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拾われた戦争孤児が魔術師として幸せになるまで  作者: 武天 しあん
逃亡編

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フロイは夜目が効くようで、暗い中でも昼間と同じように駆けていった。


厩舎がある宿を訪ねてみると、夜遅い時間だったが、まだ空きがあるということで快く受け入れてくれた。

干し草も余っているとのことで、フロイ用に分けてもらった。


「フロイ、今日はありがとうな。明日も頼んだよ。」

干し草を食べるフロイをブラシでゴシゴシ擦りながら感謝を伝えた。



私も、何か食べるか・・・

そう言えば、一昨日の朝以降は水と酒しか口にしていない。

固形物を何も食べていないことに気付いた。


一昨日の朝・・・あの時までは幸せだったのにな・・・。

思い出すと途端に気分が落ちた。



こんな時間はもう酒場しか開いていない。

適当な酒場に入り、空いている席に座った。


「ウォッカ、ロックで。あと、野菜と豆の煮込みとパンを。」



思えば店で1人で食事をするなんて初めてかもしれない。

やはり私は恵まれていたんだな。

いつも周りには人がいた。


それなのに誰にも頼れなかった。

戻ったらとりあえずヴィントとラオでも頼ってみるか。


でも、今はまだ・・・誰も私を知らない場所に1人でいたい気分だ。



間も無く酒と料理が届けられた。

村の跡地で、昔閉じ込めた感情を解放したため、味覚があるかどうか不安だったが、味覚は失われていなかった。

良かった・・・。




リーゼ・・・

毎朝会っていたから、数日会えないだけで寂しくて胸が締め付けられる。

彼女の目に私は映っていなかったんだな・・・。


私はウォッカを一気に煽って、追加はジョッキで頼んだ。



なぜだ・・・

なぜ忘れられないんだ・・・

ジョッキでウォッカを2杯飲むと、もうさすがにこれ以上飲んでは自力で宿に帰れなくなると思い、ふらつきながら店を後にした。


いつ寝たのかも覚えていないが、宿の机にはカクトスから買ったテキーラを飲んだであろう形跡があった。




また、朝が来てしまったか・・・

フロイでも見にいこう。



「おはようフロイ。」


ブルルル<今日はどこ行く?また速く走りたい。>

「うん分かった。じゃあ出かけようか。」


本当にフロイがいて良かった。

私1人だったら、宿かどこかで酒を飲んで潰れて、起きてまた酒を飲んで潰れて、と繰り返していたかもしれない。



「フロイ、エトワーレの最南端にあるティーダって街に海があるらしい。行ってみようか。」


ブルルル<うみって何?>

「私も行ったことがないからよく分からないんだが、大きな湖みたいなものらしい。しかもその水は塩が含まれているんだって。魔獣もいると言っていたな。」


ブルルル<楽しそう。>

「うん。一緒に行こう。身体強化をかけるよ。1日では行けないかもしれない。今日辿り着けなければ、どこか途中の街に泊まろう。」


身体強化をかけると、フロイは昨日より速いスピードで走り出した。

村の跡地で意思の疎通が明確になった時に進化でもしたんだろうか。


魔術で風圧や重力を緩和しないと、もうそのままでは掴まっていられなかった。





「フロイ、ここが海だ。」

ブルルル<この砂の上歩くの楽しい。>


「そうか。良かったな。水にはあまり近づくなよ。魔獣がいるらしいから。」

冒険者ギルドでも覗いてみるか。

海にどんな魔獣が出るのか見てみたいな。



「フロイ、そこにある冒険者ギルドに行ってくるから、フロイはそこの砂で遊んでいるか?」

ブルルル<うん、ここで待ってる。>



昼も過ぎているので、ギルドの中はほとんど人がいなかった。


Aランクの依頼は・・・

護衛しかないな。これ、まだ受け付けてるのか?紙は何年も前のもののようにボロボロだった。しかも移動は船と書いてある。



「おい、そこはAランクの依頼だぞ?」


突然話しかけられ振り向くと、モスケルのようにゴツい体格の黒目で赤髪の男が立っていた。


「ん?あぁ知っている。私はこう見えてもAランクだからな。」


「そんな細腕でか?」

「あぁ。私は武器は使えないが、魔術が得意だからな。

弱そうに見えるだろう?よく言われるよ。」



「ほれ。」

私はギルドカードを彼に見せた。



「おぉ、本当だ。すまん。」

「別に気にしていない。よくあることだからな。」


「俺はBランクのティフロートだ。テフと呼ばれている。」

「私はウィルだ。」


「ティーダは初めてか?いや、見かけない顔だと思ってな。」

「あぁ。さっき到着したばかりだ。海というものが見てみたくてな。」


「そうか。海はどうだった?」

「私の相棒が砂地を気に入っている。今も遊んでいると思う。」


「相棒?1人で海に置いてきたのか?危ないぞ。」

「そうなのか?それはまずいな。見てくる。」




「フロイ、砂のところも危ないって、こっちまで来てくれ。」

声に魔力を纏わせてフロイを呼んだ。


ヒヒーン!<分かった>

フロイは嘶くと颯爽と駆けてきた。


良かった。大丈夫そうだ。

まぁ、結界を張っていたからそれほど心配はしていなかったが。



「相棒って馬か。」

「あぁそうだ。可愛いだろ。可愛いだけじゃなく頭もいい。勇敢だしな。」


ブルルルル<楽しかった。>

「楽しかったか。良かったな。」

私はフロイの首をガシガシと掻いてやった。


「ウィルはいつまでこの街にいるんだ?」

「決めていないが、週明けには仕事に戻らなければならないから、明日か明後日にはここを発つ。」


「冒険者の他に仕事があるのか。」

「あぁ。色々ある。この旅の途中でも仕事が増えてしまった・・・。

戻りたくはないんだが、仕方がない・・・。」


「仕事が嫌になることは誰でもあるだろう。Aランクの実力があるなら仕事を辞めても食っていけるだろう。」

「まぁ食ってはいけるが、途中で投げ出すわけにはいかないからな。」


「そうか。で、どうするんだ?明日や明後日までとなると護衛は無理だろう?討伐か?」

「海の魔獣を見てみたいな。」


「依頼でなくてもいいなら、狩場まで案内してやろうか?」

「いいのか?」


「あぁ、いい依頼がなくてちょうど暇だったからな。」

「じゃあさっそく行こう。」




閲覧ありがとうございます。

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