3.それは突然に
ぁ、そんなこんなで俺は着実に王子になるべく英才教育を受ける日々を送っていた。
隠れてお城から脱出して勝手に冒険したり…
街はずれの森に秘密基地を作ったり…
そうそう、宝の地図を解読してお宝さがしにも出かけたかな。
ぶっちゃけ異世界に転生したのは良いものの…
コレといった大きな目標を未だに見つけられていなかった。
だけどある日を境に、俺はこの世界での目標が出来た。
それは、俺が6歳の誕生日を迎えたある日、とてもとてもきれいな満月の日だった。
────満月の日────
「急げ急げ…‼」
「兵を集めろ‼西の方角から攻めてきたぞ‼」
「早くしろっ…‼時間がないぞ‼」
満月の日は決まって慌ただしくなる。この世界では、満月の夜という日はとても恐れられている。理由は簡単だ。天界から“神様”が攻めて来るからだ。
満月の夜になると隣国全ての国は神様の攻撃に備えて警戒態勢となる。
とは言っても人族の国フォテネと隣国7か国…要は8か国の内から毎月どこかの国がランダムで神様から襲撃を受けることになるから、毎月必ず襲撃される訳では無いけれど…
いつ神様が攻めて来るか分からないから、油断はできない。
俺も戦おうとしたけれど、満月の日はメイド長のナミに地下王室へ連れられていたから、その神様とやらを見たことがなかった。
ただ、神様の襲撃を受けた街を何度か見たことがあったけれど…悲惨なものだった。
壊れた城塞、焼き払われた家々、運ばれる負傷者の数々…
神様は満月が現れると国を荒らすだけ荒らして満月が沈むと帰って行く…
まるで“ゲーム”を楽しんでいるかのように。
…。それって神様って言えるのか?
そんなことを考えながら俺は地下王室でいつものように本を読んでいた。
そのときだった────
「爆発だぁぁぁぁ‼」
「衝撃に備えろっ‼」
「その方角は不味い!!王子を守れ────」
大きな爆発と共に、城の一部が崩壊して初めて…生まれて初めて戦場というものを目の当たりにした。
燃え盛る炎、崩れていく建物、倒れた兵士達────
そんな中、俺は背後から誰かに話しかけられた。
「見つけたぞ────エル王子。」
思わず振り返るとそこには白い天使のような翼、神々しい光。しかし、その姿は返り血で赤く染まっていた…一人の男が立っていた。ただならない雰囲気…不味い。
俺は無意識にスキル、ガウ神の加護を使い目の前の男について調べつつ身構えていた。
検索結果────…ゼウス。
ゼウス、最高神にして全能の神…漫画やゲームでもお馴染みのキャラクターだけど…目の前で直接会うことになるなんて思わなかった。それに、いきなり最高神のお出ましかよ…こう、ゼウスなんてビックネームは最後らへんに出て来るものじゃないのか…?
いや、そんなことを言ってる場合じゃない。
それにしてもこいつが…“神様”か。このゼウスが、満月の日が来る度に多くの命を…そう思うと俺はじっとしていられなかった。俺は落ちていた剣を手に取って…構えた。
「お前が…“神様”って奴なのかよ。」
「その通り。私は“ゼウス”…この世界に君臨する管理者さ。」
凄いプレッシャーだ…全身の毛が逆立って口の中が乾いて仕方がない。
こんなにもプレッシャーを感じたのは新人社員の時に社長の前でプレゼンをした時以来だ。
思わず握る剣に力が入ってしまう。俺はそんなプレッシャーの中、口を開いた。
「ずっと思っていたけど有り難くない神様だな。ゼウス…って最高神のことだろう?それなのに国を襲撃したりって…ただの盗賊じゃないか。」
「君には私の考える崇高な計画は…理解できないさ。それに今回の目的は…君を抹殺することが目的なんだ、エル王子。」
…。は?書物で存在自体は知っていたけれど初対面の神様…このゼウスにいきなりそんなことを言われる筋合いは無いはずなんだけれど。それに向こうは俺の名前を一方的に知っているだなんて…神様にはプライバシーってのは無いのかよ。まぁ、スキルで素性を調べようとした俺が言うのもアレだけど。
「じゃあ、死のうか…エル王子。」
「スキル…発動ッ────!!」
その言葉を聞いた瞬間反射的に3つのスキルを発動させようとしたが、それもむなしく手にしていた剣はゼウスとか言う神様に軽く一払いされ、スキルを使用する間もなく右肩と脚を切り付けられていた。生暖かい感覚と共に俺は大量に出血していた。
「3神の加護────か。それが無ければこの程度なのか…?あっけないな。」
「う、うぁぁぁぁぁぁぁっ⁉」
見えなかった。ゼウスが剣を振る瞬間も、俺が切り付けられる瞬間も一切、何も見えなかった。スキルを発動させる暇もなく…重い一撃をもらっていた。
くそっ、俺のスキルについてもお見通しなのか?流石全能の神…って褒めてる場合じゃない!!
