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今日は2話あります。
「フロイおはよう、今日もまた遠駆けできるか?」
ブルルルル
そんなの余裕だよ任せてだそうだ。
「頼もしいな。」
フン
「ははは、なんだそのドヤ顔は。」
フロイをしっかしブラッシングしてやると、私は生まれ育った辺境へ向かった。
また身体強化をかけると鬣が銀色に光り、フロイは嬉しそうに猛スピードで駆けた。
いくつか他の領地を通り過ぎて、森の中を駆けていく。
さすがにこのスピードで街道を走るのは危ないからな。
身体強化を使っても結構時間がかかったな。
着く頃には太陽が真上を過ぎていた。
「ここは繋ぐところがないから繋がないが、あまり遠くに行くなよ。」
ブルルル
分かっていると言っているようだ。
人が多くいる場所以外ではフロイは繋がなくても良さそうだな。
私の言葉もよく理解しているし。
「父ちゃん、母ちゃん、村のみんな、久しぶりだね。
成人した時以来だから、5年ぶりか。
今日は領地で作っている酒を持ってきたよ。みんなで一緒に飲もう。」
5年前に私が置いた墓石に酒をかけ、私もコップに入れて飲んだ。
「あれから私は騎士団の仕事だけでなく、領地のこともやっているんだよ。
それに、友人もできた。
好きな人もできたけど、そっちは叶わなかったよ・・・。
父ちゃんはどうやって母ちゃんを射止めたんだ?そんな2人の話も聞きたかったよ。
でも仕方ないよな。想い人がいるのに無理に関係を進めることなどできないし。」
墓石にもたれて、焚き火に木の枝を焚べながら、テキーラをチビチビと飲む。
きっと春になれば、あの黄色い小さな花が咲くだろう。
あれからもう14年も経ったんだな。
この村で過ごした時間よりも、王都で暮らしている時間の方が長くなってしまった。
ウゥッ・・・
ロルトに床下から助け出されて、村の広場に連れてこられた時、朝起きて村の家がボロボロに壊されているのを見た時・・・
少し脆くなっていた心の、奥底に沈めて封印していた当時の光景が急に感情と共に湧き出してきて、呼吸が乱れる。
ハァハァハァ・・・
ブルル?
ヒヒーン!
草を食んでいたフロイが、私の異変に気づいて嘶くと、こちらに走ってきた。
ブルルルル
「フロイ、私を心配してくれるのか?大丈夫・・・だ・・・」
閉じ込めなければ・・・
いや、もういいか。もう疲れた。
解放してやるよ。この呪いのようにドロドロと渦巻く何かを。
私が閉じ込めた、幼き頃の私の心・・・。
もう、いいよ。出て来たければ出てこればいい。
ここなら他には誰もいない。迷惑をかけることもない。
大丈夫だ。出ておいで・・・
幼きあの日、この今にも溢れそうな感情を解放したら、心も身体もバラバラになってしまうと思って閉じ込めた。
拳をきつく握ると、手のひらに爪が食い込んで血がポタポタと垂れてきたが、私は少しずつその溢れ出る感情を解放していった。
心は切り裂かれるように痛く、涙が溢れた。
歯を食いしばって痛みに耐える。
そんな私の横にフロイは座り、顔寄せて見守っている。
フロイ、ありがとう。
私1人だったら、耐えられなかったかもしれない。
フロイがいてくれて良かった。フロイは最高の相棒だよ。
私はフロイにもたれて、そのまま眠ってしまったようだ。
ウゥ、寒い・・・
目が覚めると辺りは真っ暗で、焚き火の火も消えてしまっていた。
「フロイ、ごめんな。私がもたれていたから、動けなかったんだろ?」
爪が食い込んで傷ついた手から水を出してフロイに与えた。
すると、身体強化をかけたわけでもないのにフロイの鬣が銀色に光った。
何でだ?
「フロイ、大丈夫か?」
ブルルル<大丈夫。>
ん?
ブルルル<手見せて。>
え?
私がフロイに手を見せると、フロイは私の手を舐めた。
なっ!手の傷が治っていた。
「フロイ・・・お前、やっぱり特殊個体だったんだな。」
ブルルル<分からない。>
「私の言葉を理解しているのは知っていたし、フロイの意思もなんとなく分かっていたが、こんなにハッキリと伝わってくるのは初めてだ。
それに、フロイは魔術を使えるんだな。」
ブルルル<ウィルが痛いから、治ってほしいと思った。>
「そうか。ありがとう。」
ブルルル<お腹すいた。>
「うん。そうだな。近くの街まで行ってご飯を食べよう。
酒は、まだ半分以上残っているな。これは持って帰ろう。」
「父ちゃん、母ちゃん、村のみんな、また来るね。」
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