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>>>ウィル視点



私はいつものように隊員と共に朝練を終えると、シャワーを浴びて中隊長室に戻った。

先日、シュヴェアトと2人で初めた朝練は、どんどん参加人数が増えて今では中隊のほとんどの隊員が参加している。

シュヴェアトの剣もいい物が見つかって練習に励んでいる。



ふぅ・・・


リーゼから逃げていることが、セバにバレていた・・・。

そうだよな。夜遅く帰る日が続くことはあっても、連日早朝に出勤することなどなかったからな・・・



ん?

いや、勘違いか?リーゼの空気を感じた。

そんなわけないよな・・・。いよいよ私もリーゼを想うあまりおかしくなったのか?

・・・いや、これは間違いない。

でもなぜ?



こんな野獣の巣窟のような場所にリーゼが来るなど危ない!

私は急いで部屋を出ると、リーゼの空気を目指して身体強化を使って駆けた。




「君可愛いね〜名前は?」

「ねぇねぇ、可愛いねぇ俺の彼女にならない?」

「こんな野蛮な奴はダメだ、俺にしとけ。」


困惑したリーゼを囲む隊員たちの姿が見えた。



「おい、お前ら何をしている?」

私は空気が凍るほどの冷気が漏れているのにも気づかず近づくと、リーゼの周りを囲んでいた隊員たちが青ざめた表情で一斉に距離をとった。


「何をしていると聞いたんだ。」


「あ、えっと、すみません。」

「まさかフェルゼン中隊長の彼女だとは知らず・・・。」



「「「すみませんでした!!」」」



「早く訓練に戻れ!」


「「「「はい!」」」」


隊員たちは一目散にその場から離れていった。



「リーゼ、来るのが遅くなってすまない。何もされていないか?」

「はい。大丈夫です。」


「そうか。それは良かった。怖かっただろう?とりあえず私の中隊長室に来るか?」

「はい。」


私はリーゼを中隊長室に案内した。


「そこに座って。今お茶を淹れよう。」

「はい。」




とうとうこの時が来てしまったんだな。

まさか痺れを切らしたリーゼが、騎士団にまでやってくるなんて思いもしなかった。

もう逃げられないな。私も覚悟を決めなければ。


お茶を淹れる手が震えた。


熱っ


「ウィル様大丈夫ですか?ヒール」

「ありがとう。リーゼ・・・。」


リーゼは優しいな。そしてこんなところに1人で来てしまうほど強い。



”例え振られるとしても、気持ちは伝えた方がいいです。もし引き留めたいなら、そう言わなければ伝わりません。”

そう言った部下の言葉が思い出された。


私は深呼吸をすると、少し緊張した表情のリーゼの向かいに腰をおろし向き合った。



「リーゼ、私はリーゼのことが好きだ。ずっと私の側にいてほしい。

想い人がいることは知っているが、私はリーゼを失いたくない。

私のことを好きになってくれとは言わない。出て行かないでくれ。

いつもリーゼの幸せを願っているのに、こんなことを言ってすまない。」


「私も、好きです。」


「え?」


リーゼが何を言ったのか分からなかった。とうとう私の頭がおかしくなったのだと思った。



「私も、ウィル様のことが好きです。」

「嘘だ・・・リーゼは優しいから私に気を遣っているんだろう?」


信じられるわけない。彼女は私から目を逸らしていたんだ。

それに、想い人がいる。



「違います。私の話を聞いてください。」

「分かった。」


「ごめんなさい。ウィル様が一生懸命探してくれているから、言えませんでした。

私が探していたのは、幼い頃に助けてもらった人で、好きとかじゃないんです。どうにかなりたいとかそんなことは思っていなくて、ただ懐かしくて一目見たいと思っただけなんです。想い人なんかじゃないんです。」

「そうか。そうだったのか・・・。」


彼女には、想い人はいない?



「だから、もう探さなくていいと伝えようと思って、でもあんなに一生懸命探してくれているのに、怒られるかもしれないと思うと言えなくて、森に行った日、帰ったらそのことを伝えようと思ったんです。」

「そうだったのか・・・。」


もう探さなくていいんだな・・・。



「それと、ウィル様の目は、本当は赤ですよね?」

「あぁ、そうだが・・・。そうかあの時、魔力操作が乱れて・・・。」


「私が懐かしくて一目見たいと思っていた人は、あなたです。」

「え?そんな・・・。」


私?なのか?



「間違いありません。今まで気付けずごめんなさい。」

「日に焼けた肌・・・そうか、あの時まだ私は戦場から戻ったばかりだったから、日焼けしていたかもしれない。」


「ウィル様は覚えていないかもしれませんが、私は5歳の時にウィル様に森で助けていただきました。辛い時にはあなたの言葉を思い出し、ずっとあなたは私の支えでした。」

「覚えて、いたんだな・・・。

獣に襲われた怖い思い出など、忘れたいのだと思っていた。

怖い思いをしたことなど、忘れてくれていいとも思っていた。

私は、森に帰っていったリーゼは、天使か妖精だと思っていたんだ。」


「ふふふ、私は天使でも妖精でもないですよ。」

「あぁ、それを知ったのは最近だ。あの夜会の日に中庭で会った時、一目でリーゼだと分かった。

天使か妖精だと思っていたから、驚いて階段の手すりで怪我をした。」


幼い時のあの笑顔を見せてくれるリーゼに胸が高鳴った。



「あの時にもう気付いていたんですね。

あの時は本当に見苦しい姿をお見せしてしまいました・・・。」

「いや、いいんだ。私も、ずっとリーゼが心の支えだった。

その森の絵、リーゼはどう思う?」


「え?お邸のお部屋にもありましたし、クンストの展示販売施設にもあった絵ですよね?森の絵・・・森を誰かが散歩している絵だなとしか思っていませんでした。」

「怖くはないんだね?」


「はい。怖くはないです。」

「あの絵は、私が王都の露店で、森に佇む妖精だと思って購入した絵で、つまり・・・リーゼを思い出して買ったんだ。」


「え?そうなんですか?」

「ただ、他の者にはアンデットに絡みつく木の魔獣みたいで怖いと言われ、部下たちには«戒めの絵»と呼ばれているんだ・・・。すまない。」


「ふふふふ、ウィル様の部下の皆さんは愉快な方たちですね。」

「愉快、ではあるかな。私の部下はみんなとてもいい奴らだ。」



「ウィル様の部下の皆さんが羨ましいです。ウィル様をそんな優しい笑顔にできるなんて。」

「優しい笑顔・・・、恥ずかしいな。」


表情をリーゼに見られているのかと思うと、今自分がどんな顔をしているのか分からず、恥ずかしくて顔に熱が集まるのが分かった。



閲覧ありがとうございます。

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