Ⅺ
ベランダの横に設置してある小さな部屋には、洗濯室であり、洗濯機と洗剤などが置いてある。棚をあさるが、それ用のものが見つからない。
二階に降り、リビングに向かう。
「なぁ、栞。臭い消しのスプレーって、どこに置いてあるんだっけ?」
「あれね。確か洗面所にあると思うよ」
「分かった。ありがとう」
俺はそのまま洗面所に向かう。
「あっ! 今は!」
栞が何を言おうとしたのか、俺はそれを聞かず、訊き返そうともしなかった。
そして、洗面所の扉を開ける。
「ええと、確か……。——えっ⁉」
俺は、言葉を失う。
なぜかというと、そこには生まれたての姿をした少女が、タオルで濡れた髪を拭いていたからである。
「あ、あれ?」
俺はガン見というか、上から下まで全て見てしまった。
「あちゃ~。遅かったかぁ……」
栞がこっちまでやってきて、額に手を当てながら、はぁ、とため息を漏らした。
「い、いや……。これはですね。何と言いますか、事故です、事故! 覗くつもりはなかったんです。ごめんなさい!」
俺は反射的に言い訳をしながら謝った。
「きゃっ!」
少女は、タオルで自分の体を隠そうとするが、タオルが小さすぎて、隠れていない。
「きゃっ?」
俺は、彼女の言葉に首を傾げる。
「きゃぁああああああああ! 変態っ‼」
と、言いながら、俺の腹の位置をピンポイントに思いっきり右足で蹴った。
「ぐへっ!」
俺はそのまま壁に激突し、強く頭を打つ。
「お兄ちゃん……」
栞は、俺の方を見下しながら、それ以上、何も言わなかった。
これはご褒美なのか、それとも、地獄だったのか、考えるのも面倒だった。
ラブコメの神様は、どうやら、俺には厳しいらしい。
「あいたた……」