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「恥ずかしくないですよ。ウィル様はいつでも眩しいくらいに美しいですから。」
「いや、リーゼの方が眩しいくらいに美しいし可愛い。いつでも可愛い。
今日だって、久しぶりに会ったら前より一段と可愛くなっていた。いや、前が可愛くないと言っているわけではなくて、ずっと昔から可愛い。リーゼはいつでも可愛い。世界一可愛い。」
私などリーゼに比べたら足元にも及ばないだろう。
「ふふふ、ウィル様、私のこと口説いてます?」
「口説いていいなら口説きたい。でも、リーゼは本当は私のことなど好きではないだろう?」
「どうしてそう思ったのですか?」
「少し前から、目が合うと目を逸らしていたから・・・。」
やっぱり振られるんだろうか。でも、幼い頃のことを覚えていてくれただけで嬉しい。
彼女の支えになれていたのなら、もう十分だ。
「ごめんなさい。それは・・・私がウィル様に惹かれてしまって、それを自覚したら目を合わせるのが恥ずかしくて、目を逸らしてしまいました。
だから、私がウィル様のことを好きだと言ったのは嘘じゃありません。」
「本当に?リーゼが、私のことを・・・好き?」
「はい。好きです。」
「私もリーゼのことが好きだ。結婚しよう!」
「え?はい。」
「いや、すまない、また急ぎすぎた。え?今なんて?」
さすがに聞き間違いだと思った。
「はい、と言いました。ウィル様が望んでくれるなら、結婚します。」
「本当に?ありがとう。今日は人生の中で最高の日だ。」
私は立ち上がってリーゼの前まで行くと、リーゼを抱きしめた。
「リーゼ、大好きだよ。リーゼは天使でも妖精でもないと言ったけど、私にとっては今でもリーゼは天使で妖精だ。」
「ウィル様・・・。」
「永遠にリーゼただ1人を愛し続けると誓うよ。
いや、永遠なんて言葉じゃ足りない。もっと、永遠を超えてリーゼだけを愛すよ。」
「私も、ウィル様だけを愛します。」
「リーゼ、行こう!」
「え?どこへ?」
「婚約ならすぐにできる。陛下に承認してもらおう。陛下が留守ならコーエン卿でもいい。」
私はリーゼを横抱きにすると、部屋のドアを開けて走り出した。
しがみついてくるリーゼが可愛い。
「陛下、私は婚約します。今から行くので承認をお願いします。」
私は走りながら、声に魔力を纏わせて陛下に届けた。
廊下で騎士団の隊員や、城で働く使用人など何人かとすれ違ったが、そんなことは全然気にならなかった。
コンコン
両手が塞がっていたので、風の魔術でドアをノックした。
「ウィルです!」
「入っていいぞ。」
「陛下、私は婚約します!承認をお願いします!」
「分かった。分かったから、とりあえず彼女を下ろしてやれ。」
陛下に指摘されるまで全く気にしていなかった。
彼女を横抱きにしたままだったことに気づくと、ゆっくり彼女を下ろした。
「あ、すまんリーゼ。」
「いえ。」
「あ、あの、リーゼ・アインツと申します。陛下におかれましては・・・」
「よいよい、公式な場じゃないからリーゼ嬢も気楽にしてくれ。」
「は、はい。」
「リーゼ、大丈夫だよ。私がついているからね。」
緊張しているリーゼも可愛いな。リーゼの柔らかく小さい手を握った。
「ウィル、ところで書類はどうした?」
「書類?」
「彼女と婚約するんだろう?婚約書類は?」
「あ、そうか。書類がいるのか・・・。」
そうだ、書類がいるんだった。浮かれていて完全に忘れていた・・・。
失敗してしまった・・・。
バカな奴だと思われただろうか。嬉しい気持ちはちゃんと胸に残して、ちゃんとしよう。
「コーエン、すまんが用意してやってくれ。」
「かしこまりました。」
「コーエン卿、すみません。」
「いいよいいよ。それより、おめでとう。」
「ありがとうございます。」
ガチャッ
「大変だ!」
「団長、前から言っているが、ここは陛下の部屋なんだからノックぐらいしなさい。」
「あぁ、すまん。それよりウィルが。」
「私が何か?」
「ウィル、ここにいたのか。」
「団長、それで何の用だ?」
「あ、いや、ウィルがとんでもなく可愛い彼女を本部に連れてきたと噂になっていてな。
手を出そうとした隊員を半殺しにしたとか。」
「そんなことしていませんよ。」
「そうだよな。じゃあウィルが女の子を横抱きにして廊下を走っているのを見たというのもただの噂か。」
「いえ、それは事実です。」
「ウィルは彼女を抱えたままこの部屋に入ってきたからな。」
「彼女?ん?その子か。ウィルが10年も想い続けた妖精。」
私はリーゼに近づこうとする団長の前に割って入った。
「リーゼは私の大切な人なので、それ以上近づかないで下さい。
結界を張ってありますので、万が一愚かにもリーゼに触れようとすれば吹き飛びますよ。」
「・・・ウィル、過保護すぎないか?」
「団長は野蛮を代表するような人物だからウィルが警戒するのも仕方ないだろう。」
「ダイターその言い方は酷くない?」
コンコン
「コーエンです。」
「入っていいぞ。」
「ウィル、リーゼさん、婚約の書類を持ってきたよ。そこの机で書くといい。」
「コーエン卿、ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
「さあ、リーゼこっちにおいで。一緒に書こう。」
「はい。」
「仲睦まじくて微笑ましいですね。」
「宰相、そう見えるだろ?気のせいだ。ウィルは妖精に結界を張っている。しかも触れようとすれば吹っ飛ぶような危ないやつを。」
「団長がいるからでは?」
「宰相までそんなことを言うのかよ。俺ってそんなに野蛮なの?」
「そう言われたくないのなら、部屋に入るときにノックぐらいしなさい。」
「はい・・・すいません。」
「リーゼよく書けたね。偉いね。」
「いえ。」
私がリーゼを愛でて頭を撫でていると、団長が怖い顔をしていた。
「ウィル、何をしている。こんなところでイチャつくんじゃねぇ。」
「仕方ないだろ、彼女は可愛いんだから。」
「「「・・・・。」」」
「陛下、婚約の承認お願いします。」
「あぁ、分かった。」
陛下はサラサラとサインを書いた。
「リーゼ、私たちはこれで婚約者だ。」
「はい。」
少し頬を染めて微笑む彼女が愛しい。
「リーゼ、生まれてきてくれてありがとう。リーゼの存在が私の生きる理由だ。これからもリーゼのために生きよう。」
「ウィル様、こんなところで・・・皆さんがいらっしゃるのに。」
「・・・ウィル、お前もう今日は帰れ。」
「帰っていいんですか?団長ありがとうございます。すぐに帰ります!」
「わっ」
私はリーゼを横抱きにすると、部屋を出てそのままフロイの元へ走った。
「私は今婚約した。今日は帰る。みんなありがとう。」
声に魔力を纏わせて私の中隊の元へ届けると、演習場の中から、ワアァァァァアという歓声と拍手が聞こえた。
みんなありがとう。
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