境の戦争への援軍の時以来か。


冬は休戦期、戦争への援軍ではないと思うが、何だろうな。




「ウィル、ヘンドラー商会の息子と仲が良かったな。」

「えぇ。それが何か?」


「行商の護衛をやってほしいそうだ。

ちょうどウィルの休みも何年分か残っていることだし、行ってみてはどうだ?」



「しかし、私は中隊長という立場がありますので、それほど長く席を空けることは難しいです。」

「冬の間は戦争も止まるし、魔獣の動きも抑えられる。毎年冬は暇だったろ?」



「そうですね。特に何も起こらず春が来るのを待つことが多かったですね。」

「まぁ、何かあっても冬だから規模は小さい。俺が何とでもするから気にせず行ってこい。」



「それでは、お言葉に甘えて、休みを取らせていただきます。」

「あぁ。色んな国を見て勉強して来い。」

「はい。」


何の話かと思ったら、ラオの護衛と休暇の話だった。

最近はちょっと疲れていたから丁度良かったのかもしれない。


戦争で心にダメージを負った隊員たちも、この1ヶ月ほどでだいぶ落ち着いてきた。

怪我をした者も、ほとんどが復帰している。

私がしばらく離れても大丈夫だろう。





「ウィル~久しぶりだねー」

「ラオ、今回は世話になる。」


「ウィルがいてくれたら心強いよ。魔術も得意だし、安全な旅ができそうだ。」

「そうか。」



「いつ出発できる?」

「私はすぐにでも出られるぞ。」


「じゃあ早速、明日旅立つか。

まず最初に黒いハンカチのトルーキエを目指そうと思うがいいか?」

「あぁ。」


「今夜はヴィントでも呼んで飲みに行くか~」

「そうだな。」


「じゃあまた後でね〜」



私は一旦、騎士団本部に戻り、隊員達に休暇を取ることを告げた。

隊員達の反応はなんだか温かかった。


隊員達にも、休暇を取りたい者は取ってもいいと告げると、何人かが手を挙げた。

私がいないと、小隊単位での活動になるだろうが、私の中隊の小隊長たちは優秀なので大丈夫だろう。

何かあれば団長に相談するよう告げ、私は中隊長室まで戻り、未処理の書類を片付けると、本部を後にした。





「ウィル久しぶりだな。」

「あぁ、ヴィント元気そうだな。」

「まぁな。」



ヴィントとラオが顔を見合わせて頷き合っている。

何だろうか?


「で、ウィル、何があった?」

「え?」

「誰が見ても気付くぞ?目が死んでる。」



「そ、そうかな?」

「あの初めて会ったパーティーの、凍てつくような目で令嬢を見ていた去り際より酷い。」



「凍てつくような・・・」



「へぇーウィルはモテそうだもんねー」

「ラオ、ウィルはモテるどころではない。あの時は令嬢がウィルをめぐって喧嘩が始まって、止めようとしたウィルが怪我を負った。」



「うへぇーそこまでか。」

「これが1番マシな例だ。もっと酷いのは、薬を盛られたり、集団で囲まれて痴漢されたりしている。」



「・・・ヴィント、何で知ってる?」


「父が陛下に呼び出されて、パーティーなどでウィルと一緒になることがあれば、守るよう言われたらしい。息子の私にも話を通すようにとな。」


あんな醜態を晒したことが広まっているなんて、しかも陛下がゼルトザーム伯爵を呼び出していたとは、全然知らなかった・・・。



「ウィルが陛下のお気に入りなのは知ってるー」

「ラオのところにも?」


「うん。今回の話も、最初は父のところに来たんだ。」

「今回の話?」



「仕入れなどで遠方に出掛けるなら、ウィルを護衛として連れて行かないか?ってね。

親父は冬の前に仕入れは済ませてたけど、行商の俺は冬も稼ぎ時だし、ちょうどそろそろ出ようと思っていたから俺がウィルを連れて行くことになった。」


「そうだったのか・・・全然知らなかった。

なんか迷惑かけてすまん。」



「いやーでも、今日ウィルに会ったら、陛下が心配するのが分かったよ。

それに迷惑なんか掛かってない。どうせ冬は護衛がなかなか見つからないしウィルが受けてくれてありがたい。」

「そうか。」



「ウィルは確か、この前まで辺境の戦争に援軍として行っていたんだよな?」

「あぁ。私の中隊を連れて援軍に、2ヶ月ほど行っていた。」



「そこで何かあったってことか。すっかり表情も抜け落ちて・・・。」

「この前は声を出して笑っていたのにな。」

「私の顔はそんなに酷いか?」



「自覚無しか。かなり酷いぞ。」

「戦争に参加するのは、久しぶりだったんだ。6年ぶりくらいか。」


「ちょ、ちょっと待て。ウィルお前、何歳だ?6年前って・・・。」


「今は16だな。あぁ、私は貴族だった両親が駆け落ちして辺境にある村で育ったんだ。

それで6歳の時に戦争で敵に攻め込まれて村が壊滅して、1人生き残った私は前の中隊長に拾われた。

それから10歳まで戦争に参加していた。」




「マジかー」

「そんな子供の頃から戦争に・・・。」



「まぁ、そうだな。だから私はこの手で、人を何人も・・・」



「ウィル、言わなくていい。・・・辛かったんだな。」

ジッと自分の両手を見ていたら、ヴィントが私の肩に手を置いた。



「・・・辛い?」

「どう考えても、子供が背負うには大きすぎる。辛くないわけがない。」

ラオもヴィントとは反対側の私の肩に手を置いた。




「私は、辛かった、のか・・・?」

「それで感情が抜け落ちたんだろう。」

「幼いウィルに防衛本能みたいなものが働いたんだな。」


「そうか。そうかもしれない・・・。

感情を持ってはいけないと幼い頃は思っていた気がする。」

「それだな。」



「それで今回の戦争でも人を手にかけたから、そうなったと。」

「このような食事の席で言う話ではないのだが、大型の攻撃魔術を撃った日は、人が肉を食べる姿を見るだけで嘔吐してしまった。

それに、部下を2人、失った・・・。」



「そうか・・・成人したとは言え、いくら優秀なウィルでも、それは16で背負う重さじゃないな。」



「・・・すまない。2人にこんな話をして。それに私は、人を手にかけている。軽蔑するか?」


いつか聞きたいと思っていたことだが、2人の反応が少し怖くて、手をギュッと握り込んだ。





「何でだよ、そんなわけないだろ?

