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>>>陛下、宰相、団長、祖父
第四回ウィルを守る会会議
ここはウィルの自室の応接セット。
さっき隊員が来て、ウィルに異物除去と状態異常回復の魔術をかけて帰っていったところだ。
「何でこんなことに・・・。私たちが付いていながら。」
項垂れる祖父。
「あのメイドはいつからいるんです?」
「2ヶ月ほど前ですね。紹介所からの書類では特に怪しい点も無く、優秀でメイド長にも気に入られていました。
特にウィルの身の回りの世話は積極的にやっていたような・・・。」
「それは恐らく、ウィルを調べるためだろうね。それに、経歴も詐称している可能性が高い。」
「そんな・・・。」
「ウィルが可哀想だ・・・。」
「だな。」
「せっかく令嬢抜きの夜会で楽しそうにしていたのにな。」
「あれは楽しそうだったのか?いつもと同じ表情に見えたが。」
「あれはウィルなりに楽しんでいたのだと思いますよ。前に夜会に参加した時よりも空気が柔らかかった。」
「また出たな。コーエンの、"私だけ知っているウィル"の自慢が。」
「そういう話じゃない。」
「そういえば気になったんだが、あの薬は確か、独特な味があるはず。
スパイスが効いた濃い味付けの食事などに混ぜないと、普通はすぐに違和感に気づく。
効き始めた時間からして夜会の後だろう。となるとウイスキーだと思うが、ウィルがウイスキーの味の変化に気づかなかったことが気になる。」
「あぁ、実は・・・ウィルは味覚を失っているんです。
母親の料理は美味しかったと言っていたので、恐らく両親が殺されたショックか、戦争に参加したことによる精神的なものかと・・・。」
「何てことだ・・・。」
「それに肉も食べられません。
口に入れると吐いてしまうようで、この邸ではウィルの目に触れないように管理しているんです。
まぁ、私たち夫婦も歳をとってあまり肉を食べなくなったので、特に問題は無いんですが。
ウィルは普段は野菜と豆とパンを食べていて、たまに魚介や卵を少し食べる程度です。」
「寮に住んでいた頃からスープとパンばかり食べていると思っていたが、そこまで酷かったのか・・・」
ウゥ・・・
「ウィル?」
寝ているはずのウィルの呻き声が聞こえ、4人は慌てて寝室へ行くと、ウィルが苦しそうに眉間に皺を寄せて寝ていた。
「どうなってる?魔術が効かなかったのか?」
「いや、顔の赤みは引いているし、熱も下がってる。夢に魘されているんじゃないか?」
ウィルの頬に手を当てた団長が告げる。
「・・・布団・・・掛けてあげて・・・・。」
「そ、そうですね。」
「何だか、いけないことをしているような気がしてくる。」
「それは思っていても言葉に出してはいけない。」
まだ15歳の美青年がはだけている姿は、大人の男たちにとっても、目の毒だったらしい。
しかし、ウィルを守る会のやる気は上がったようだ。
>>顛末
数日後、団長に呼び出されると、先日の顛末を聞かされた。
女はドゥンケル伯爵家の令嬢で、捕まったメイドもドゥンケル伯爵家と繋がりがあった。
メイドが令嬢を裏口から手引きし、シガールームでウィルのグラスに媚薬を盛った。
そして、客室にウィルを誘い出して、薄着の令嬢と鉢合わせる算段だったようだ。
やはりウィルとの既成事実を狙っての犯行だった。
薬が効いている時のウィルは色気がヤバかったと笑いながら言われ、何とも言えない気分になった。
令嬢は、貴族の重罪人が送られる、規律厳しい北の修道院へ送られ、もう出ることはない。メイドは毒を盛って、ウィルを突き飛ばしたことから犯罪奴隷落ち、伯爵は関与を否定したが薬の購入が確認されたため当主剥奪の上で領地の邸に蟄居、家の爵位も伯爵から子爵へ降格された。
随分重い気がしたが、陛下が滞在する場所に忍び込んだこと、何より陛下と宰相がかなり怒っていたため、この処罰となったようだった。
それとは別に、ドアの修理代と潜んでいた部屋のベッドや寝具、絨毯やソファ、キャビネットや調度品に至る内装一式を買い替え、かかった代金を請求した。
・・・もう何も考えるまい。忘れよう。
私は社交界から距離を置き、王家主催の夏にある建国記念の夜会と、新成人を迎える新年の夜会以外は出なくなった。
そして、出席しても冷気を纏っており、陛下の挨拶が終わるとすぐに帰るので、幻の氷侯爵と言われるようになった。
その後もコーエン卿やヴィント、陛下とは交流を持っているし、隊員とは相変わらず定期的に飲みに行っている。
以前祖父に紹介してもらった、ハーフェン侯爵とアインツ伯爵、他にもうちの邸で開いた夜会で知り合った貴族とも、お互いの邸に呼んでチェスをやったり、何人か集まってカードゲームをしたり、
夜会に参加しなくなっても、孤立する事はなかった。
閲覧ありがとうございます。




