1.処刑執行
どうやら俺は赤ん坊に生まれ変わったらしい。それも異世界の赤ん坊に。
そして俺はそのまま別室に運ばれ、他にも沢山の赤ん坊がいる部屋に寝かせられていた。
ここは産婦人科か何かなのだろうか?異世界にも産婦人科みたいなものがあるのか。
産婦人科自体には行った事がないけれど、病院特有の薬品の匂いがする。
この匂いを嗅いでいると、幼い頃に注射を嫌がって病院内を逃げ回っていた時のことを思い出す。確か母親に凄く怒られたっけ…懐かしい。
いや、転生前の思い出に浸っている場合じゃない。
少し…いや、大問題が発生した。
さっき、若い男の人が巡回みたいなことをしていたのだけれど…俺を見るなり驚いた表情をすると同時に、いきなりこう言ったんだ。
「此奴を死刑にせよ───」
え、ちょっと待って。死刑?噓でしょ?転生した矢先いきなり死刑ですか、そうですか。
…。
転生していきなり死ぬの?そんなことってある?まだ俺赤ん坊だよ?
いや、転生する前はくたびれた何処にでもいる普通のサラリーマンだったけれどさ。
赤ん坊に向かっていきなり死刑宣告することなんてある?
いや、現に目の前で実際に死刑宣告されたんだけどさ。
それに何で俺は死刑になったんだ?この男の人に小一時間問い詰めたいのだけど…
もしかして前世の行いが良くなかったのか?最近は誰かに怒られるようなことはしてないけどなぁ…
「此奴は神々の加護をその身に宿してない…他の我が子らは白髪に二色の眼をしているが、此奴だけは黒髪に黒い瞳…悪魔の子だ‼」
…。なんとなく自体が飲み込めた気がする。
俺の黒髪と黒い目が受け入れられないらしい。
それに悪魔の子って…俺も好きで黒髪黒目に転生した訳じゃないんだけど。
転生していきなり死刑だなんて…それは理不尽なんじゃないの?
しかも髪や目の色で死刑宣告されるなんて思ってもいなかったし。
というより、転生しても俺は黒髪黒目なのね。鏡で自分の姿を見てないから何とも言えないけど…転生してもその辺は変わらなかったんだなぁ。
嬉しいような、でも転生するなら茶髪や金髪でも良かったな、なんて。
あぁ、でもそんなことを考えるのがどうでもいいくらい…急に眠く────
────…
気が付くと俺は本当に処刑台の上に寝かせられていた。
処刑台…こんな絵にかいたようなギロチン台は教科書や漫画でしか見たことがなかったけれど、まさかこんな形で実物を見ることになるなんて…ちっとも嬉しくない。
いや、本当に死刑なのか?こっちとら本当にただの赤ん坊だぞ…⁉
そんなことを考えていたら処刑台に取り付けられた大きな刃が高く高く掲げられて…
いや、まさかいきなり死刑、それもギロチンの刑に処されるなんて思いもしなかったな。
こういうのって、転生した普通の人が勇者になって世界を救ったり、お姫様を助ける冒険に出たりするものだと思っていたんだけれど、そっか。現実が理不尽なのは異世界も一緒か…
「それでは悪魔の子を処刑せよ───」
まさか、死んだ直後にもう一回死ぬことになるなんて────
折角なら前世でやり残したことを色々とやりたかったし、この異世界って言っていいのかはアレだけど、冒険したりしてみたかったな────
ん?なんだか騒がしいな。
「おい、見ろよ空の色が────」
「なんて不気味な色の雲…」
「悪魔の祟りじゃ…‼」
俺も正直びっくりしていた。空がこんなにも不気味で恐ろしい紫色に染まるなんて。
しかも処刑が始まるタイミングでこんな────
「うろたえるな‼早く刑を執行しろっ…‼」
俺に死刑宣告をした男の人がそう叫んでいる。いや、見ての通り天気も悪いし死刑延期にしたりしませんかね?いや、もっと言えば死刑宣告自体無かったことになりませんかね。なりませんよね。デスヨネ────
そんなことを考えている内に、処刑の準備が出来てしまったらしい。
あぁ、あまりにも短すぎる第二の人生だった────そう覚悟した瞬間。
空は紫色の雲に包まれて、激しい雷が降ってきた。
そのまま雷が俺に落ちて来る…⁉う、うわぁぁぁぁぁぁ⁉
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
俺は叫び声を上げながら目を覚ました。するとベットの上から転がり落ちて床に背中を打っていた。痛い。
此処は…俺の部屋か?それにさっきのは夢か?
色々と混乱しているな、え─っと…
うん?廊下からドタドタ何かが走ってくるような音がする気がするな…
「王子⁉王子如何いたしましたか⁉」
どうやら俺の叫び声を聞きつけて、使いのメイドが駆けつけてきたらしい。
いや、そうだ。漸く色々と落ち着いてきた。
今の俺は…ある国の王子だったんだ。そう、転生した俺は一国の王子になっていたんだ。
そう、此処は多種多様な種族が共存する世界。
そして俺は人族第一王子、エル・アレキサンドロス。
異世界に転生して、更には女性でありながら…王子になったんだ。