戦争とはそういうものだし、ウィルが戦ってくれたから私たちはこうして平和に生きていられるんだ。」

「そうだよ。感謝はしても軽蔑なんかする理由がないよね。」



「お前ら、いい奴だな。私は2人と友達になれて良かった。」


2人は優しい顔で微笑んで頷いてくれた。

分かってくれるんだ。私の置かれた立場を。



「少し目の色がマシになったな。」

「目の色?」



「せっかく美男子が綺麗なアメジスト色の透き通った目をしていたのに、曇ってたからな。」


「って、エェェェ!!」



「あ、魔力操作が乱れてた。」

色々思うところがあって、魔力操作が久々に乱れて赤目に戻っていた。

私は慌てて目の色を変える魔術をかけ直した。


「ウィル、目の色が・・・赤に見えたんだが、俺の錯覚か?」

「私も赤に見えた。気がした。」



「あぁ、私の本当の目の色は赤だ。」

私は2人になら明かしてもいいと思い、目の色を変える魔術を解いた。



「目の色を変える魔術なんてあるんだな?」

「これは私が作り出した魔術で、他に使える人は魔術部隊の部隊長しかいないんだ。

ちなみにその人も目が赤い。」



「作り出した?魔術を?ウィルはとんでもないな。優秀なことは知っていたが、想像を遥かに超えてくるな。」

「そんなことはない。私などまだまだだ。」



「そういうところがウィルだな。」

「安定のウィルが出てきたな。」


何だかむず痒くて、残ったエールを飲み干して、エールを追加注文した。


喉が発泡によってヒリヒリする感覚が好きで、酒場ではよくエールを頼む。

コーエン卿と飲む時はウイスキーやウォッカも飲むが、酔いたい日でない限りはだいたいエールを頼む。




「何で目の色を変えてたんだ?」

「赤い目は魔力量が多いらしい。だから見つかると騒ぎになると言われてな。

目の色を変える魔術を生み出すまでは、あまり外に出られなかったんだ・・・。」



「そんな事情があったのか・・・。」

「あぁ。だから前の中隊長に拾われたんだ。」


「なるほどな。幼い時から戦場に連れて行かれたのは、その魔力量のためか。」

「なんとも・・・。」



「いや、でも使い潰されたわけじゃない。色々なことを教えてもらったし、隊員には仲良くしてもらったから、拾われて良かったと思っている。」

「そうか。ウィルがそう思うなら、良かったんだな。」


「赤い目のこと、俺たちに知られて良かったのか?」

「あぁ2人になら話してもいいと思ったんだ。」



「ウィル・・・。

お前は可愛いやつだな。

安心しろ。俺もヴィントも誰にも言わないから。」

「うん。そうだね。」



「ありがとう。2人と友人になれて良かった。」



2人は両方から私の肩を組むと、声を出して笑っていた。

本当に良い友人を得たものだ。これが人生の宝物ってやつなんだろうな。



その後は、豆のピクルスを摘みながら、旅の話をした。

基本的には街や村の宿に泊まるが、街に辿り着けない日は街道の脇にテントを張って野営することもあるのだとか。


山の中に行くわけじゃないから、食べ物や生活用品などは村や街で買えるので、それほど荷物は要らないということだった。

村や街で店に立ち寄るのも、取引先を開拓するのに役立つそうだ。



「お土産待ってるね。」

ヴィントが最後にそう言うと、俺たちは帰路についた。





旅か。祖父母と両親の墓参りに行った時のあれも旅ならば、2度目か。

国外に出るのは初めてだな。

そう言えば、護衛というのも初めてだ。


索敵を少し復習しておくか。

害意のあるものを早めに見つけなければ、護衛専門でない私には咄嗟の対処が難しい。

常に索敵を発動させておくとどれくらいの魔力が必要になるんだろう?


そうか。そのような練習もしておくといいな。


よし、この旅が終わったら私の中隊の訓練として、索敵と護衛の練習を取り入れよう。

そうすれば奇襲などが起きた時に咄嗟の対処もできるようになるだろう。

それに、遠征の時などは、索敵専門の者を役割として作ってもいいかもしれないな。


その晩、私は明日からの旅が楽しみで、ワクワクしてなかなか眠れなかった。

そして、戦場で荒んだ心が、少し解れていることに気付いた。



仕方ないな。スリープを自分にかけて眠りについた。


翌朝、晴れ渡り、遠くまで雲一つない青い空が広がっていた。

吐く息は白いが、空気が澄んで気持ちがいい。


さあ、旅の始まりだ。



閲覧ありがとうございます。


魔術部隊の内訳

分隊:5-7名

小隊:25-30名(分隊×5)

中隊:130名前後(小隊×5)

ちなみに大隊は戦士部隊のみで、魔術部隊は中隊長の上は部隊長の設定です。

騎士団の部隊は魔術、戦士、近衛の3つの設定。

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