Ⅴ
「ちょっと待て! 今度の相手は上級生かよ!」
「それも、もろスポーツ系女子って感じね。これじゃあ、坂田君には、勝ち目ないわね」
「そうだよな。俺、モテないし、運動部じゃなくて、人気のない文化部の部員だもんな。って、勝ち目がないって、どういうことだよ……」
俺はその発言者である富山を見る。
「これを見なさい」
富山は、犬伏の資料を手にして、俺の前に近づけ見せる。
「この学校の女子バレー部は、そこそこ強豪なの、それに彼女、県代表にも選ばれるくらいの選手で、男女問わず、ファンは多い。彼女のつけられた二つ名は、『ホワイトウルフ』」
「へぇー、富山、なんで、お前がそんなに詳しいんだ?」
「え? まぁ、これも仕事の内だからね。私だって、調べるときはあるわよ。悪い?」
「いや、それにしてもそこまで調べる必要性がどこにある。普通でいいんだよ。普通で。なんだよ『ホワイトウルフ』って、中二病かよ」
「中二病っていうよりか、高三病ね」
「なんだよ、高三病って、そんなのねぇーよ」
俺は、それを聞いて呆れ果てた。
「まあ、まあ、その辺にしておきましょうか。それで、今回の相手は、辻中さんより厄介というわけです」
「あの……。私より厄介というのはなぜでしょうか? 天使化はどれも同じだと思うのですが……」
犬伏の言葉に葵がどういう意味なのか、疑問に思い、質問する。
「そうですね。確かに天使化の暴走は、どれも同じく厄介ですが、それまでのタイプが違うという事です。辻中さんの場合は、僕たちと同じ学年で、その上、同じクラスだった。それだけで意外と、やりやすかったと言ってもいいでしょう。ちょっと、言葉に嫌味があるかもしれませんが、聞き流してもらえると助かります。それに性格もありますね」
「なるほどです」
「でも、今回の相手は、学年は一つ上の三年生。それにスポーツ系少女。さっき、富山さんが言っていましたが、男女のファンが多いのは本当ですよ。坂田さんからしてみれば、高嶺の花ですね。どうしましょうか?」
「いや、『どうしましょうか?』じゃなくてなぁ……。そこは、お前が考えるところだろ? 俺に聞くなよ……」
本当にどうしましょうか、だよ。相手は年上のお姉さんだぞ。勝ち目ねぇ―じゃん。終わりだよ、終わり。十対〇のコールドゲームだよ。
なんで、天使は、そんなに難易度の高い恋愛ゲームをさせるんだよ。PV詐欺だよな。