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>>>ウィル視点


彼女がいる生活は本当に楽しくて幸せだ。

本当はずっとここにいてほしい。

ずっと私の隣で笑っていてほしい。


なかなか見つからない男なんかやめて、私のことを好きになってくれと言えたら楽なんだけどな。

公開演習の日の、必死に探している彼女の顔を思い出すと、とてもそんなことは言えそうになかった。



彼女と出かける度に苦しくなった。

とても楽しいし、幸せなだけど、そんな時間には必ず終わりが来てしまう。

いい思い出になった。絶対に忘れない。自分に言い聞かせながら彼女の負担にならないようにそう告げることが、習慣になった。



本当は、1人寂しく思い出したりなんかしたくない・・・。

何年も経って、彼女と2人で思い出を語り合えたらどんなに幸せだろうと思っては、頭を振ってその思いを振り払う。


幸せが辛い。いつ見つかるか分からないその男の存在が怖くて、彼女との時間が終わってしまうことが怖くて、また酒の量が増えてしまいそうだ。


さすがに潰れるまで飲むことはないが、ヴィントや隊員を誘って飲みに行っては、辛いと打ち明けた。




そんなある日、彼女が私から度々目を逸らすことに気づいた。

そしてしばらくすると、なんだか覚悟を決めたような様子の彼女が、あの森に行きたいと言い出した。


その様子に、私はこれが彼女と出かける最後になるのだと確信した。

彼女はその男を見つけたのか、もしくはその男のことが忘れられないから邸を去ると言い出すのかもしれない。



私はしばらく悩んだが、彼女の幸せを、彼女の想いを優先したいと思い、覚悟を決めて週末に行こうと告げた。

喜ぶ彼女の笑顔が、私の心を切り刻むようだ・・・。


最後があの森で良かったのかもしれない。

最後に彼女とあの森に行けるのは、神様が最後に私に与えてくれたご褒美かもしれないと思った。




とうとう今日が来てしまったか。

あの森に行けるのは、楽しみでもあった。

しかし、終わってしまえば、彼女のことも手放すことになる。


今は、今だけは、それを考えないでいたい。



フロイに彼女を抱えて飛び乗ると、森へ向かった。

森の入り口にフロイを繋ぐと、彼女と共に森の奥へと進んでいく。


「ウィル様、秋なのでもう葉はほとんど落ちてしまっていますね。」

「そうだね。」


私は上手く笑えているだろうか?



しばらく進むと、彼女は何かを見つけて立ち止まった。


「あ、ここに座りましょう。」


!!!

あれは、間違いない。あの時より苔むしてはいるが、10年前に彼女と座った木の根だ。


「そうだね。」

私は木の根の上にハンカチを敷いて彼女を座らせた。

神様は残酷だ・・・。


私は彼女を離したくない。

彼女の手を取りたい。このまま彼女を攫ってしまいたい。

そんなことをすれば覚悟を決めた彼女を悲しませてしまうと分かっているのに。

この期に及んで尚、彼女への想いが溢れてくる。



「ウィル様?どうかされましたか?昨日も帰りが遅かったですし、お疲れなのではないですか?」

「そ、そうかもしれない。でも大丈夫だ。」


答える声も少し掠れて、もう、平気な顔をして彼女に笑いかけるなんてできそうもない。



「お疲れなのに連れてきてくれてありがとうございました。

もう帰りましょう。ウィル様はお邸でゆっくり休んでください。」


このままでは終わってしまう・・・

彼女との時間が終わってしまう・・・。


どうか、もう少し私に時間を下さい。


きっと、邸に戻ったら、話があると言われるんだろう・・・。



「もう少し・・・ここにいても?」

「はい・・・。」


「私は、森が好きなんだ・・・。人の気配が感じられない場所で、自然と一体になれる感じがして落ち着く。」

「分かります。私も、森が好きです。子爵家にいた頃は、人がいる空間は何をされるのか分からなくて怖かったんです。

だから、たまにこっそりこの森に来ていたんです。」


「そうだったのか・・・」

「外壁に小さい子供なら通り抜けられる場所があって、辛くなるとこの森に逃げていました。内緒ですよ。」


「あぁ。誰にも言わない。内緒にしよう。」

「ふふふ、ありがとうございます。」



そうか。だからあの時、送っていくのを嫌がったのか。その抜け穴からこっそり邸に戻っていたんだな。

そうか・・・。


ん?

嫌な気配がする・・・。

私は索敵を広げた。


あれはレッドベアか?なんでこんなところに?

しかも近い。なぜ今まで気づかなかった?



「ウィル様?どうかしましたか?」

「あぁ、魔獣が近づいている。」


「ボアですか?」

「え?」


私は動揺した。なぜ彼女がボアだと思ったのか分からなかったが、あの時彼女に襲いかかったのは猪、ボアだ・・・。



「え?」


彼女の驚く顔を眺めていると、その向こうからレッドベアが私たちをターゲットと定めて物凄い速さで駆けてくるのが見えた。


ガァァァァァ!!



「リーゼ、結界をかけたから安全だからね。大丈夫だから君は私の後ろに下がっていて。」


私は彼女に話しかけるが、リーゼは唖然としたまま固まっている。

どうしたんだ?

レッドベアの殺気に当てられて動けないのか?


「リーゼ、抱えるよ。」

私はリーゼを抱き抱えたままレッドベアと対峙した。


レッドベアが飛ばしてくる火球を避けて、風の魔術で槍を作り、いつものように喉と心臓に目掛けて放った。


レッドベアは、一瞬固まったが、その後ゆっくりと倒れていった。


リーゼを降そうとすると、リーゼは小刻みに震えていた。

そうだよな。レッドベアを間近で見るのなんて初めてだろうし、魔獣を見るのも初めてかもしれない。



私はリーゼを抱き抱え、癒しの魔術をゆっくり流す。背中をポンポンとさすりながら森を抜けると、門番の控室の前でリーゼを降ろした。

外門までリーゼを迎えにくるよう書いて伝令魔獣を邸に飛ばすと、森でレッドベアが出たこと、1頭は倒したが他にもいる可能性があるので確認しに行くこと、フェルゼン侯爵家から馬車がくるまでリーゼを頼むと門番に告げて森に戻った。


さすがにレッドベアが何頭もいるとは思えないが、他の魔獣がいる可能性はある。


森に戻ると索敵を広げていく。

2キロほど森の奥にレッドボアが複数いるのが確認できた。

私は身体強化を使って駆けると、レッドボアを風の魔術で倒した。それ以降は30キロほど索敵を広げたが、魔獣はいなかった。


私は騎士団にレッドベアとレッドボアを森で倒したため回収に来てほしいと位置を描いて伝令魔獣を飛ばした。



閲覧ありがとうございます。

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