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拾われた戦争孤児が魔術師として幸せになるまで  作者: 武天 しあん
苦悩と克服

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>>>ウィルと王子たち



「ウィルさん、もう少し話を聞いてもいいですか?」


報告を終えて陛下の部屋を退室し、少し歩くと、王子たちが追いかけてきた。



「戦争の話を聞きたいのですか?」


「戦争の話でも良いのですが、父上からウィルさんは凄い人だと聞いたので、ウィルさんの話を聞きたいです。」



王子というと、もっと我儘で上から物を言ってくるのかと思っていたが、随分と礼儀正しい子達だと思った。



「私は凄い人ではありませんが、構いませんよ。私の中隊長室でいいですか?」

「「はい。」」


「護衛はついていないのですか?」

「私たちは基本的に外出する時にしか護衛は付きません。」



「そうですか。では私が側にいる時は、私がお二人をお守りします。」

「ありがとう。」

「格好いい。」


「ウィルさんは最年少で中隊長になったと聞いています。今お幾つですか?」


「私はまたまた運が良かったのですよ。歳は今年16になりました。」



「16・・・。

私たちは12と13です。あと2-3年で中隊長の役目など、とてもできる気がしない。

やはりウィルさんは凄い人なんですね。」


「いえ、私は周りに恵まれていたのです。戦争孤児となった私を拾ってくれた前の中隊長や、団長、隊員たち、両親、祖父母、友人、皆のおかげで今の私があるのです。」


そんな話をしながら歩いていると中隊長室に到着した。

ドアを開けて誰も居ないのを確認すると、王子たちを中に入れてソファへと促した。



「お二人とも紅茶でよろしいですか?」

「はい。ありがとう。」



ポットに茶葉を入れて、水と火の魔術を掛け合わせてお湯を作り出す。


「え?魔術でお湯を出せるのですか?」

「えぇ。水の魔術と火の魔術を掛け合わせて、水をお湯にしているんです。」



「魔術を掛け合わせる・・・。」

「水と火?・・・そんなことできんの?」

「おい、言葉が乱れているぞ。」



「構いませんよ。他に人はいませんし、砕けた話し方をしても誰も咎める者はいません。」


「そうか。じゃあ、そうさせてもらうよ。敬語は疲れるんだ・・・。」


「えぇ、分かります。慣れないと疲れますよね。さて、何の話をしましょうか?」



「生い立ちなどを聞いてもいい?フェルゼン侯爵家の当主であるウィルさんが学園を出ていないと聞いたんだ。それに、先ほど戦争孤児だと・・・。」



「構いませんよ。確かに私は学園に通ったことがありません。」



私は王子たちに、両親が駆け落ちをして小さな村で育ったこと、戦争で両親や村を失って中隊長に拾われてから戦争に参加したこと、戦争が終わって騎士団に入り前中隊長の後を継いで、更に祖父母が見つかり侯爵家を継ぐことになったと話した。



「ウィルさんはそのような人生を・・・

私たちは城で皆に囲まれて、恵まれて育ったんだな。」

「うん。両親もいるし、外に出る時には護衛もいる。温かい食事もあるし。」



「気にすることはありませんよ。私も恵まれている方ですから。

ほら、今は綺麗な服を着て、温かい紅茶を王子様方と優雅に飲んでいるでしょう?」



「私もウィルさんのように強く落ち着いた人間になれるだろうか?」

「私もなれるならなりたい。」


「なれますよ。お二人は私など軽く超えていかれるでしょう。もっと高みを目指したらいいと思います。」



「あまり長居しても戦争から帰ったばかりのウィルさんに迷惑をかけるから、今日はこの辺でお暇しよう。」

「そうだね。」


「ではお送りします。」



「いいんですか?」

「えぇ。城内と言えど、騎士団には粗暴な者もいますからね。お二人に何かをするような者はいないと思いますが、念のため。」



「ありがとう。あの、また話を聞きにきてもいい?」

「えぇ、構いませんよ。」



「今度は騎士団の話や、趣味の話も聞いてみたい。」

「私は魔術の話も聞いてみたい。」

「いいですよ。」



「良かったね。」

「うん。」





ドゴーン


部屋を出て歩いていると、騎士団の演習場から爆発音が聞こえた。


「お二人とも結界を張りますから、私から離れないで下さいね。」

「は、はい。」

「怖い・・・。」


軽く索敵で様子を探ってみるが、敵襲などではないようだ。

誰かが魔力暴走でも起こしたかな?



