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「ええ……。それは大丈夫だけど、体の方はいいの?」
「欲を言えば、死んでないだけましかな? まさか、本当に身体に影響しているとは思わなかったけど……」
私の方を借りて、坂田君は左手で腹を抑える。
「で、葵は、いつになったら目を覚ますのよ」
「ああ……。そろそろ、目を覚ますだろうよ。ちょっち、アリエスと話でもしているんじゃないか?」
「天使と?」
「そうだ。一応、あいつが手伝ってくれなかったら葵を助けることもできなかったからな」
「そう……」
彼の横顔を見て、私はなぜか、言葉が出なくなった。
ここはどこでしょうか? あれから時間がどれくらい経ったのか、分からない。
「確か、あの後、戻ってきたはずなのですが……」
『どう? 体の具合は? 少しは楽になったでしょ?』
起き上がると、目の前には私が立っていた。
ああ、これは私の姿をした天使、アリエスだ。
「どうして、私の前に現れたのですか? 私はそろそろ目を覚まさないといけないのですが……」
『そうね。でも、その前にあなたと話をしておきたいことがあったの』
「話、ですか……」
私は、少し心配になる。アリエスが何を言い出すのか、怖いのだ。
『今回、私はあなたの願いを聞いてあげたけど、でも、聞けなかったわ。ごめんなさいね。私はどうやら、あなたを見捨てることができないらしいの。私はあなた、あなたは私。この意味が分かるわよね?』
「はい、なんとなくですが、分かる気がします」
『それならいいわ。私達以外にも似たような境遇にいる人がいる。でもね、私はあなたに宿ってよかったと思うわよ。それなりに楽しそうだし』
アリエスは、私の方に近づいてきて、両手で頬を触り、おでこを当てる。
「あ、あの……!」
『大丈夫。これは私の力がほんの少しだけ取り戻したから、あなたに預けておくわ』
「力、ですか……?」
『そう。力とは、暴力で解決するものではないの。私達の愛の力は、幸せという名の力で増幅する。力を誤った天使は、地に落ち、やがて空へ飛び立つことはできない』