ただ幸いなことに、ドゥビット神の加護のお陰か、致命傷は避けれたらしい。だけど…これはやばい。本気で殺しに来ている。あの目は人を殺すことを躊躇しない目だ。
それに、さっきの一撃で分かった、力の差は歴然だ。このままでは俺は死ぬ…間違いなく殺される。
加えて、周りには誰も助けは居ない。俺の剣も吹っ飛ばされた上に、右肩と脚を負傷してしまっていて体も動かない。まじか…俺はこんな神様に殺されるのか…?
くそっ、だけどこんな所で諦めるもんかよ…‼こんな神様が許されるのかよ…‼
俺はふらつきながらも再び剣へ手を伸ばす。しかし、それと同時にゼウスが大きく剣を振り下ろし、俺が思わず両目を閉じた瞬間。
ガキンッ────
鈍い鉄の音がした。
「よぉ、神様。…追いついたぜ。」
俺に振り下ろされるはずの一振りは、赤いマントを着た騎士が剣で防いでいたのだった。
え、助けてくれたの…か…?それに…沢山の足音がする…え、援軍…?
「────。よし、各人作戦通りに頼む!!」
俺は思わず目を丸くしていた。赤いマントを着た騎士が他の皆に指示を出していたのだけど…援軍は援軍でも、多種族混合の援軍だったからだ。
今もなお、隣国は自国の整備や警戒に追われていて、他国へ援軍を出している余裕なんてないはずだ。それに、今ではフォテネを含めた8か国が最低限の交易しか行っていない…こんな状況で多種族の援軍だなんて…。とても信じられない状況が目の前に広がってる。
昔、俺はガウ神の加護で調べたことがあった。8か国が平和協定を結ぼうとしたけれど、結局その協定が締結されることはなかった。
理由は、戦いの無くなる世界を神が受け入れられなかったらしい。その平和協定を気に入らなかった神は満月になると戦いを求めて8か国を襲撃するようになった…そしていつしか被害がこれ以上広がることを恐れて8か国は互いに手を取り合うことを辞めた…。だから多種族でこんな風に援軍に駆けつけたりする事が…信じられない。
でも今、目の前には多種族が力を合わせた連合軍がその神に立ち向かって…いる…
ダメだ、意識が遠くなる…せめてこの人達にお礼を…言わなくっちゃ…
────…
…。
お礼を言おうとしたが…次に目が覚めた時にはベットの上だった。
薄っすらした意識の中、メイド達の噂話が聞こえてくる。
「聞いた?昨日のさすらいの冒険者達のこと」
「聞きましたわよ、赤いマントの冒険者ですわよね?」
「それに、負傷者もほとんど居なかったそうよ?」
「多種族で組まれた冒険者だなんて…世の中捨てたものじゃ無いいですわね」
「それにしてもあの冒険者達どこに行ったのでしょうね…」
そう、その赤いマントの冒険者達のことはあっという間に噂になっていた。あの冒険者達は本当に何者だったんだろう。そして気を失う前にこう…言われた気がする…ある言葉。
「忘れんなよ、この背中をよ────」
そう…言われた気がした。言われなくたって忘れられるはずがない。
俺はあの背中を追いかけないといけない。
その日を境に俺は決心した。
俺もあの人みたいに、誰かを守るような強い冒険者になる────