22
ウィルがまた心を閉ざしている頃、ラオからハンカチが用意できたと連絡が入った。
ラオには本部の中隊長室に持ってきてもらうようお願いした。
「よお!ウィル、久しぶり。」
「ラオ、よく来てくれた。待ってたよ。ハンカチ調達してきてくれたんだって?
で、今回はどこまで行ってたんだ?」
私は聞きながら、いつものように水と炎の魔術を混ぜ合わせて湯を作り紅茶を入れて、ラオと自分の前に置いた。
「ありがとう。
今回はハンカチの取引がメインだったから、隣のトルーキエ王国に行ってた。
他にも道中で色々寄ったけど。
ハンカチの他に大きさも色々サンプルを作ってもらったよ。見るかい?」
布袋に入れた依頼のハンカチ150枚と、その他のバリエーションも広げてくれた。
「これ、しばらく使ってみたんだが、かなり気に入っている。
ペラペラで真っ白なハンカチは、すぐ汚れるだろ?水分もあまり吸収してくれないし。
私たちは戦いが仕事だから、泥や血の汚れを拭いたら目立つから黒というのが良い。」
「あーなるほどね。確かに白いハンカチに泥や血がついたら目立つな。」
「訓練中に汗を拭くのにも丁度いい。」
「それは良かった。」
「で、団長にも話を持って行った。
今回の150枚は隊の備品としての購入になる。
私の中隊と、戦士部隊の一部で試験的に取り入れて、良ければ追加でかなりの数が出ることになるがいけるか?」
「それは大きな商談になるな。ここからはヘンドラー商会に引き継ぐか。
数は、トルーキエ王国でも人気が出始めて、ハンカチを作っている街は、工場を増やしているところだから、問題ないと思う。」
「それは良かった。
私は導入確実だと思っているが、決定したらヘンドラー商会の会頭に話を持って行けばいいか?
そのサイズ違いのサンプルもほしい。」
「あぁ、いいよ。追加発注の件は俺が親父に話を通しておく。」
「助かるよ。ラオ。」
私とラオは握手を交わした。
「なぁ、ウィル、ずっと気になってたんだが・・・」
「なんだ?」
「そこの絵、何の絵なんだ?」
「これか?これは森の中に佇む妖精だと私は思っている。神聖な感じだろう?」
「・・・いや、木の魔獣か何かが絡みついたゴーストに見えるぞ。
正直言うと、部屋に入った瞬間から怖かった。」
「そうか・・・。」
ラオのまさかの発言に、私は額に手を当てて上を向いた。
「なんか、すまん。」
「いやいい。隊員の反応の意味が分かった気がする。隊員にはなぜか ≪戒めの絵≫ と呼ばれているんだ。」
「それはまたなんとも言えない名前を付けられたな。くくくく。」
笑いを堪えられなくなってラオが笑い出す。
その後、旅の道中での話や、新たに入手した商品の話をした。
新たに入手した商品は、今度ヴィントの所に持って行くからと、一緒に行くことになった。
>>>仲良し3人組
ウィル、ヴィント、ラオ
「おー、ウィルにラオ、久しぶりだな。」
「あぁ、そうだな。」
「だねー3人で飲んだ日以来だな。」
「ウィルが使い心地がいいって言ってたから、私も黒いハンカチを使ってみたいな。」
「そういうと思って、ウィルに頼まれた分とは別に少し仕入れてきた。」
「さすがラオだな。じゃあ私はそれを1枚もらおう。」
「毎度ありー」
「今回は面白い食材を入手してきたんだ。食材というか、調味料かな。」
「調味料?」
「これだ。」
「「・・・?」」
「なんだよ。反応薄いなー2人とも。」
「いや、これは何だ?」
「見ただけじゃ味が分からないし、何とも言えない。」
「うーん。だよなー
食べてみないと買おうと思えないよな。これはサルチャって名前で、トマトを使った調味料だ。」
「だから赤いのか。」
「スープに入れたりパンに塗ったりするんだ。」
「肉が入ってないならウィルも食べられるね。」
「あぁ、まぁ・・・。」
「ん?どうした?なんか違ったか?」
「いや、間違いはない。私でも食べられる。」
「じゃあ何だ?
