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夜明けのボトルシップ  作者: 高橋
一章 夜明けのボトルシップ
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3話『黒鉄の扉』

 無数の命が花と散り、真紅の雨が頬を伝う。

 漆黒の闇を斬り裂く白銀の刃は死に濡れてなお、その刀身に鋭い殺意を纏っていた。


 襲い来る獣を八つ裂きにし、背後からの光弾を刃の峰で逸らす。

 刀と身体をひとつにし、剣の境地へと心の全てを浸らせる。


 ◇ ◇


戦場(いくさば)に人の心は無用よのぅ。そうは思わぬかえ、おぬし……』

一度(ひとたび)武具をその身に纏えば、人も獣も違いはあるまいに。戦場に誇りを見出すは愚かな貴族と武士だけで充分よ……』

『血を飲み肉を喰らいより鋭く研ぎ澄まされる。それこそがつまるところ、剣の道というものじゃろう?』

『人並みの幸せなど斬って捨ててしまおうぞ。わっちらはただ戦のみを求め彷徨う悪鬼羅刹。人道に背き外道を往く者よ』


 ◇ ◇


 血飛沫を浴び、私は斬るものを見失った。

 獣のような荒い息のまま周囲を見渡し、そしてようやく、もうここには私が作った魔物たちの骸の山しかないことに気が付く。


 身体中の細胞が過度の消耗に悲鳴を上げている。

 私は震える手から刀を落とし、震える足でそのままふらふらとその場に倒れ込んだ。


 苦しい。


 ぜえぜえと息を吐き、吸い、傷んだ喉から血が零れてくる。

 地面にぽたぽたと血を垂らしながら、朦朧とする意識をなんとか現実に留め付ける。


 私はまだ休めない。

 戦うのを辞めるわけにはいかない。


 あれから、一体何日が経った……?


 おそらく一週間は経っていない。

 まだ私が生きているのがその証拠だ。


「"小鳥"殿は……ラピス殿の魔法は、やはり厄介にござったなぁ……」


 <<グレイブ・ストーン>>

 それは私がつい数日前まで所属していたパーティの名だ。


 "墓標"のグレイ・ガーランド

 "曇天"のケセド・マクガイエル

 "小鳥"のラピス・シェーンネルグ


 彼ら三人のうち、魔物を扱う魔術(テイム)に秀でていた魔法使いの少女、"小鳥"のラピス……。

 彼女のお陰で、ダンジョン全域の魔物が全て、私を狙って襲いかかってくるようになってしまったのだ。


「がッ……はっ……っ」


 折れて位置のズレていた脇腹の骨を無理矢理元の位置へと戻し、落としていた刀を拾い鞘へと収める。


 今の戦いで雑魚は全て片付けたはず。

 そして私はまだ生きている。


 顔を上げ見上げた先、巨大な黒鉄(くろがね)の扉が私の行く先に聳えている。


 この先にいるのが、ダンジョンの主獣(ボス)というやつだ。

 私はふらふらと立ち上がり、息を整え、黒鉄の扉のほうへと歩いて行く。


 足取りも意識もおぼつかない死に損ないの忍者が一人。

 こんな状態でとても主獣に勝てるとは思えないが……。


「為せば成る……為さねば成らぬ。何事も……」


 黒鉄の扉の前までやって来て、私はもう一度息を整える。

 そして、腰に佩いた刀の鞘をそっと撫でた……。


 もう、私にはこの刀しか残っていない。


 私の手が黒鉄の扉に触れようとしたその瞬間、その指は扉に触れることは叶わず、ただ中空を彷徨った。


「馬鹿な真似すんじゃねえ。死ぬぞ……」


 私の腕は掴まれていた。

 見上げた男の顔はぼんやりとしていてよく見えないが、まさか私が他者の接近に気が付かないとは……ここまで自分が弱っているとは思いもしなかった。

 しかし、なぜこんな場所に人がいる……?


 このダンジョンの出口はグレイの岩魔法によって完全に閉ざされているし、ケセドの結界によって、外部からこのダンジョンを知覚することはほとんど不可能な状態になっているはずだ。


 私は目を細め、黒髪の男の顔をじっと見つめる。

 焚火のようなオレンジ色の瞳に、クセの強い髪質。

 青白い肌は血管が目立ち、全体的に神経質で苛立たしそうな印象を放っている。


 敵……では無さそうだが、一目見て分かるほどのいかにもな善人という雰囲気もまるでない。

 考えても無駄だと思い、私は本人に直接問い質すことにした。


「貴殿は何者か? ここは人の寄るべき場所ではござらぬ。早く安全な場所へと離れることを勧めるでござるよ」


「あ? ……ったく、面倒だな。おい、どうするよフェリシア……」


 男は何もない空間に何かを話し始めた。


「ああ、そうだ。……確かに俺が来た時にはほとんど魔物はいなかった。……あぁ。いや、確かに。それは……面倒だな。ああ、分かったよ。状況はまあ見ての通りだ。差し迫った危険はないと思うぜ。ああ、それくらいなら俺だけで対処可能だ。それでいい。分かってる、俺を誰だと思ってやがんだ……。あ? あぁ、帰りにウィスキーを一本だな。あ? 一本だ。一本だよ! 一本!! お前はいつも飲み過ぎなんだよ! 少しは俺の話を……! クソ……っ。分かった分かった!二本買って帰る!はぁ……ったくあの女は……。まあいい……」


 男は見えない何かとの会話を終えると、こちらのほうへと視線を向けた。


「お前……この魔物は、お前が全部殺ったのか……?」


「……貴殿には関係の無いことでござる」


「お前がやったんだな……? なぜ早く脱出しない? それだけの力があれば、こんな状況どうにでもなったはずだ。答えろ。なぜ外に出ない」


「……」


 男の問いに私は顔を伏せた。

 彼が一体何者なのか分からないが、これ以上時間を無駄にしたくない。


「ここは…………」


 私は口を開き、このダンジョンの真実を語り始める。


「ここは……ダンジョンごと、周囲の街ごと消し炭に変える……()()()()()()()()()()()()()()()

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