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走る馬の上でボーッと景色を眺めていたら、後ろに乗った男の人が、色々教えてくれた。


床下に隠れていた俺を見つけたのは後ろに乗っているロルトという魔術師だった。

同じ服を着ている人たちは、俺が住んでいた村のある国、エトワーレ王国の騎士団に所属する隊員たちで、普通の服の人は魔術師、鎧の人は戦士なんだって教えてくれた。


ロルトはその騎士団の魔術部隊の中隊長だという。



まだ戦争は続いているから、王都にはしばらく帰れないそうだ。

戦争には参加しなくてもいいが、戦場に連れていくと言われた。



そうなんだ。


・・・じゃあ俺はそこで死ぬかもしれないな。そうぼんやりと考えた。



最初に連れてこられた場所は、戦場といっても、血だらけの死体がいっぱいな場所じゃなかった。

天幕が張られて、偉い人が集まって会議をするんだって。


大人しくしているなら側で見てもいいと言われて、俺はロルトの隣で黙ってよく分からない会議をずっと聞いていた。

紙を広げて、そこに山とか川とか敵とか味方を描いてた。それを見ながらどこに誰を行かせるかとかみんなで相談してた。



俺は会議の合間に、ロルトに魔術とナイフを使った戦い方も少し教わった。

そこで、俺が村で大人に負けないほど足が速かった理由を知った。

どうやら俺は無意識に身体強化の魔術を使っていたらしい。



雨が降る日は、天幕の中で文字や計算を教えてもらったり、チェスというゲームをしたりして過ごした。

戦争の最前線に出ている人以外は、天幕の近くで戦いの訓練をしてた。




魔術が少し使えるようになると、ロルトが実戦をしてみようと言った。


俺はロルトに最前線に連れて行かれて、前の方では鎧の人が剣で戦ってた。血が出たり、怒号や悲鳴も聞こえたし、ピリピリと肌に刺さるような何かも感じた。


そこで、鎧の人に回復や身体強化の魔術をかけた。

回復や強化は使えたけど、治癒や浄化は何度試しても使えなかった。


戦いがある日は、会議が終わると毎回連れて行かれて、支援だけでなく、だんだん攻撃の魔術も使うようになった。

身体強化をして駆け回りながら、支援や攻撃を行なっていく。



「もう1人でも大丈夫だね。」


慣れてくると、ロルトの付き添い無しで1人で前線に行くようになった。


文字や計算を一通り覚えると、ロルトは書類のつくり方を教えてくれた。回ってきた書類の判断方法や処理の仕方も教えてくれた。

俺は教えられるがまま覚えていった。

そして、俺はロルトの補佐として働くことも増えた。




前線では死がとても身近だった。

支援や攻撃のタイミングをうまくやらないと、戦士が死んでしまうこともあったし、俺の攻撃で敵が死ぬところも見た。


俺は、村が壊滅した時に感情を封印したから、誰かが死ぬところを見ても、死んでしまったなと思うだけだった。




「支援ありがとう」


昨夜、そう言って頭を撫でてくれた戦士が、今日は死体となって運ばれていくなんてことも珍しくなかった。


魔術師は後方支援がメインだから安全なんてことはなくて、攻撃の魔術が飛んでくることもあれば、物理的に矢が飛んでくることもあったし、敵が横から奇襲をかけてきて魔術師がたくさん斬られたこともある。

その時は俺も肩から背中を斜めに斬られた。


斬られて倒れて血が出て、暑くなって寒くなって、とうとう死ぬかなって思ってたら、ロルトが来て治療チームまで抱えて走ってくれた。


死ななかったけど、今でもその時の傷は残ってる。

死ぬかもって思った怪我はその一回だけだったけど、身体の色んなところに火傷や刺し傷が残ってる。




何だろうね?戦争って。


前線で戦ってたから、どうなったら終わるのか、いつまで続くのかもよく分からなくて、ただひたすらロルトに言われるまま働いた。


働いていたから給料も出ると言われたが、戦場に来る商人が売っているもので欲しいものは無かったし、お金の価値も分からなくてロルトに全部管理してもらっていた。

王都に戻ったら、お金を預ける銀行というところに俺名義の口座を作ると言われた。

大金を持ち歩くのも、家に置いておくのも危ないんだって。



戦場で1番困ったのは食事だった。

俺は肉が食べられなくて、いつもスープとパンだけ食べた。肉は吐き気がして食べられない。挑戦したこともあるけど、吐いてしまった。


味は分からないけど、気持ち悪くてたまらなかった。


母ちゃんが作った料理は美味しかったから、昔は味が分かったと思うけど、いつの間にかどれを食べても何の味も感じられなくなっていた。


温かいか冷たいかは分かる。硬いか柔らかいかも分かる。


でもそれだけだった。





俺が10歳の誕生日を迎える頃、とうとう戦争が終わった。


俺はこれからどこでどうやって生きていけばいいんだろう?

戦場でしか働いたことがないのに、どうしよう。もう用済みとして捨てて行かれるのかな?



「これから王都へ一緒に帰るよ。」

ロルトはそう言って優しく笑った。


王都に着くと、俺は騎士団預かりになって、騎士団の寮に住まわせてもらえることになった。

寮には食堂もあって、ご飯もタダで食べれたし、お風呂はいつでも入れた。俺専用の個室が与えられて柔らかい布団が敷かれたベッドで毎日寝た。


でも騎士団での生活は退屈だった。


広場で魔術の練習をしたり、広場で戦士と連携の確認をしたり、たまに森へ魔獣討伐に行ったけど、それがない日はロルトがいる騎士団本部の中隊長室で書類を裁く仕事ばかりやらされた。


王都に来てからは、ロルトに言われて貴族の作法やダンスレッスンなどもやらされている。


閲覧ありがとうございます。

明日も19時に投稿予定です。

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