「大丈夫ですよ。魔力暴走か誤射か喧嘩でしょう。結界もありますし、城への襲撃などではないのでご安心ください。」


「そうか。」

「そんなこと分かるの?」



「えぇ、索敵で敵意を探ってみましたが、特にそのような気配はありませんでしたし、騎士団ではたまにあるんですよ。

魔力暴走もありますし、身内同士の喧嘩がエスカレートしてしまうことも。」


「そんなことが・・・。」

「3人分の結界を張りながら索敵。凄い。」



「護衛の皆さんはされていると思いますよ。」

「そうだったのか。結界は見えないから張られていることに気づかなかっただけかもしれないな。」

「結界はどの程度の攻撃に耐えられるの?」



「今かけているのは中型の魔術くらいなら弾きます。物理攻撃なら、騎士団長の剣ぐらいは簡単に弾けるかと。

襲撃を想定して厚めに掛けましたので。」


「「・・・。」」



「あ、もっとしっかり掛けておくべきでしたか?」


「いえいえ、違います。そんな中型魔術を弾く結界なんて聞いたことないです。そんな結界があったら無敵じゃないか。」

「そうだ。ウィルさんは凄いのは分かっていたけど、少し変だ。」



「変・・・。すみません。」


「あ、いや、違う。ウィルさんが悪いとかじゃなくて・・・何というか、世間一般の常識とは少しズレているというか・・・。とにかく凄過ぎるんです!」



「はぁ、そうですか。」


「父上が気にかけているのはこのせいか・・・。」



「え?」

「何でもないです。」



よく分からないが王子2人は何か納得した顔をして歩みを進めた。

騎士団の建物を出ると、近衛が3人ほど走ってくるのが見えた。



「お二人ともお怪我は?」

「ウィルさんが結界を張ってくれているから問題ない。」



「結界・・・。そうですか。」

「なぁ、結界って自分以外にも張れるのか?」


不思議そうな顔をして近衛の1人が呟いた。



「え?張れますよね?自分を中心に範囲を拡大すれば。

遠くにいる人に結界を張るのはかなり魔力を使いますが、側にいれば・・・。」



ん?なんだその困った顔は・・・。

魔術が得意ではない者たちなのか?この3人は戦士かもしれないな。



「ウィルさんはやっぱり凄いってことですよね?」

「あ、あぁ。そうだな。」

「あぁ。まぁ。」

「そう、だな・・・。」



王子がなんかまとめてくれた。

まぁいいか。


他の魔術師は魔術をあまり重ねないようだし、結界に使ってしまったら他のことができないから、あまり使われないのかもしれないな。




コンコン


「本当だ。確かにお二人にも結界が張られているようだ。」

「おぉー」


近衛は王子の肩の近くを軽く叩いて結界の確認をしていた。



「近衛のみんな、通常の結界ってどれくらいの強度なの?」


「んー殴りかかられても怪我しない程度かな。ウォーターボールくらいなら弾くと思う。

私たちは結界を張るなら、身体強化や回復に魔力を使ってしまうからあまり詳しくないんだ。」

「そうですか。では結界を張りながら索敵とかは?」



「そんなことができたら良いんですけどね・・・。」

「そんなことができるのは魔術部隊の部隊長くらいじゃないか?」

「あぁーあの人なら魔術を掛け合わせて使ってたからできるかもしれないな。」



「・・・。」



私は王子たちに変なことを吹き込んだかもしれない・・・。


「すみません。間違ったことを言っていたようです。」

「そんな気がしていたから大丈夫。」

「でも、念のため父上にはウィルさんの魔術が凄いってことは伝えておくね。」



「・・・はい。」



世間一般の常識とは何だろうか?

私ももっと勉強しないといけないな。



「フェルゼン中隊長はどちらまで行かれるのですか?」

「あぁそうか。近衛騎士が2人を迎えにきたのだから私はもう要らないな。では私は戻るとするよ。」



「ウィルさん、ありがとう。またお話を聞かせて下さい。」

「分かりました。」



「俺も聞いてみたいな。フェルゼン中隊長の話。」

「え?」


近衛の1人がポツリと呟いた。



「あ、いや、フェルゼン中隊長の隊は居心地がいいとか、上達が早いとか聞くから・・・。」


「それではうちの隊の飲み会に参加して隊員たちと話をしてみるのも良いかもしれませんね。」



「フェルゼン中隊長の直属でなくても参加できるんですか?」


「えぇ、たまに別の隊の人や、戦士部隊の人も参加してますよ。

私の部屋に直接来るか、私の隊の誰かを捕まえれば日程など教えてもらえると思います。時間が合えばどうぞ。」



「いいこと聞いたな。」

「そうだな。」



「私たちは参加できないのか?」

「お二人は難しいでしょうね。陛下が許可を出さないでしょう。まだ未成年ですし、王子が市井の酒場に行くなど危険もありますから・・・。」



「そうか。それは残念だ。」

「だねー」



「隊員に話を聞きたいのであれば、陛下が演習場に視察に来る際に一緒に来て話を聞いてみるといいと思います。」



「そうするか。」

「しばらくはそれで我慢だね。」





「では私はこれで失礼します。」


私はそう告げると、踵を返して騎士団へ戻った。



閲覧ありがとうございます。

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