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拾われた戦争孤児が魔術師として幸せになるまで  作者: 武天 しあん
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SS

七夕企画のSSです。お楽しみください。


「グラ、何をしているんだ?」


木に、長細い紙に紐を通して結びつけているグラを見つけ、声をかけた。



「ウィルさん。お疲れ様です。

今日は日本という国では七夕なんです。」

「タナバタ?それは何だ?」


「引き離された2人が1年に一度会える日なんです。

空に輝く星の物語なんですが、七夕という日には笹という木に願い事を書いた紙を吊るすんです。伝統行事ですね。」

「なるほど。1年に一度しか会えないのは寂しいな。

私なら耐えられないだろう。

グラはどんな願い事を書いたんだ?」


「それは内緒です。」

「そうか。私の中隊や領地でもやってみるかな。

今の時期は特に祭りが無いから丁度いいと思う。」


「いいですね。」

「珍しい行事を教えてくれてありがとう。じゃあまたな。」




私は中隊の演習場に行き、グラから聞いた話を皆にした。


「へぇ、他国ではそのような行事があるのか。」

「星の話というのが何ともロマンティックだな。」

「しかし引き離されたというのが気になるな。」

「だな。でも1年に一度は必ず会えるんだろ?永遠に会えないわけじゃない。」

「確かにな。」


「ということで、我が隊でもやってみようと思う。

紙は用意したから、書いた者から木に吊るしていってくれ。」




私の願いは一つ。


『リーゼが幸せになりますように。』


それさえ叶えば、他は私が自分で何とかすればいい。

今までだって皆に支えられ、なんとかやってきた。だから大丈夫だ。



隊員たちは、誰にも見えないよう隠しながらこっそり書く者や、書いた紙をみんなに見せてある種の決意表明のようなものをする者など、様々だった。


色々な色の紙を用意したため、木に吊るすと木が着飾られたように綺麗だった。



「では私は領地にもこのことを広げてくる。何か緊急事態が起きれば伝令魔獣を飛ばしてくれ。」



私はフロイに飛び乗ると、クンストを目指した。

もう少し早く聞いていれば色々と準備できたが、今日1日で全ての街や村を回るのは無理か。クンストとタッシェだけでも始めてみるか。


来年はもう少し規模を広げて、領地全体に広げたいな。




クンストに着くと、展示販売施設にあるステージ前広場にいた領民たちに説明し、机や紙やペンなどを用意すると、書いて木に吊るしてもらった。


その後もクンストの中を回って色々な人に話して回り、他の者にも話を広げていくよう頼んだ。


「ミラン、ミランも願い事を書いて木に吊るしてくれ。」

「願い事か〜

俺は魔術で大体のことはできるからな〜

そんなに無いんだけど、何か考えて書いてみる。」




そして次は隣のタッシェへ。


タッシェでは街の入り口にある木の下に、台や紙やペンを設置して説明して回った。



そうだ。こういう行事は子供が喜ぶだろう。

あの小さな村に住むシュペアにも伝えてやろう。

私はシュペアが住む村へ向かった。


あの村には子供がシュペアしかいなかった。

私も村を出てからは子供が周りにいない環境で育った。子供らしい願い事か。彼はどんなことを願うんだろうな。



まだ8歳か9歳くらいの子供が願うこと。またお肉が食べたいとかそんなことなんだろうか。

そう想像すると、微笑ましい気持ちになった。




村の近くまで来たが、シュペアの魔力は村の中にはなかった。

また山に行っているのかもしれないな。


私は昨年シュペアがレッドボアに襲われそうになっていた山まで急いで向かった。



いたいた。

1人で何をしているのかと木の影からそっと覗いてみると、シュペアは自作の石槍で一生懸命練習をしていた。

そして、ふぅと息を吐くと手から水を出して飲んでいた。


魔力循環がかなり上手くなったんだな。

ちゃんと私が教えたように水を出すこともできている。



「シュペア。」

「え?領主様?どうしたの?」


「騎士団で面白い行事を聞いたんだ。それでシュペアにも教えてあげようと思って来たんだよ。」

「本当?僕に会いに来てくれたの?」


「あぁそうだよ。」

「嬉しい。僕、強くなれるように頑張ってるよ。」


「そうか、偉いな。」


真っ白で少しカールした髪を撫でてやると、シュペアは嬉しそうにアイスブルーの瞳で私を見上げた。

この子も天使か?



私はグラに聞いた七夕の話をシュペアにしてやった。


「僕もお願い事書きたい。」

「あぁ、いいよ。ちゃんとシュペアの分の紙を持ってきたからな。」


「本当?領主様ありがとう。」



山の中には机などないので、手頃な木を切り倒して、そこを台にして書くよう勧めた。



シュペアの願い事はなんだろうか。

そっと覗き込んでみると、シュペアは一生懸命に槍のような絵と、人のような絵を描いていた。


ん?そうか。シュペアはまだ文字が書けないのか。

そうだよな。あの小さな村に読み書きができる者がいるとも思えないしな。


しかし、確かに願い事を文字で書かなければならないという決まりはないだろう。

どんな形でも願いを込めて書けば、きっと叶うと私は信じたい。




「シュペア、どんな願い事をしたんだい?」

「強くなって、領主様を守れるようにお願いしたの。」


「そうか。叶うといいな。」

「うん。」


子供の願い事だから、きっと肉が食べたいとかそんな願い事だと思ったが、違ったようだ。彼は幼いがしっかりその足で立って、未来を向いて歩いている。



「そうだ、星の物語だから、星に近い位置に吊るした方が願いが叶うかもしれないな。」

「そっか。」


シュペアはそう言うと、紙をポケットに入れ、木を登りだした。

足を滑らせて落ちてしまうのではないかと思い、ヒヤヒヤしながら見ていたが、シュペアは足を滑らせることなくするすると器用に木を登っていって、かなり高い位置まで登ると紙を木の枝に吊るした。


「領主様、できたよ〜!」


そう言って手を振った途端に、シュペアは気を抜いたのか木から足を滑らせて落ちた。


「危ない!」


私は咄嗟に風の魔術を使って飛び上がると、シュペアを抱き抱えて地上に下りた。


「ごめんなさい。僕・・・」

「謝らなくていいんだよ。何も悪いことをしていないだろう?

それに、シュペアは木登りが上手いんだな。驚いたよ。」


「うん。たまに木に登って寝てるから。」

「そうか。シュペアは器用だな。」


「領主様はもう帰る?」

「あぁ、そうだな。」


「そっか。またいつか会いに来てくれる?」

「あぁ。約束しよう。」





「ミラン・・・これが落ちていたんだが、ミランだろ?」


ウィルの手には『この世から書類仕事がなくなりますように』と書かれた短冊が握られていた。


「え〜?なんでウィルが持ってるの?ちゃんと括り付けたのに〜」

「この願いは叶えてやれないという星からの知らせだろう。」


「そんな〜」



シュペアの願いが、ウィルの願いが、みんなの願いが叶いますように。


閲覧ありがとうございます。


『少年シュペアの冒険譚 〜無自覚に最高峰を目指す〜』もよろしくお願いします。

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