あーウィルは料理なんかしないってことか。」
「いや、料理は味付け以外ならできないことはない。」
「味付け以外?」
「私は味が分からないんだ。だから味付けはできない。」
「味が分からない?甘いとか辛いとかも?」
「あぁ。温かいとか冷たいとか、食感は分かるが、甘いとか辛いとか苦いとかは分からない。
だから、その調味料が美味しいか判断ができない。」
「・・・なんかすまん。」
「いや、私が言っていなかったからな。仕方ない。それに、私が肉を食べないことを知っていて野菜の調味料を見付けてきてくれたんだろ?」
「そうだったのか・・・。一度も味を感じたことがないのか?」
「いや、幼い頃は母親の料理が美味しかった記憶がある。両親が亡くなってからかもしれないな。」
「そっか。」
「すまん。暗い話をするつもりは無かったんだ。」
「気にするな。話してくれて嬉しい。」
「そうだよー、俺の方こそ、知らなかったとはいえすまん。
他の商品見せるよ。
ウィルが好きそうなもの仕入れてきたからさ。」
「あぁ、気を使わせて悪いな。」
「これー!!」
ドーンと置かれたのは、水色と黄色のボーダー柄のマッチョなウサギが、立てられた板を押している置物だった。
「これは何だ?」
「これ、ブックエンド。いいでしょ?」
新作だ。
「ははっ、ウィルの目が輝いた。」
「あ、いや・・・。」
「で、買う?」
「・・・買う。」
あはははは
「好きだねーマッチョな動物。」
「まぁ、そうかな。」
「これだけじゃない。ほら、これも。」
緑の豚や、黄色と黒の縞模様の馬、ピンクの水玉模様の豹もいた。
「これは・・・。
えっと、全部欲しい。」
「毎度ありー」
「いつかこの作品を作っている人に会ってみたいな。」
「ウィルと話が合うかもねー」
いつの間にか、重い空気は霧散して、楽しそうなラオと、ニコニコとそれを見守るヴィントがいた。
2人ともありがとう。私は2人と友達になれたことに感謝した。
私には同年代と知り合う機会が無かった。
いつも大人に囲まれて、村を出て以降は子供と遊んだことなどない。
夜会では知り合えるかと思ったが、ギラギラした香水臭い令嬢に囲まれるだけで、知り合えたのはヴィントだけだ。
部下とは違う。上司とも違う。
友達とはいいものだな。
「ウィルどうした?今までで1番柔らかい表情に見える。」
「そんなにマッチョシリーズが気に入ったかー」
「あ、いや、私の周りにいるのはいつも歳の離れた大人で、上司か部下で、同年代の友人は2人が初めてだから、友人というのはいいものだなと。」
「なにそれー可愛いこと言うじゃん。」
ラオがガシガシと私の頭を撫でた。
これを成人してから友人にされるのは恥ずかしい・・・。
「ウィルが照れてる。これは令嬢たちには見せられないな。襲われそうだ。」
「ラオ、怖いことを言うな。ほら、ウィルの顔が引きつったじゃないか。」
「あ、いや・・・。」
「すまんな。でも俺が女ならウィルに惚れるねー」
「それは、褒められてるのか貶されているのかよく分からんな。」
「女版のラオとかヤバそうだしな。」
「そんなことないわよ〜ウフ」
悪ノリしてラオがくねくねしながらウインクを飛ばしてきた。
ブハッ
クスクスクス
堪えきれずに吹き出して笑いが漏れてしまった。
しばらく笑ってから、心を落ち着けてふと気づくと、2人が目を丸くして私を見ていた。
「え?」
「ウィル、今、笑ってた?」
「あぁ、笑ってすまん。」
「いや、ふざけてたんだから笑ってくれていいんだが。
それよりウィルが笑ったの初めて見た!」
「そ、そうか?」
「ウィルはいつも表情が硬いからなー」
「そんなに目尻を下げて笑っている姿は初めて見たよ。」
「なんかそんな風に言われると恥ずかしいな・・・。」
「それくらい恥ずかしくないだろー
俺なんかさっきクネクネしながら色気たっぷりのお姉様のようにウインクしたんだぞ?」
「そうだぞ。だがラオの真似はするなよ?」
ふはははは
「確かにな。さっきのラオの真似は恥ずかしくてできないな。」
「そうだろう?私もそう思う。」
「何だよ2人してー」
あはははははは
何だろう。楽しい。
声を出して笑ったのなんて、確かに久しぶりかもしれない。
しかも皆んなで笑うなんて。
燻っていた、心の奥底に閉じ込めたドロドロした呪いのようなものが、少しだけ浄化された気がした。
楽しいな。友人と一緒にいることはこんなに楽しいこともあるんだな。
「よし、このまま飲みに行くぞー」
「そうだな。行こう。」
「あぁ。行こう。」
そのまま飲みに行った私たちは、酒場でも笑いながら色々な話をした。
こういうのを幸せって言うのかもしれないな。
閲覧ありがとうございます。
ウィルが笑顔を取り戻したところで第二章完結です。明日から次章に入ります。




